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LR  作者: 闇戸
六章
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地祇の王と連理の剣聖(幕間Ⅱ)

「伝来。一部召喚――大雷神!」

 極太の雷光を右手に掴み巨鬼の下肢を薙ぎ払う。

「呼神――賀茂別」

 雷光が無数の雷雨となって降り注ぎ、巨鬼から生み出た鬼を炭化させていく。

「なゐふりて裂く」

 一点集中の地震が、地を割き巨鬼の右足が裂け目に落ちて体勢が崩れる。

 立つ場所が影で覆われる。見上げるまでもない。巨大な掌が振り下ろされてきている。

「風祝」

 上昇気流を生み出し掌を押し戻し速度を落とし、その間に膝を付いた左足へと跳躍。出現させた生弓を番えて地を叩いた掌を撃ち貫く。神気の爆発で掌が鬼となって弾け、大きさを変えて再度振り上げられる。

 遠めから見れば巨鬼の形状は所々で大きさが違い酷く歪だろうが、そんなことを考える暇はない。明確な敵意を以て巨鬼は勇を攻撃しているのである。


勇【やはりまだ出力が安定しないな。数撃てばにならざるを得ないのはさすがに】

事【とはいえ、現在の神州にこれほど神技を乱発する超越者はおらんがな】

勇【もっとおとなしくやらないとバレるかな?】

事御因【さすがにバレてないと思ってる方がおかしい】

因【てか、さっき雷神さんの力使ってましたけど、なんで八大で使わないんですか?】

事【黄泉の八雷神。今は行方知れずだそうだが】

勇【あ~、どこの国行ったんだったっけなぁ。姉貴に聞くのと日崎さんに聞くの、どっちがいいのかねぇ】

 教えてくれる可能性は低い。

勇【ミスロジカルで接触してるから経路辿れば神技の一部召喚程度なら可能だが、全体はさすがに無理――てことは、全体にアクセス出来ないような地にいるってことか】

因【神州離脱の神々ホント多いですよねー】


「呼神――すせ……すせ……うん」


勇【奥さん呼ぶのやめとこう】

御【状況考えろよ?!】


「呼神――真神!」

 何も起きなかった。

「あれ?」


事【思い出した。今、狼連中は大わらわでな。甕星の眷属をやっていたヤマイヌの隠れ里が神祇院に襲撃されて、まあ、同胞の一大事だとそれどころではない状態だ】


「先に言ってくれ。呼神――綿津見!」

 周囲の水道管が破裂し水が纏まりやがて津波となって巨鬼の動きを抑制する。


御【ああ、狩られたのは天津甕星のとこか。あそこ、長いこと動きなかったが、なんかやったのかねぇ。だって、本人いまだお留守だろ? いたら反天津連中が静かにしてるっちゅうこたねえしな】

勇【それらしい人には会ってんだけどな。本人には誤魔化されたからよく分からん】

因【神様基本名前否定しませんもんね。名前って力だから】



 勇の戦闘風景を見上げる形になっている綾女は驚嘆していた。

(この戦闘能力って、うちの本気出した将クラスと渡り合えるんじゃ。

 本気を出してるようには見えない。本気を出したらどれほどの……)

 ただ、本気を出せるような状況がこの先来るのかと言われれば。

(なんて惜しい子)

 彼の能力を神祇院が放っておくとはまず思えない。

 友人の弟である。せめて、と綾女は熱源を細かく操作し、この場を映すカメラ関係を軒並み制圧している。この時代の防犯カメラは魔構であり、魔力関係を制御してしまえば制圧は容易い。その制御が難しいのだが。



「これでようやく元の半分くらいか」

 がんばって削り取った。しかし、巨鬼の核まではまだ遠い気がする。表層が流動していて神魂に当たるものが視えないのだ。

「正直手が足りないな」

 複数の神の力は使えても、出力先は結局一つ。


事【色々片付いた。手を貸そう】

御【なんだよコッシー。片手間だったのかよ】

事【スズの書類を揃えていてな。保護者の記入欄が意外に多い】

因【お父さん?!】

勇【保護者ってお前……いきなり日常的なこと言うなよ】

事【賀茂は何故か娘ばかりで、何をやるでも用意する書類が多すぎる。

  さて親父殿。そこいらにある葉を取るのだ】

 ああはいはい、と事代主の要望通りに砂塵に混ざって飛んできた草葉を手に取った。すると草葉から枝や蔓が伸び、全長1メートル半程度の人型植物へと姿を変えた。ちなみに、顔はない。そいつは軽く手を挙げて顔に当たる部分から葉を三枚外せばちょうど顔に見えなくもない。ならばあの手は右手だろうか。

勇【形代か。どうでもいいが、その顔怖い】

事【娘と同じ事を……。地祇の主神がそのようでどうする】

因【私的にも怖いですよ?】

事【若人共がっ】

 心なしか両目と思しき空洞がクワッと広がったように思えた。



 そいつは地面に隠されるよう設置されていた魔方陣を消し終えて伸びをした。利則の相方をしていた騎士鎧の黒衣である。

 後ろの方でピシャーンと雷が落ちた。

 振り返れば、陣を消す前は二つあった戦闘気配が一つ消え、巨鬼の周囲で見るも派手な自然災害を繰り広げるものだけが残っている。

「おお、減ってる減ってる」

 ウンウンと満足げに頷く。

「色々膨れた時には手伝った方がいいかなーと思ったけど、なんか平気そう」

 自らの装備を見下ろす。

「しっかし、なんで騎士鎧なんか着てんだろう? 動きづらくて嫌なんだけどなぁ」

 ヨイショとガランガラン重い部分を脱ぎ落としていく。

「今までも動きづらかったはずなのに脱がなかったのをみると、やっぱアレかな? 現状変化への忌避みたいなプログラム? うーん。自分の状況が分からないって、ホント嫌だなぁ。

 メディアさんなら解明してくれるのかな? エロ爺とか。まあ、帰れるかどうか分からないけど……。

 うっし、こんなもんかな」

 黒衣をマントのように切り裂きたなびかせ、下の甲冑部分はチェインメイルと具足のみ残して地面に放置した。騎士槍は背負う。ないよりマシだ。

 大分身軽になった。

 ただ仮面は外せそうにない。何度か手をかけてみようとしたが、外そうとする意思自体が剥がされているようだ。

 ともあれ、と周囲を見回す。

「神州かー。知り合い一人しかいないんだよね。お侍さん以外で。いや先生も神州人だっけ?

 テンプラたべてみたーいは置いておいて、はてさて、陣は全部消したはずだけど。サーチ・エーテルっと」

 都市一つ分程度に出力を抑えて探知魔法をかける。

「神祇院の仕掛けた陣はなし、と。であとは……ん? んんん??」

 あれ? と首を傾げる。

 知った魔力があった。記憶に齟齬がなければ、間違いなく、知り合いの神州人のものだ。

「結局国に戻ったってこと? そういう奴じゃなかったと思うんだけど。で、この反応だと戦闘中? 戦闘中か」

 お侍さんこと利則がいると思われる対鬼の戦場を仰ぎ見てから、そちらには背を向ける。

「うん。なんか現状不明だけど、元相方の一人としては、そっち優先かな。

 アレからナニがどうなってるのか。アイツなら多分教えてくれる。今ならきっと」

 割れた仮面をコンコンと叩く。

「今ならきっと、嫌な命令には抗える気がする。ホント、あの、お侍さんのお友達さん? よく割ってくれたって感じ。てか、どこのか知らないけど、眷属強すぎでしょ。

 眷属こわーい。あんなので国動かしてるとかインドこわーい」

 やだわー、まじやだわー、とぶつくさ言いながら、高く跳躍した。

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