EastEndQuest_R4
パチンコ屋と雑貨屋の入ったビルの上から、午前中にもかかわらず人通りの多い町を見下ろしながら、セイジは缶紅茶を開ける。見えているのは人ではなく、明け方から自分が刻み引いた常人には見ることが出来ない琥珀の魔方陣。
(まさか自分で使う羽目になろうとはな)
空いた手が、自然と鳩尾を触れる。この身に使われた呪法ではないが、魂がそれを覚えている。神魂を二つに割られた感覚を、転生した今でさえも覚えている。
吐息。頭を振る。感傷の時間ではない。
眼下を夏紀と雛が、人を避けながら走っていった。昨晩言いつけた作業の真っ最中である。
今朝になって自警団に顔を出した団員にも幹部クラス以外には話を通さない方向で決まった。ただ『凶悪な幻獣が出現する予測が取れたため武装して待機すること』という命令は出されており、UDXの広場では完全武装の自警団団員が待機している。
そろそろ箱船へと戻るか、と大通りに背を向ける。
(アヴェスタの悪に対する攻撃手段は火しかない。だが果たして、ただの火でどれほどの効果があるだろうか)
アゼルの火は威力という点においてはすさまじいものがあるが、対象が特殊な属性を持っている場合にはどの程度まで落ちるものかは、実践で確かめるしかない。
(この手の存在を相手取る場合、浄化の力を持った者が必要だが……)
真っ先に思い浮かぶのは"彼女"のこと。すぐに頭を振る。夏紀と雛の話に寄れば、"彼女"は今日、九曜頂の会合とやらで忙しいとのことだ。会合相手の要望で九曜・日崎の関係者である夏紀と雛は今日一日護衛を外されたと。
(彼女の力は邪を寄せつけない浄火だが、頼れない力を想定してもしかたがない)
吐息。肩を落として階下へ。その背後、地上では路地からその"彼女"が飛び出してきて周囲を見回し、やがて南へ向かって歩いていった。
「13時か。予定だとこんくらいだったよな?」
「そうだね。時間は多少前後するみたいだけど……と、水城さんの詠唱が始まったよ」
ほら、と弾吾の指す先を見て、王空は「ほお」と漏らす。JR秋葉原駅前の広場の中央にて、雛が詠唱に入ったのだ。
「我、北辰の独神に望む」
「右に明星、左に夕星」
明星という単語にここで待機する自警団団員達が雛に視線を向ける。十人中十人が、明星といえばルシ様か! と反応した。
「やれやれだな」
アゼルは団員達の反応に肩をすくめる。
「日本人というのは、どうしてこう、天使だの堕天使だのが好きなのかねぇ。そこは年月経っても変わらねえんだな」
「じじくさい」
「うん、ジジ臭いね」
頼華がヒルダの言葉に頷く。頷きながらハンドヘルトPCを起動する。画面に『Fantasy is borne by language and results to writing. 』と浮かび上がったかと思うと、ザザッと砂嵐が混じった。
画面の様子に「壊れた?」と首を傾げながらPCをベシベシ叩く頼華とは対照的に、アゼルとヒルダの表情が強張った。
「来るぞ」
「離れろ」
アゼルとヒルダが頼華を背中で押して下がらせながら臨戦態勢に入る。ヒルダが臨戦態勢に入ったのを見習って団員達も構えだす。そして、雛の足下の地面が氷結したかと思うと秋葉原全域が真っ白い光に染まったのとほぼ同時に、空が真っ黒いモノに覆われた。
上を見た者は、真っ黒い壁が落ちてきたのかと思った。面積的に、確実に圧死コース。悲鳴を上げるために口を開けた者すべてがソレを見た。中空に琥珀の地面が出現し、助走を付けるように走ってきた白い影が「フンッ!!」と肩までを覆うガントレットを装着した右で黒い巨体を殴りつけたのと、ガラスの割れるような音と共に巨体の姿がブレるのを。
瞬間、秋葉原駅前で待機していた面々はだだっ広い氷原で、山のように巨大な三頭六眼のドラゴンをバラバラに包囲した状態で意識を覚ました。
この時、中枢部隊のGPS反応が消え、同時に黒緑のドラゴンが出現したことで混乱したUDXで待機していた団員達は、緊急幻獣速報を流すに至っている。
「散開! 散開だ!」
王空の指示に従う団員達。王空の傍らにセイジが着地し、ダハーカを殴りつけた腕をそのまま地面……正確には展開している魔法に手を入れ、内包する仕掛けを掴んで引き上げる。氷原に氷柱によるビルが出現し、黒緑の邪竜を囲んだ。
「戦場の構築はこれで終了だ」
そう言ってから、セイジは少し長い溜息を吐いた。
氷のビルの隙間から攻撃を開始した団員とダハーカとを交互に眺めて、弾吾は感動したようで、目を瞬かせた。
「昔の怪獣映画そのものですね。確か、あんな感じのドラゴンも出てましたっけ。金ピカで後ろ足で起っきしてましたけど」
「暢気に怪獣話してねえで、弾吾も行くぞ!」
「あぁ、待ってくださいよ~」
ライフルを構え王空と弾吾が走っていった。弾吾は某怪獣映画を例にしたが、実際のところは後ろ足は生えてはいるが位置的に見えず、三首西洋竜が前足で上半身を起こしていて、その胸と首が見えているのみだった。頭の部分を見上げると首が痛くなるほど遙か上である。
残ったのはセイジと魔力コントロールで結界維持に入った雛と、雛を護るように立つ夏紀と勇。
セイジは琥珀の魔鉱剣で雛の四方を剣線で囲い、琥珀色の壁と天井で覆う。
「これでヒナは大丈夫だ。君等も火力に加われ。」
「承知しました」
その言葉を待っていた、と夏紀の姿が消える。消えたように見えるくらい早く、戦場へと走っていった。
「それじゃ、俺も行くとするか」
ヨイショ、と原始的な矢筒を背にし左に古ぼけた和弓を持つ勇。
「てっきりヤジリ代わりにマテリアル括りつけて射るのかと思ったが」
「そんな破産まっしぐらなことやらないよ!?
でもこの弓も、今の時代に買ってたら破産モノなんだけど」
勇が掲げた弓を視て納得するセイジ。
「なるほど、霊弓か」
LR以前であれば、妖しい雰囲気の骨董品でやっぱり怪しい値段だったかもしれないが、この時代なら、幻獣殺しの特効品としてLR以前とは桁違いでも買い手はいくらでもいる。
九曜・霧崎が保有する蔵にはこういった霊性の強い武具、主に武器が多く所蔵されている。勇が姉に黙って勝手に持ち出してきたこの弓もその一つである。『火車落とし』なる名前で、要は悪霊を射殺……もとい除霊する武器だ。
「さて、制空権取るか」
じゃあな! と勇はビルの氷壁を走って上っていった。
勇の心配は不要と判断し、自分も戦列に加わるかと身構えたセイジは、ふと結界の南側を振り返る。
(半身の気配が近づいている?)
勾玉に封じられているため気配は微弱だが、徐々に近づいてきているような気がする。気張っていなければ見逃すほど微弱。封印されているのだから微弱なのも仕方がない。しかし、問題はそんなことではない。
セイジは戦闘の始まった氷のビル群とその隙間から見える黒緑の巨体に顔を向けてから、数秒の思案を経て、結界内から姿を消した。
万世橋手前の高架下で、よろめいた少女が倒れぬようその背を軽く支える。支えられた方はその感触に「え?」と反応する。少女、天宮璃央の反応にセイジは吐息で応じ、反応の前に思った感想を口にする。
「護衛している時にも思ったが、君、もう少し体勢に安定感を持った方がいいぞ」
聞こえてきた声に、璃央は勢いよく振り返った。セイジの姿を正面から捉え、顔が思わず笑みを作ろうとしたのを思いとどまり、柳眉を逆立てることにした。
一歩前に出て距離を縮め、人差し指を白い胸元に突きつける。そう、怒っているのだから当然この行為。絶対必要なのだ。けして、顔のよく見える位置に行きたかったわけではない。そんな建前がほしかった。
「ちょっと、星司さん? この騒ぎはあなたが元凶?」
お元気でしたか? これは、違う。
妹との関係は? 聞きたいけど、後で問い詰めよう。
日下真咲の近況は? 気になるから、これも後で。
どうしてここにいるのか? それはきっと、またクエストなのだろう。
だから、今あるこの異常事態との関係を聞こうとして……詰問してしまった。
(し、しまったああああああ)
脳内で、天照乙女日記を小脇に抱えた璃央が頭を抱えて叫んだ。
「ふうん。ヒルメは異様に鈍感だったにもかかわらず、君はそれなりに勘がいいんだな」
現実でも叫びそうだったが、セイジの感想を聞いて引き戻される。
「勘が……いい?」
「それなりに、だから、惜しい。半分正解」
「元凶が正解と」
セイジの片眉が跳ね上がる。
何の躊躇もなく、流れるような動きで、璃央の頭を左右で挟むように手をかざし、こめかみをグリグリと攻めた。
「あ!? いたたたたたたたたた」
「違う。どうしてそうなる…………あぁ、失礼」
攻撃がやんで、璃央は涙目で頭を抑えた。
「顔が同じだからな。つい手が出てしまった。恨むなら妹を……、いや、こんな話をしにきたんじゃない。悪かったな」
「い、いえ、私も何故か軽口が。すみませんでした」
揃って頭を下げる。
「今、あの町全域を結界で封鎖して、自警団も巻き込んで大物と戦っている最中でな」
「大物ですか」
うん、と頷くセイジ。
「君の方は会合だったんじゃないのか」
「何故それを?」
聞いておいて、そういえば彼から預かっている護衛二人は自分の予定を知っていることに思い至り、その情報を彼が知っていることの理由に行き着く。
「桐生君と水城さんも?」
「がんばっている。特にヒナがな」
雛の魔法使いとしての性能は評価に値する、と。
「なるほど。
私の用事は終わりました。ここにはその……梧桐先輩を……」
「シュウ? いやそれは……」
言いかけて咳払いを一つ。話題と璃央の意識が向く先を変えることにする。秋を追わせれば、こちら側へ向けての結界が無駄になってしまう。
「君、さっきこの先に進むのを躊躇していたな? それは俺が護衛していた時に遭遇したアレが原因だろう?」
末広町の虐殺事件のことを示唆する。人々の逃げ惑う様が酷似していたから話題に出したのだ。実際、逃げる人々もその事件を思い出して必死だったわけだが。
「そうですけど、それが……」
「今現在あの秋葉原という町で発生している事態を収めることが出来なければ、君に躊躇を植えつけた事件よりも更に凄惨な結果となると予想出来るわけだが」
璃央は一瞬動揺を見せたが、小さく息を吸い込み、一度目を伏せて息を吐く。そして再度セイジの目をまっすぐに見た。
「話してください」
そこには、少し前に、焦がれる男性を相手に動揺したり軽口を叩いたりしていた少女の姿はなかった。
セイジは璃央の手を引いて結界の内側へと戻ってきた。
出現した存在が何者かと説明をするまでもなく、移動するだけで町を破壊出来る巨大な化け物を別空間に閉じ込めて退治中だ、と簡単に前置きを口にしただけで、璃央は即助力を申し出てきた。頼まれるまでもなく、そうすることが当然であると。そんな彼女の態度に、天宮璃央という少女ではなく、甕星としての自分がよく知る太陽神の姿を見たような気がした。
「相手は火が効くとのことですが、それはつまり、転神して一発大きいのをやれということですね?」
「違う」
背後で得意ぶった璃央に対し、セイジは即答で応じた。
「シフトはするな。集団戦をしているんだ、神化した状態でのデカイのやれば被害が大きくなる。それに、シフト後の負荷の問題があるのを忘れたか?」
せめて妹ほどには背を伸ばせ、と振り返りもせずに口にするセイジ。振り返らなかったから、妹を引き合いに出された姉が頬を膨らませたのが見えなかった。
唐突にセイジは足を止め、璃央はその背中に顔をぶつける。文句を言おうと横から回り込もうとして、正面を見て……上を見上げた。巨大な爬虫類の化け物が三つの口から火の玉や雷や吹雪を吐き出していた。思わず、唖然。「移動するだけで町を破壊出来る」が例でもなんでもないことがよく分かる大きさである。
ハッと我に返って、邪竜を視る。
「神魂がない? まさかこれで幻獣?」
「説明長くなるからそれでいいや」
如何にも適当な感じで応じたセイジはスタスタと。
「何ですか、その適当な解答は!?」
もう、と璃央は勢いよく溜息を吐いてその後ろをツカツカと。
氷の路地に入り、邪竜に向かって左側の首を見上げられる位置に立つ。よく見れば、邪竜は両目とも閉じて狙いもなく首を振り回している。視力を上げて更によく見れば、閉じているのではなく、破壊されていた。消し飛んでいた。形状がちょっと気持ち悪い。それをした張本人は、氷柱の上から上へと移動して攻撃している霧崎勇その人である。今はセイジ達から見て一番奥の頭の前にいるようだ。
(キリサキなら避けられるか。まあ……当たっても死なないだろ)
そんな割と無責任なことを考えながら、両手をパンッと合わせた。
(さて、計画変更の第一弾は……、どうやって怒らせるかだ)
ふむ、と手元で生じた熱を赤光に変えつつ思案すること僅か十秒に満たない時で、現状最も最善である言葉をかつて聞いたことのある言葉の中から引っ張り出す。それはこの場では必要かも知れないが、ハッキリ言って最低の言葉でもある。
「しかし君、そこまで色々ないと、かなり身軽だろうな。戦技の成績もそこそこか」
世間話だとでもいうような気軽さで発してからしばらくして、背後でプチンとそんな音を聞いたような気がした。
自分でやっておいてなんだが、勇はその気持ち悪さに思わず目を背けそうになる。
邪竜の眼球は魔力を込めた火車落としの霊矢を一本受けた瞬間、粉々になって消し飛んだ。眼球が消し飛んで空となった眼孔に無数の蛇が生えたのを、勇は真正面から見てしまった。一般に、視神経と呼ばれるモノが生きた蛇によって構成されていたらしく、眼球が消えて繋がる対象を失った蛇が相手を探してウネウネうごめく様は、ハッキリ言って気持ち悪い。半端無く気持ちが悪い。自身もよく蛇体となって美女と逢瀬を繰り返したものではあるが、こんなに気持ちの悪い存在ではないと断言出来る。否、断言する。自分はもっと否最高に美蛇だった!
「おっと」
慌てて隣の氷柱へと移動する。デカイ口に食われそうになった。邪竜は勇がいた氷柱を半ばまで咥えてへし折り、そのまま丸呑みしてしまった。
「あぶねえ。こいつなんでも食いそうだな。こいつを否定する前に、まずは倒さなきゃな」
しかし、と思う。
「今の時代、蛇じゃ女の子にはモテないだろうしなぁ」
【おい】
ぼやいた直後、作戦前にセイジから渡されていたインカムに、当のセイジから通信がくる。
【妙なこと口走ってる暇があるなら避けろ】
通信はたったそれだけ。
「避けろって……何を?」
なんなんだ、とキョロキョロ見回しても何もない。念のため、視直してみて……「げっ!?」と声を挙げる勇。
巨大な邪竜の頭と首で見ることが出来なかった向こう側で、超高熱の魔力の塊が……。
「――――まだ発展途上なだけだもん!!!!」
どこか遠く下の方で、そんな怒りと恥じらいの入り交じった場所にそぐわない台詞を響かせて、発射された。まだより前は聞こえなかったが聞いたことのあるような声だった気もする。しかしそんなことを気にかける暇はない。ソレは一直線に今目の前にある半壊した頭に向かって、途中にある他の二本の首を消し炭にしながら進んでくる。当たったら自分も同じ運命を辿ること間違いなしだろう。
勇は後ろへ、落ちるように下へと垂直に走って逃げる。すぐにもそばの頭といた場所が消滅するが、それを確かめる余裕はない。途中で先程邪竜に食われた氷柱の折れた地点へと着地して振り返る。
最初ここに出現した時は尾の先端まで含めて全長500メートルと報告のあった巨体は、だいたい半分近くなかった。直前に消し炭になった三首。右後足。尾は全損。首以外をやったのが何者かと視力を上げて見てみれば、遠目で見ても分かるほど紅蓮に輝く長物を杖にして片膝をつく少年と空を舞う火翼の黒と白翼の銀。飛んでいる二人は相馬頼華のお仲間なのだろうが、少年の方は間違いなく桐生夏紀か。
黒いガラスの爆心地作り出した武人二人の片割れだったよな、と苦笑を口元に作る。
「つうかあの武器、最後まで保つのか?」
また暴発するのではなかろうかと心配になってしまう。もっとも、暴発したら暴発したで最終兵器にはなりそうではある。
「ん?」
不意に気配を感じて、まだ残る首の先端へと首を巡らせ、あからさまに嫌そうな顔をした。生き残った蛇が死んだ蛇を後ろから丸呑みしていたのだ。頭と尾と右後ろ足を失った黒緑の蛇体が再生ではなく、再構築を開始した。それも思いきり気持ち悪い形で。
「ばかやろー! お前みたいのがいるから、神位を取り戻しても蛇達は化け物扱いされるんだ!!」
愚痴を叫びながら、勇は再び移動を開始する。新しい足場を求めて。
「こんなものか」
背後から襲ってきた恥じらいのブン殴りを回避したセイジの手元には、邪竜の三首を消し炭にした灼熱の極太レーザーの残滓が揺らぐ。
さて、と右に残滓左に琥珀を浮かべ――「ぐぁ」と呻いた。右の横っ腹に、右斜め後ろから伸びた女子の拳が、見事に抉り込まれていた。犯人は言わずもがな、天宮璃央である。残滓の総量がちょっと減った。
「……nice punch」
「思い知りました?」
「yeah。成長中成長中」
「連呼とか!?」
そういえばこの言葉を発した直後のホリンはボロ雑巾のようにされて捨てられてたなぁ、と。言われたのはアリシアで、ボロ雑巾にしたのはアリシアの取り巻き。たとえ本人が気にはしなくても、取り巻きが行動を起こすことは珍しくはない。取り巻きって怖い。
ともあれと、残滓を琥珀に吸収させる。
「更新完了。ラインハルト?」
【通信調整を更新。あ、ついでにマテリアルの更新も確認】
「ついで言うな」
【あいあい。チャンネルはそのままで行けるよ】
あの野郎、と箱船地下の隠れ書庫で観測全般を担当しているファンタ好きのドイツ娘への愚痴を漏らす。
「ったく。タカムラ?」
【おう。さっきのすげえのはなんだ? もう終わりか?】
「体積が減っただけだ、終わりじゃない。さっきのは確認を兼ねた試し撃ちだ」
【……あんたの?】
「まさか。俺はあんな恥ずかしいさけ痛っ」
つねられた。
「……」
【……】
しばし無言。そして誤魔化すように共に咳払い。
「昨晩配布したマテリアルは装備しているか?」
【可能性の一端て奴だな。もちろん。使用して消失しないとか謎一杯だけど、ちゃんと使ってるぜ】
「構成内容を更新した。浄化作用が向上しているから、奴に対する威力はそれなりに上がっているはずだ」
【それなりに、ね】
それなりと言われてもどれほどの向上かは当ててみなければ分からない。それ以前に、マテリアルを更新するということ自体が長年魔構を使い続けてきた者としては耳を疑ってしまう。
「キリサキ。上から見ていて自警団に口を出すことはあるか?」
【え、俺? うーん、そうだなぁ】
少しして。
【散開は当然かも知れないけど、距離が遠くなりすぎて攻撃が散発しすぎてる。
魔構銃はどのようなタイプでも溜めて撃つことが可能だから、溜める時間と部隊人数を考慮すれば三段構えで運用出来るよな――――と、九曜・天宮の日下真咲の案を流用してみる】
「マサキか。彼女はガンタイプの降神器の使い手で、実力も極めて高い。とりあえず仮採用でもしてみては?」
(マサキ? マサキってもしかして)
セイジの口から出てきた名前と特徴に、璃央は目を大きくする。銃型降神器とマサキの組合せなんて、神州では日下真咲しか思い至らない。
【溜め撃ちか。邪竜のでかさと怖さで忘れてたぜ。あ。こ、怖くなんてないんだからね!?】
【高村さん、気持ち悪いです。重ねて言えば、キモイです】
【……】
勇のツッコミに無言となるも、王空はすぐにも団員への指示を飛ばし出した。
「ナツキも聞こえていたな?」
【はい】
「そちらも更新した。改修後のシャクエンについては一応レンから聞いているが、マテリアルの情報が変化しても、ちゃんと魔鉱刃は機能しているか?」
確認しているのだろう、多少時間が空く。
(まこーじん?)
璃央には聞き慣れない単語だ。
【余熱は途切れることなく、そして、暴走の兆しもありません】
「うん。ではこのまま、全力で」
【はい。我が身焦がして全力で】
通信終了、と。
セイジは予備に所持していたマテリアルを璃央の手に握らせる。予備というか、邪竜の口に放り込もうとしていたというか。
「じゃ、君はコレで遊撃人員。OK?」
「あ、はい。OKです。
星司さんは……」
「俺は専門に打ち込む。防御とサポートと、ついでに切断だ」
邪竜は自らの体を変質させる。首の根っこの蛇は大口を開けて頭部の欠けた首を飲み込む。ジュルリと生理的に嫌な音が響き渡る。それは残った左後足の根元でも同じ。首と片足を飲み込んだソレは、まるで黒緑の卵に見えた。
「汚い温泉卵だな」
【やめろ馬鹿! 黒タマゴが食べられなくなるじゃないか!】
「表現が駄目過ぎる」
アゼルに、頼華からは通信で、ヒルダからはすぐ近くからのツッコミが入る。アゼルは近くを飛翔する女に顔を向ける。
楕円形の盾を左にランスを右に携えて、白鳥のような純白の翼を生やした銀の西洋甲冑を纏ったヒルダと目が合った。
「じゃあ、お前。あれは一体、どう表現すりゃいいんだ?」
アゼルに指差された物体を見下ろして一言。
「汚い黒タマゴだな」
【コラーッ!】
眼下にて、邪竜だったものからそお離れていない場所で、頼華が両手を突き上げて怒っている。いつも通りにマスターファッションの頼華は、ちょっと煤けている。
アゼルとヒルダは互いに指差して「「お前が悪い」」とハモった。どっちも悪い。
「まあいい。今の内に、もっと体積削っとこうぜ」
「激しく同意」
アゼルの案にヒルダが首肯した。
アゼルは両手に炎を生み出しナパームのように投下。ヒルダは槍の先端から光線を撃ち出して攻撃をする。彼らの攻撃には一切のマテリアルが消費されておらず、すべて自前の攻撃手段によってのみである。
彼らの戦闘方法を眺めていたセイジは、確かに他の降臨者と似てはいるが、ナニカが違うと思うのであった。ただ言えるのは、彼らに対してはセイジの援護は不要であるということくらいか。必要なのは自警団か。
楕円から更に体積を減らされながらも形状が再び変化を開始する。ただ巨大で、ただ的になるしかない形状ではなく、二足で起立したドラゴン。首の短い頭が一つ。しかし、前足が蛇。確かに三首三頭ではある。
(どこの化け物だ)
アレを、ドラゴンである、蛇であるなどと、認識するのを脳が拒否する。
(まあ、いい。問題は、二足歩行になったことで何が向上しているかだ)
思考の合間に攻撃が再開される。攻撃者達は、すぐにも邪竜が最初とは違うことを思い知った。攻撃を回避されるという事態によって。
勇による頭部への一射は首の蛇数匹を犠牲にして避けられ、尾を落とそうとした二翼は身を捻った邪竜の、鞭のようにしなった左腕に弾き飛ばされて氷柱に激突してめり込む。弾いたばかりの左腕が氷柱に絡みつき、めり込みから脱出したばかりの二翼に向かって巨大な口を開けて極太の蒼光輝くレーザーを吐き出し爆発を起こす。爆発は氷のレーザーブレスがアゼルの炎と接触してのものか。
【さっきのよりも俊敏だぞ!?】
【大丈夫だよ、王空。僕達はこのまま撃てば当たる。的が大きいことに変わりはない】
【いや、しかし】
【どこが急所か分からない以上、ひたすら体積を削ればいい。それが僕達の仕事だよ】
慌て気味の王空を弾吾がなだめる。弾吾の言葉こそが正解。
セイジは自警団が三段構えの最前列横に立つ。それは右腕の口が自警団へと向けて開かれたのと同時。最前列の三人が顔を引き攣らせた。
「構わず溜めろ」
言ってガーランドを一閃。横に刻んだ剣線を蹴り上げ、飛び出した琥珀の壁が発射された黄光のレーザーを防ぐ。レーザーの出力が弱まるのとともに壁を砕く。
「撃て」
三筋の赤光のレーザーがセイジの傍らを突き抜けた。赤光は弱まった黄光と一瞬拮抗したように見えたが、すぐに突き破り開かれた口の中に吸い込まれ、カッと光って右腕の邪竜の頭が爆散した。邪竜が爆発の威力で半歩下がる。セイジは傍らに残る余熱に左手を入れて拳を固める。拳を左下へ、身を反時計回りに捻り、振られた拳は人差し指から小指にかけて三枚の真っ赤な極薄の壁を余熱から引き出していく。
【なんだ、あれ】
そう呟いたのは王空か弾吾か。
自警団の目の前で、赤の壁が発射される。否、それらはただ、無造作に放り投げられただけ。壁が回転しながら飛んで、右腕の首の根元を半分ほど斬り裂いてめり込んで四散した。
「耐久度に難有りか。厚さを工夫しよう」
ふむ、と頷くセイジを、今まさに魔構のライフルを撃ち終わったばかりの面子がポカンと見つめた。それを尻目に、セイジは氷柱を走って上っていった。
上りながら横目で右腕の頭を破壊された邪竜を監察する。頭は破壊されたままで再構築が行われない。
(まさか、ある程度の体積が削られなければ、再構築は発生しないのか?)
正面、上へと向き直り、選んだ柱の上に勇がいることを視認。
「キリサキ! 右腕の根元を狙え!」
返事はなく、応答は攻撃によってなされる。矢は放たれ、右腕はブルンッと振るわれて回避したが根元までは回避出来ず、上から下へと貫通。斬り裂かれていた箇所が更に傷口を広げ、そこをちょうど、壁が斬り裂いた逆側から伸びた炎の蛇が根元に巻き付き、まだ残って胴体と繋がる場所を焼き斬った。犯人は璃央である。
右腕は宙を飛び落下しながら拡散して消える。それでも胴体は再構築が発生しない。前回の再構築は全体の半分以上が削れて発生している。
(今回も半分か?)
思案に耽る暇はない。中央の口が大きく開かれて、腹部が膨張を開始する。嫌な予感しかしない。
壁を引っ張り出して自警団の前へと落とす。続けて跳躍。邪竜の肩へと着地した。足下は無数の蛇。気持ち悪いがそうも言ってられない。肩口から体内を視る。凝視する。
(腹を膨らませているのはいずれの源理でもない。考えられる最悪は――――咆吼か!)
アジ・ダハーカを含む悪の陣営と戦うのは神だけではなく善なる人間も含まれる。人間という種に対する特効攻撃を持っていてもおかしくはない。
「エンチャント・ストレングス」
【司の息子! 奴の攻撃を止めるぞ!】
アゼルからだ。聞きながら円状の剣線を二重三重に刻む。
「そっちの案は?」
【奴の腹をぶち抜く!】
「同案だ。そっちはそっちで任せる。こっちは」
柄を両手で掴んで芯にして、頭上に振り上げる。
「準備完了だ」
「頼華!」
【転送したよ!】
アゼルの通信が来るまでもなく、セイジとの通信会話を聞いていた頼華はハンドヘルトPCを検索し終え、一つの項目で転送ボタンを押していた。アゼルの両肩にパリリッと一瞬電気が生じたと思うと二対のキャノン砲が出現した。
「いい判断だぜ」
左腕の邪竜をヒルダに任せ、自身は近くの氷柱の上へと降りて自分の腕を殴り刺してアンカー代わりにする。既に充填されているエネルギーに、更に自分の魔力を注ぎ込めば、キャノン砲が溶けだした。
「いくぜ!」
ズドンッ!!!!
閃光を放つと共に、両肩で爆発が起きて身体が爆圧と氷に挟まれて押しつぶされた。
轟音を合図に、固めた拳を剣線に、思いきり振り下ろす。こちらは音はしないが、二種の豪砲に世界が揺れた。
円の剣線から琥珀の杭が出現して邪竜の肩口に突き刺さる。
閃光が邪竜の左腕の首を巻き込んで脇の下ともいえる位置に大穴を開ける。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
邪竜は堪らず吸い込みを中断して叫ぶ。それは咆吼ではなく悲鳴。
琥珀の杭は邪竜を貫通せず体内で止まる。
閃光は邪竜を貫通。失われた右腕の根元から突き抜けて、ちょうど勇が足場にする氷柱の中程を消滅させて抜けていった。
【ちょっ、俺こんなんばっか?!】
通信に、勇の悲鳴が木霊した。
セイジは杭の根元の蓋を外し、ポケットから真紅のマテリアルを掴みだす。それはかつて、ガーデンで遭遇した炎の巨人から抽出し保管しておいた危険物。それを杭の中に放り込む。次に自分の頬をパンと叩いて熱を取り、赤光に変えマテリアル化もさせずに放り込んだ。
「自警団以外…………防げよ?」
【え?】
【なんて言った?】
【はい】
璃央と頼華が疑問を、夏紀が肯定で応じた。直後、邪竜の体内でキュゴッとどうしたらそんな音が出るのかってくらいの爆音。邪竜の腹は膨れず、両腕の根元と杭の先端から超高熱の紅蓮が噴出した。
璃央は慌てて炎の壁を周囲に巡らせた。
慌てたヒルダが抱えたばかりのアゼルを邪竜の上に投げ捨てて頼華の傍らに降り立って翼で包み、アゼルが無数の蛇の上でうつぶせに「いやあああああああああ」と叫んだ。
夏紀は襲い来る熱風を槍で断ち切った。
セイジは遠隔で自警団付近の壁や琥珀で箱状の結界を作成して自警団を護る。
勇はセイジの視界の端で避けていた。そういうことが出来るのを他に見られなくて良かったな、とセイジは苦笑した。
やがて穴から真っ黒い魔力が四散していき、邪竜が見るからに萎む。
セイジが肩から飛び降りて振り返れば、邪竜の体積はどう考えても半分どころではなく、最初の十分の一以下である。だいたい5メートルくらいだろうか。
自警団の結界を弾いて砕く。
「これで斬り刻めるか」
スタッと近くに勇が着地した。
「誰か剣余ってね?
あの大きさだと多分動き回る。そうなると弓より剣の方が合わせやすい」
「この時点で余ってるとかないだろ。
弓で殴ってしまえ。折れるまで」
「姉貴にボコられるわ」
邪竜が更に縮ませて手を生やす。形状は同じ。穴を塞いだだけのようだ。
「日崎君、ちょっといいかい?」
弾吾に声をかけられて振り返る。
「君の戦い方を見ていて思ったんだけどね。
ほら、壁とか出してたでしょ?」
「説明でもするのか?」
「いやいや、知りたいけど長くなりそうだから」
問いに手を振って断る弾吾。
「かなり切れ味よさそうだし、アレで剣を作るというのはどうだろう?」
「…………んー」
思わず唸る。どう考えても、振るおうと握ったら指が無くなりそうだ。
「や、ほら、柄に剣身作ってたからさ。魔鉱って言うんでしょ? その部分を剣身加工した壁にするとかね」
「あぁ、そういうことか。その発想はなかった」
ジェスターの柄口に右手を添え、引き抜……こうとして手を止める。しばらくジェスターの柄を見つめてから剣帯に戻した。
「どうしたんだ?」
「ちょっとな」
勇の問いには明確には答えない。
(いい案だが、おそらくジェスターでは無理だ。
"人造"の物質では天幻には耐えられないような気がする)
魔鉱剣で天幻を行使出来るのは、魔鉱には人の手が加えられていないというのもある。
吐息。
ガーランドの柄を右で握り、眼前にかざし柄口に左の掌を添える。赤光を灯す。そして、ゆっくりと、左手を鞘として、剣状の赤壁を、ゆっくりと抜いていく。
ごくり、と。唾を飲んだのは団員達と勇。
団員達はその光景を、親の世代の映像で見たことのある、変身ヒーローが武器を出すシーンを思い出して。
勇はひとつの驚き故に。
(なんだあの剣。さっきまでの壁にはなかった霊性がある?! 神剣とか名刀とか、そういう類のもんじゃない!)
抜かれたのは紅蓮に輝く半透明の長剣。剣身には流麗な文様があり如何にも作り込まれている感じがある。
(な……)
セイジは目を見開いて出現した剣に見入る。壁では感じることのない、確かな重さが存在している。
「馬鹿な……。こいつは、あの時……!?」
驚愕。思い出すのは、ミスロジカルへの入学前にあった、ある事件。
(いや、待て)
首を振る。今は過去を思い出す時ではない。紅蓮の先で、邪竜を相手に夏紀と璃央が戦っている姿が見えた。
セイジは勇に顔を向けずに「悪いな」と。
「貸せる剣はありそうにない」
「へいへい。そいじゃ俺は、援護射撃に徹するわ」
やや楽しげな様子で嫌そうな台詞を吐き、勇は再び矢を番えた。
右腕の邪竜が大地に突き刺さる。これを時計回りに回避した夏紀は、そのまま勢いを殺さず槍を右腕の首に叩きつける。首は炎上し、炎が上へと、胴へ向かって進撃を開始する。しかし、その進撃は途中で止まる。蛇達が火を怖がって口を離したのだ。右腕の邪竜が首の途中で崩壊した。
(この状態の邪竜を構成する蛇は火を怖がる? とすれば)
「天宮さん! 下から火を付けましょう!」
夏紀の提案に「了解!」と応じる璃央。かなり小さくなったマテリアルを惜しみなく使用する。
「不浄よ! 貪欲なる浄火に飲み込まれるがいい!」
邪竜の眼前に矢が飛来する。矢は眉間に当たる寸前で回避された。回避した邪竜の足が、大地に描き出された真円の中に入った。
「真炎!!」
璃央の叫びと共に、緋色の炎が天に向かって一直線に噴出。緋の柱が屹立した。緋が邪竜の身体を包み込む。緋柱が黒緑を真っ二つに引き裂いた。
その光景を頼華が見つめていた。
アゼルは既にダウン。ヒルダも自分を護ってダウン。この二人が戦えないと頼華も戦力外である。
(あいつ、矢といい、今の火柱といい、中央の頭だけは必ず避ける。まさか、弱点?)
視界の中で、頭以外の正中線を失った左右の黒緑が、内側から伸びた蛇で一体化する。左腕が璃央に狙いをつけて、襲いかかった。
(しまっ)
大技を使ってふらついた璃央に、左腕の口が迫る。もう駄目だと目を瞑ろうとした時、白が赤を一閃し黒緑を薙ぎ払った。左腕の頭側根元が一撃で断ち切られ、左腕の頭は四散した。
「星司さん!」
喜色に満ちた呼びかけに「うん」と応じるセイジ。
【日崎君!】
頼華だ。
【おそらく、奴の額にすべての本能の中心点。つまり、弱点があると思われる】
【ヒザキ兄。こっちでも確認したよ!
多分、ここまで量が減ったから表層に出てきたみたい!】
額。その情報にセイジと夏紀は見上げるわけでもなく、行動に移す。目標地点は高く、容易に届きはしない。故にか、考えたことは同じ――――引き摺り落として、叩っ斬る。
互いに言葉を交わすことはなく、セイジは足下へ、夏紀は邪竜の背後へと。
セイジは邪竜の下へと向かって走る。危険を察したのだろう、邪竜の下肢から蛇が散弾の如く飛び出してきた。それを、避けるのは無粋と、剣を前にかざし、より速度を上げる。蛇は剣に触れると燃え上がり、火は蛇から蛇へと燃え移る。もはや炎の壁とかした蛇の中を突き進み、屹立する二本の黒緑の柱の間で一閃ニ閃と斬りつける。剣の切れ味は魔鉱剣状態とは比べものにならないくらいすさまじいが、セイジの記憶と比べるとやや劣る。剣身が違うためか、それとも。
(アイツに何かあったのか?)
だが今は"アイツ"を思い浮かべる暇はない。
邪竜の首よりも太い足は八回ほど斬りつけてようやく完全に切断。剣の熱から壁を取り出し投げて尾も断ず。勇の射た矢が、切断直後のタイミングに合わせたように、胴体鳩尾付近を貫通。その威力で邪竜が後ろへとゆっくりと倒れていく。
倒れる先を見た者はソレを見た。本来、十字の穂先を持つ槍は、穂先に、紅蓮に輝く直剣を備えた槍となり、携えるは天宮学園高等部の制服を着こなす――桐生夏紀。
夏紀は倒れてくる黒緑の巨体の下で、槍をクルクルと。それは戦っているとは到底思えない見事な演舞。穂先の通った道を、炎が追いかけるように舞っていく。やがて、柄を背に構えてタンッと足が地に置かれ、皆が、セイジさえもが目を釘付けにした艶舞が終わる。巨体は、灰燼となって宙に舞い散っていた。
そして、結界は砕けた。