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LR  作者: 闇戸
二章
26/112

合流

 翌朝、消火班の姿はゴールウェイ空港にあった。

 空港にはアスローン以南からかき集められた妖精達の姿もある。彼らは思い思いの装備を身につけていた。

「コリブ湖西の件、ちゃんと北に伝わるかな?」

「アリシアなら気づく」

 セツナの問いに、セイジは即答。

「問題は気づかない連中だ」

 セレスの言葉に、セイジは頷く。

 セツナは背後に居並ぶ妖精達を振り返る。

「ゴールウェイの駐屯軍はこっちに気づいてるかな?」

「これだけ幻獣が揃っていれば気づいてるだろ。彼らにとっての問題は、幻獣の集団が東にだけ展開しているわけではない、ということだ」

 東は消火班に率いられた妖精。

 西はホリンに率いられた妖精。

 北はマナナン・マクリルが派遣したティル・ナ・ノーグの軍勢。

 ゴールウェイに駐屯するアメリカ軍は背後のアイリッシュ海以外の三包囲を囲まれていた。

 指揮権はティル・ナ・ノーグ軍に任せている。あとは突撃命令待ちの段階だ。

 オベロン王からの使者とホリンが説得するまでもなく、ティル・ナ・ノーグでは軍の編成を終えていた。

 使者とホリンから伝えられた情報は、彼らの怒りを増大させるには十分だったらしく、ミスロジカルとの連携が快く承諾された。

 カスルバーが陥落することが、ティル・ナ・ノーグ軍北上のきっかけと決まっている。

 セイジは痛み止めを飲み込んだ。

 妹は兄の行動をただ黙って見ないフリをする。言っても聞かないことくらい、とっくに理解しているからである。

「昨日のような奴がゴールウェイにいたら、洒落にならないよね」

「巨人がいたとしても、この空港跡を警備していた鋼鉄の奴くらいだろうな」

「十分硬くて厄介だけどね。有人に気づかないと、あの硬さで嫌になる」

 確かに、と頷く。

「来た」

 セレスの呟きに、兄妹は北西の空を視る。真世の視界を持つ者にしか見えない合図が空に上がっていた。

「さあ。最初に奪われた領地の奪還と行こうか!」

 妖精の軍が三方からゴールウェイに向かって進軍を開始した。



 魔法戦を得意とするセツナ達に鋼鉄の巨人を任せ、セイジは琥珀の双剣を手にしてセレスと共に軍人達の排除に徹する。

 銃弾を避け、敵を盾にし、一歩進むごとにその手を赤に染める。

 屋内からの銃撃を半身で避け、右で宙に縦の剣線を刻み、左で撃ち出し横の剣線を刻む。建築物が何もない空間から出現した壁らしきものに切断されていく。

 セレスの着地地点に横に刻んだ剣線から撃ち出した壁を配置し、そこを狙った掃射から護る。壁の端を蹴り上げて斜めにすることで、セレスは掃射していた集団の直中に滑り降り、棍で中心からなぎ払う。

 視界に角を曲がってきた軍人達が入ってくる。

 左の小剣の形態をかぎ爪へと変化させ、今蹴り上げた壁に引っかけて放り投げる。こちらに向けて銃を向けた集団が悲鳴を上げて切断された。

 周囲の魔力を視渡す。

(この地区の人間の反応は今ので最後。残るのは中身の入っていない鎧どもか)

 あの鎧が、天宮の屋敷を襲ったモノと同じ存在だとすれば、いずこかにデータを送信しているはずである。

(魂のデータ化。はたして送信するのは、魔力か電波か。観測班がいればいいが、今はないものねだりをしてもしょうがない)

 剣線から壁を引っ張り出し、六面の檻を作って鎧を一体閉じ込める。観測班が到着次第、調べさせるためである。

 こうしている間にも、人間の反応を見つけた妖精達によって、駐屯軍が徐々に数を減らしていく。

 ゴールウェイにいる人間は、全員が敵である。区別に面倒がなくていい。それがセイジ達の考えだ。

 空に駆逐終了の合図が上がる。しばらく前にカスルバーへの進軍を知らせる合図も上がっている。これにより、現在アメリカ軍の拠点となっている場所はなくなったことになる。

 ゴールウェイからカスルバーの間には駐屯軍による検問があるようだが、ティル・ナ・ノーグ軍が襲撃するのはこの検問である。

(あとは北の連中と合流し、奴らの母艦を叩くだけだな)

 母艦の情報は観測車両がゴールウェイに到着した時点で送ると言われているが、情報を先送りされてる時点でろくな情報ではないだろう。

 セイジはベンチに座り、休む。ちょうど痛み止めが切れてきた。今は痛みを感じながら微睡むことにした。



「ゴールウェイ戦は終了だ」

 セツナはセレスの言葉を聞き、ようやく脱力する。魔力どころか体力の限界だった。

「これでようやく休めるー」

「向こうでセイジも休んでいる。そっちでまとまって休め」

「あいあい」

 言われて向かった先では、確かにセイジは休んでいたのだが。

「なにこれ」

 グッタリしているセイジの周りに、妖精達が集まって休んでいた。膝の上では、金平糖の瓶を抱えた妖精がチョコンと座っていた。

「マヴ?」

 妖精はセツナが知っている相手だった。

 妖精、マヴはセツナに向かって、口に指をあてシーッとした。

「そうだぜ。せっかく休めてるんだ。ここは何も言わず、そこらの芝生で休んどけ」

 近くの壁に寄りかかっていたホリンからお言葉をちょうだいする。

 立ち位置からして、セイジを含めここで休む者の護衛といったところだろう。

「そうね。好意に甘えておくわ」

 セツナもまた妖精達に混じって座り込むのであった。



 ウェストポートからの部隊が投降してきたことにより、カスルバーで活動する学院生徒は若干の心の余裕を得る。

 町に散乱する死体を片付け、火葬し、埋葬していく。放っておけば、死体は腐り疫病を撒き散らす。これらを処理するくらいには頭が回る余裕をである。

 これには十四期生以上が当たっていた。十五期生には刺激が強すぎるからである。

「ほらそこ、ちゃっちゃと浄化しちまいな!」

 陣頭指揮をしていたネコの下に、カスルバー以南に動きがあったと観測班から連絡が入る。

【北上してくる一団アリ。幻獣の集団が、途中に展開するNBらを駆逐しながら北上してきている。現在位置、バリンローブ】

「幻獣に対しては一切の攻撃行動をするんじゃないよ。偵察班にも徹底させな」

【了解】

 吐息。

(妖精王国の軍か?)

 当たらずとも遠からずの予想を抱いて、ことを報告するためにアリシアが治癒を受けるホテルへと入っていった。

 その後ろ姿を確認してから第二班の生徒が、このことをオリヴィエへと報告する。

 オリヴィエは宿泊の機能を失ったホテルの一室で、ヒビの入った窓から外を眺めていた。近くに人の姿はない。秋も瓦礫の撤去などにかり出されていた。

 親指の爪を苛立たしく噛む。

(妖精の軍が動いた。これで今回の戦争は終わったも同然)

 舌打ち。

 大した活躍の機会も得られぬまま、戦争が終わる。たった二、三日で。

 秋を引き込んだまでは良かったが、後からノコノコやってきた一年と観測班によって、第二班の仕事を奪われた。結果判明したことは、西からの軍がアリシアの予想通り、敗走軍だったことだ。

 西からの軍を皆殺しにしていれば、敗走軍である事実など闇に葬れたはずである。

(リマ・タカミヤ、アルマ・ラインハルト。いつか必ず、今回、僕の邪魔をしたことを後悔させてやる)

 鬼の形相で、町へと入ってきた妖精達を見下ろした。



 夕刻、観測車両でゴールウェイに入ったアリシアは、その光景に目を奪われる。

 町は霊樹に覆われ、ゴールウェイ奪還戦で戦死した軍人達は霊樹の養分となり果て、町全体が目に見える魔力でぼんやり輝いていた。

 その中で、妖精達が楽器を奏で踊り、騒いでいる。

 北を進軍してきた学院生達を宴の輪に誘う妖精達に、少年少女はおっかなびっくりでその輪に入っていく。

 ふと、ある笛の音に惹かれる。

 誘われて進んだ先で、笛の音をまったり聞いて微睡む妖精達の姿を見る。

 笛を奏でているのは、青年状態のセレスであった。

 微睡む妖精に囲まれて、ヒザキ兄妹がワインを飲み交わしている。

「やっぱりワインは炭酸入ってるのが好みね」

「シャンパン飲んでろよ。これは俺が責任もって空けてやるから」

「飲まないとは言って……お? ありしあ~」

「ちょ、ば、振るな!」

 ワインのボトルを持ったままアリシアに向かって手を振るセツナ。振り回され、ワインの中身が飛び散っている。

「はは、もったいねえなあ」

 ホリンが腹を抱え、セイジは必死になってセツナからワインを取り上げようとしている。セイジの動きがおかしいことにアリシアは気づく。

 左腕をコートに通さず、動かしているのは右腕だけ。ベンチからは腰を浮かす素振りも見せない。しかも、下手な魔法では傷一つ付かない白いコートが、焦げてやや黒い。煤けている。

「ぱーっす」

 突然放り投げられたワインを慌てて掴む。

「何故投げ……うわっ」

 さしてジャンプも出来ないのに空中でキャッチしようとして、足下で寝転がるトロールにつまずき、アリシアの足下にぶっ倒れるセイジ。

 受け身を取れず、もろに左から落ちたせいか、その場で悶絶する兄を、妹が指差して笑い転げる。

「酔っ払いめ……」

 右手で地を押してゴロンと寝転がり、アリシアを見上げた。

「怪我したらしいな。もう治癒済か」

 タクティカルベストの襟から包帯が覗いているセイジを見下ろす。よく見れば、両手とも包帯で包まれている。

「ラフィルは優秀だ。セイジも見てもらえ」

「後でな」

「……嘘だ」

「嘘じゃない。ちゃんと学院に帰ったら見てもらうさ」

 それはいつの話だろうか。

 右手を差し出して「握手」と言えば、条件反射からかアリシアの手を「握手」と応じたセイジは次の瞬間には、やっちまった、な顔をした。アリシアの口元が嗤ったのを見たからだ。

 そのまま引きずられ、治癒班の下へ運ばれた時には、根とか瓦礫とかにぶつけたせいか、涙目で気絶したセイジの姿があった。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああん」

 兄のボロボロな姿を見たラフィルの悲鳴が木霊した。



 炭酸水を月下独酌していた璃摩の傍らに、朱翠が立つ。

「強いな」

「いやいや、榊君ほどでは」

 無言。

「結成一日でそこそこの戦果だよね」

「間に合わなかった」

「うん、まあ、そこを除けばってことで」

「――――ああ」

 また無言。会話は続かない。

 互いに顔を合わせることはなく、璃摩は月を眺め、朱翠は妖精の宴を眺める。

(今宵月が出ている間に、もう一仕事しないと。この宴が無駄になっちゃうな)

 それは嫌だ。こんなに気持ちのいい夜が無駄になるのはご免である。

「そろそろ日崎先輩も復活かな?」

「ラフィルは先程眠っていた」

 よっ、と璃摩は立ち上がった。

「じゃあ、もう平気かな」

「本日最後の仕事」

「なんだ、榊君気づいちゃうんだ」

「20キロ先の的」

「耳、いいね。ともかくそれをやんないと、次の指示来ないかんね」

 行ってくる、と手を振った璃摩を見送った。



 治癒班のテントには、今、セイジしかいなく、中は薄暗い。

 ラフィルの治癒が終わり、治癒班もラフィルもホテル跡に設えた仮眠室で眠っているはずである。

 琴葉を含めた他の治癒班はカスルバーに待機し、負傷者の手当をしているという。

 左腕を動かしてみる。

 痛みはない。元々妖精の霊薬によって、骨も肉も回復し、あとは痛みだけの段階になっていたため、ラフィルの治癒もすぐに終わった。

 休んだ方がいいのだろうが、生憎と眠気はない。

 魔力も回復している。少し空腹ではあるが。

 と、誰かがコソコソとテントに入ってきた。

「起きてます?」

 声は璃摩。ベッドの傍らにやってきた。

「寝られない」

「それは好都合」

 何が、と答えようとして止める。璃摩がベッドに上がり、しなだれかかってきた。

 テントを通して入り込むうっすらとした外の明かりで、白い肌が艶めかしく闇に浮かび上がる。

 ヒルメではないと分かっていても、その姿を見るだけで息を飲んでしまう。

 耳元に璃摩の顔が近づく。

 耳に熱っぽい息づかい。

「せんぱい」

 甘ったるい囁き。


「合体、しましょ♪」


 耳を疑う。何言ってんの?! である。

「が、がったい?」

「はい」

 耳元がくすぐったい。

「敵の母艦、撃ち落としますよ」

 くすぐったさが消え「あぁ」と合点がいって冷静になる。

「合体技、絶技か」

「なんだと思ったんです?」

 クスクスと耳元で笑われる。

(この野郎、遊んでやがる)

 引っかかったことに苛立ちを隠さず、璃摩をベッドに残して立ち上がる。

「転神は出来ます?」

「誰にモノを言っている」

 愛用のエンジニアブーツを履き、コートに袖を通す。エンジニアブーツはバックル部分が溶けていた。ちょっと凹む。

「ここでやるのか?」

「ここの南にトウェイン島という小さな島があるんで」

「いつまでベッドで遊んでるんだ。行くぞ」

 セイジの物言いに璃摩は小さく笑った後「はーい」と乱れた服装を正して、その後を追った。



 ゴールウェイの南、トウェイン島に立って北を眺める。あそこではまだ宴は続いている。

 セイジは既にシフト済。両の手に夕星と明星を握っている。

 璃摩は髪と眼を銀と青に輝かせ、三日月型の弓を手にして西の空を見つめている。

「神薙教官の情報通り、いますね。デカイのが」

 甕星も西に目を向けて、視る。

「魔力ではないのか。何がいるのだ?」

「なんか大きなドラゴンです」

「幻獣の?」

「んー、あれは金属製ですかね。巨大なドラゴン型の空挺空母でしょうか。どうやって浮いているのかは、謎です」

 翼が動いてもいるわけでもなく、魔力を放って魔法で浮いているわけでもない。本当に謎な代物である。

「正体は落とした後に分かろう」

 双剣を槍へと変える。

「翼で飛んでいるわけでもないのなら、狙うは翼ではないな」

「胴体に風穴空ける方向で」

 璃摩の背後に立ち、弓を構えたその手に自らの手を添える。槍を弓に番えて、共に引く。

「視覚共有――完了」

 甕星も巨大なドラゴンを認識する。

「ん?」

「どうしました?」

 一瞬、ドラゴンの中心部に神魂のような何かを視た気がしたが、一瞬過ぎて次には視えなくなっていた。

(気のせいか?)

「まあ、いい。神気共有を開始する」

「ラジャったっす」

 神々が放つ力は今では魔力と呼ばれるが、神代における名を神気という。

 魔力ではなく、神気と呼ぶのはただの願掛けである。

 自分以外の力は異物でしかなく、それを理解し受け入れるにはそれなりの精神力を使う。ただ、慣れてしまえば苦痛ではなくなる。ある種の高揚感。

 久しぶりの慣れ親しんだ感覚に、璃摩は頬を染めて呼吸を速くする。

「萎える」

「それは男性としてどうなんですか」

 文句を言う璃摩には見えていないが、西の空を見つめる甕星も若干顔を赤くしていた。萎えるとでも言っておかなければ、思考が止まりそうになる。それだけ、相性がいい。

「「共有完了」」

 神気が融け合って、膨大な奔流が二人を包んでいる。

「相も変わらず破壊系最高クラスですけど、やっぱり半減してますね」

「封印されているのだ、仕方なかろう。

 威力調整はこちらでやる」

「はいです。命中関係はこっちで」

 深呼吸。


「夜天穿つは輝けるもの そに穿てぬものなし」


「月光は照らす 地の果てあまねく在るものを そに辿り着けぬものはなし」


 西の空に浮かぶ巨躯に集中。

 そして、放つ。


「「絶技――天破烈吼」」


 まばゆい銀光が地上から西の空に向けて、駆け抜ける。逆行する流星。

 20キロの距離など一瞬でなくし、流星はドラゴンの喉元を貫通し背骨部分を通り抜け夜空へと消えていった。

 遅れてくる爆発。落ちる首。身をひしゃげさせて海へと落ちる巨躯。海が大きく歪み、波紋が広がる。

 津波だ。だが、これは想定内。

 東へと移動を開始した波紋が無理矢理散らされる。セレスによる実力行使。

 あらかじめセレスに協力を願ったのは璃摩である。

「良いチームワークだ。褒めてやる」

 囁き、甕星はシフトを解いて璃摩から身を離す。

 空母の姿を確認次第、学院から観測班に命令が下るはずである。

 璃摩も色を戻す。

 セイジを振り返り、一歩で間合いを詰めた。唐突すぎて、セイジの挙動が遅れる。完全に油断。うっかり忘れていた。たった二日しか経っていないのに。

 首に抱きつかれ、また口を吸われる。今度はすぐにセイジから身を離すが、首元をホールドされた。

「とりあえずご褒美下さい!」

「とりあえずで俺のセカンドまで喪失?!」

「カスルバーでは変な陰謀も潰したんで、それも合わせて!」

 変な陰謀で思い当たるのは、秋の離脱か。

「それは、まあ、よくやっ……うわっ」

 押し倒され組み伏される。それでもグググッと璃摩から一生懸命顔を背ける努力はする。

「ステイ、ステイだ! リマ!」

「いーやーでーすー。

 大体、なんで駄目なんです?!」

「なんでって、俺はリオが」

「そんなの、せんぱいの感情じゃないじゃないですか!」

「――あ?」

「うきゃっ」

 唐突に支えを失い、璃摩は突っ伏してセイジに覆い被さったが、予想していた抵抗がない。訝しみ、身を起こしてその顔を覗き込む。

「我は俺だ。俺以外の感情のはずがない」

 目の前のものを見ていないかのようだ。

(俺はこのセイジ=A・ヒザキとしてリオと会って、心を惹かれた)

 だがそれは、一体、何に惹かれたというのか。

 そんなことは考えたことがない。

 これが前世もなく、ただの人であれば、理由がないと一蹴し一笑に伏して終わる問題。

「先輩は、璃央じゃなくて、璃央の先のヒルメに惹かれたんだよ」

 でもそれって、と付け足す。

「転生までしてやりたいこととかあるはずなのに、過去に囚われてどうするの? って話です。

 あ、ボクはこれがやりたいことなので、あしからず」

 天照を護るのは神代の契約による義務。

(俺のやりたいことか)

 それは確かにあるし、神州は関係のないものではある。天津神と関係を持ちたくないから、外に転生を求めもした。

「とりあえず、お前を受け入れることでないことだけは確かだ」

「神気共有受け入れてくれたじゃないですかあ」

「それはそれ、これはこれ。というか任務じゃないか」

「も、もてあそばれた?!」

「誤解される言い方はよせ。むしろ俺がもてあそばれている」

「もてあそんでません。ボクのは本気ですから」

 エッヘンと胸を張る璃摩。ついでにセイジも上半身を起こす。璃摩の顔が近いが気にしないことにする。

「ともかくだ。俺は今、お前とそういう……個人的な関係になるつもりはない」

「この後なるかも?」

「しらん。まあ……、月読は俺にとって有用な相手ではある。利用くらいはするかもしれん」

「そういうの本人目の前に言っちゃっていいんです?」

「言えば引いてくれると思ったんだが、駄目か」

「まかりませんね。甕星さん相手なら利用されてもむしろ……な感じだし」

「頑固だな」

「頑固じゃなきゃ、生きてこられませんでしたが、ナ・ニ・カ?」

 しばらくにらみ合う。

 吐息。漏らしたのは、セイジ。しょうがないな、と。

 一つ聞く、と前置く。

「お前は、世界を、敵に回せるか?」

(世界?)

 それは璃摩が想像していたものの斜め上を行く問い。

 せいぜいが、姉を敵に回すのか? とか、同胞の神族が黙ってないがどうする? とかそこら辺かと思っていたのに。

 相手はとても真剣で、煙に巻くような問いじゃないと思える。

「どういうことです?」

「さあな」

 セイジは璃摩を置いて立ち上がる。

「お前が、俺の問いに、俺が満足出来る答を持っているなら、お前をそばに置こう。受け入れるってことだ」

「それは璃央も?」

 それには答えず、少し悲しげに笑ってから、璃摩の頭を左手でポンポンと撫で、ゴールウェイへと去っていった。

(なんか、理不尽な檻に入れられた気分)

 座り込み月を見上げる。

「敵……敵か。一体何を相手にしたら、世界が敵になるの?」

 璃摩がそれを知ることになるのは、これからもう少し先のことである。

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