エピローグ
烈士隊はほぼ廃人と化したミヒャイルを連行し、半ばまで神魂を差し込まれた箱を回収していった。
正義は厳しい表情でセイジと璃央の前に立つ。
「九曜頂・天宮璃央、状況を説明していただきたい」
「え、九曜頂?」
正義の言葉にセイジは思わず璃央を見る。その視線を受けて、璃央は苦笑した。正義はセイジを睨みつける。なんだこいつは、と。
「星司さんだって九曜頂じゃないですか。そんなに驚かないでください。
説明もなにも、こちらの九曜頂・日崎星司さんと共に、転生狩りと九曜・天宮の屋敷を襲撃した犯人を討伐しにきただけです」
「九曜頂……日崎?」
正義は胡散臭そうにセイジを見る。その視線に、セイジではなく璃央はムッとする。
「お祖父様が保証してくれますし、九曜頂クラスの保証がほしければ、九曜頂・神薙龍也さんにお聞きすればよろしいかと」
「いえ、九曜頂・天宮殿のお言葉を信じます」
敬礼で答えた。
「それでは私達はここで失礼させていただきます。よろしいですね?」
「はっ、承知致しました」
正義は敬礼を続け、足早に立ち去る二人を睨み続けた。
「ピー!!」
もの悲しい鳴き声を上げて、グリフォン型幻獣がセイジと璃央の前に降り立った。そこに向けて十数名の烈士隊員が殺到してくるが、璃央の姿を見つけると急ブレーキした。
「天宮様! その幻獣は危険ですのでお下がりを!」
忠告に、璃央は「危険なんですか?」とセイジに訪ねる。
「キオーンは元々そんなに戦う力は持っていない。まだ子供だしな」
まだ納得のいっていないらしい烈士隊を下がらせる。
「キュ!」
「怒るなよ。子供なのは事実だろうが」
「キュキュ」
「そりゃ、まあ、そうだが」
「キュイ」
幻獣は璃央を見つめる。
「ええっと?」
「俺と君を乗せて飛んだら成長を認めろと」
「乗れるんですか?!」
璃央の言葉に頷き、璃央を前にして幻獣の背に乗る。二人を乗せて幻獣は飛び立った。
東京の町を見下ろして感動する璃央。それをセイジは優しげに見守った。
やがて天宮の屋敷に降り立つと、幻獣は二人を下ろして姿を消した。
屋敷には央輝と澄がバイク共々集まっていた。
「お祖父様、ただいま戻りました」
「うむ」
セイジは澄に「よくやった」とねぎらいの言葉をかける。
「大変でしたが、ちゃんと乗りこなしましたよ?」
「往復出来たのが証拠だな」
「はい!」
「もし覚悟があるなら、ミスロジカルに来るといい。渡航手段はこちらで用意する」
「マジですか?! じゃ、じゃあ、夏休みに行っても?」
「クエストは受けずに空けておこう」
「やったあああああ……って、なんか師匠、感じ変わりましたね」
飛び跳ねたかと思うと、唐突にヒソヒソ声でセイジに囁く。近づいた澄に、璃央が若干柳眉を逆立てた。
「そんなことはない」
「本当に?」
「本当に」
セイジは澄から離れて央輝の前、璃央の隣に立ちミスロジカル魔導学院の学生証を渡した。
「転生狩りの犯人は逮捕。今回の件に関わった神祇官はまとめて一掃され、ギアの関係者は逮捕前に国を出た。
なんにしても、クエストは終了じゃな。護衛の任はこれで解く。学院に戻りたまえ」
央輝はセイジの学生証にクエスト終了の判を押した。
「ああ。短い間だったが世話になった」
「星司さん、私も澄と行ってもいいですか?」
「俺は構わないが……」
二人とも央輝を見る。見られて央輝はヒゲを撫でた。
「ふむ。どうせなら、夏休みの間だけの短期留学もありじゃな」
セイジは小さく頷き、璃央は本当にうれしそうに表情を輝かせた。ほんの数日前までは見ることもなかった、孫のうれしそうな顔であった。
epilogue:tab
アメリカへ向かって飛ぶ個人所有の飛行機で、ロイド・ギアはノートパソコンでデータをチェックしていた。
と、モニターが暗転し、銀刺繍の黒いローブを身につけ、顔をベネチアンマスクで覆った怪人が表示された。
【サイクロプスは回収されたぞ】
機械的な音声がパソコンから漏れる。
「そのようだねえ。彼も案外甘い。跡形も残さず消してくれると思ったんですがねえ」
【あの傭兵はこちらで処理する】
「そうしてもらえると助かります」
【天照はどうする? アレは確実に覚醒した。時が経てば神魂を使いこなすぞ?】
「その方が面白そうですけどね。
まあ、しばらくは、そちらも手を出さないように。
なに大丈夫です。かの悪神はそちらでも確認出来たのでしょう? もう天照を護る者は神州には入ってこられません。月読が戻る前に片は付きますね」
【アレを使うのか】
「ええ、アレです。今回のデータが役に立つでしょう。散財の甲斐ありですね」
【道楽者め】
「どうせなら、道化と呼んでほしいものです」
【理解出来ん】
モニターが再び暗転し、怪人の姿は消えた。
「理解など不要です。僕はただ、この顔を楽しんでいるだけなのですから」