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LR  作者: 闇戸
一章
12/112

電話(2)

 セイジが電話に出ると、相手は例の情報提供者。昨夜セイジから連絡をした『T.Kannnagi』であった。

【リーマンプロジェクトだ!】

「……ビジネスマン?」

【ん? ……違った。ええっと? そう、ReHumanProjectだ】

「別物だな」

【うるせえ。データを送ったから参照しろ】

 携帯をスピーカー設定にして、バイクのシステムを起こす。

「サー……あっと。End BABELtypeT。Start search」

 機能を切り替える。

(バベルは便利だが、容量食い過ぎだな)

【お前、バベルなんか起動して何やってたんだ?】

「勉強」

【はあ?】

 スピーカーから璃央の知らない声が聞こえる。誰だろうかと疑問を感じる璃央と違い、澄がこの声に反応する。

(これって、龍兄?)

 姉、穂月や担任の凛とは中等部時代の同級生であり、凛の従兄で、しかも九曜頂の一人として名を連ねる人の声に似ている。高等部からは兄同様、ミスロジカルに留学して、そのまま姉の前に帰ってこなかった男の声にだ。

「この報告書。シュウか?」

【一発で分かるのは、お前と琴葉くらいだな。いい加減、名前欄に俺と書くのはやめろと言っておけ】

「タツヤから言ってくれ。俺もコトハも、もう諦めた」

【酷いパートナーだ】

 タツヤ、とセイジの口から出た名前。

 フラフラとセイジの元へと近づいて、澄はバイクにもたれかかる。セイジは怪訝そうに澄に顔を向ける。そして、そう言えばと思い出す。

(シュウはタツヤと知り合いだと言っていたが、スミもということか。タツヤからの依頼書をホヅキが持っていたことといい、おかしいことでもないのか)

 ふむ、と納得する。

「スミ、今少し、大切な話をしている。後にしてくれないか?」

 言われて「そうですね」と引き下がろうとする澄。そこに。

【すみ? 梧桐……澄? 穂月と秋の妹の? そこにいるのか?】

龍兄(たつにい)?」

【おお、久しぶりだな、九年ぶりか? 電話でなければその姿も見れたんだろうが。

 なんでセイジといるんだ? デートか何かか?】

 その声はとてもうれしそうで、本当に懐かしいものだった。

「半神修練の基礎を教えた」

【心浸食の防衛術か。確かにあれはやらんと。神州じゃ教えないからな、あれは。

 しかしそうなると……】

 無言が生まれる。

【いや、なんでもない。とりあえず、澄ちゃん。後で話でもしようか。ちょっと今は、な】

「そう……ですね。じゃあ、後で」

 澄は庭に、スカートが汚れるのも構わず座り込んだ。

(なんだ? シュウとは反応が違うな)

 気を配りつつ、パネルに表示されている報告書を読み進めていく。

「半年前? この時のメンバーはシュウとオリヴィエか。また面白いチームだな」

【GS(Garden of Strikers)によるギア保有の工場に対する襲撃作戦を補佐するクエストだった。

 その工場で生産されていたのが、魔構鎧(ギアボディ)。ReHumanProjectにおいて、人の魂を入れるための器となるものだ】

 セイジは縁側付近に転がる鎧の残骸に目を向ける。おそらく、あれがそうなのだろう。

【専門家ではないから構造などは何ともよく分からんが、人の魂を肉体より抜きだしてデータ化複製し、元となる人間の記憶、能力、人格を持つ存在を生み出す計画らしい】

「肉体の複製には時間がかかる。故に鎧という器を用意するのか」

【機械の身体に人の心、存在のデータ化、かつてはトンデモ科学者が夢見たことも、魔法などといったオカルトが現実を浸透したこの世界になって、ようやく実現したってことだな】

 それでか、とセイジは思う。

 報告書にある頃、秋がそういう内容のアニメを見ていた。

 普段からネットで落としたアニメをセイジのルームメイトと見たりはしていたが、その時期に見だしたのは、そういうクエストをしていたかららしい。

「魂を抜きだして別の存在に入れ直す。ReHumanProjectの本質はそこか?」

【うむ。おそらく、今回、根幹となっているのはそれだ】

 セイジは縁側に座って獣と戯れる璃央をチラリと見てから、スピーカーを切って携帯を耳に当てる。

「神魂を……入れ直す?」

【降神器という存在もある。不可能じゃない。

 もっとも、開発に成功していればの話だが】

 降神器とは、神や精霊といった存在を受け入れられる器であり、形状には様々ある。武具や道具、像、神を憑依させたシャーマンさえも降神器と呼ばれる。

 ただし、現在確認されているシャーマン以外の降神器は、すべてLR以前、神話や伝承の時代からの遺物のみで、新たに開発に成功したという話は聞かない。

【神の記憶を封じ護国時にのみその封印を解いて、神を戦力としようとする神祇院。

 おそらくは欠陥でも見つかったんじゃないか?

 何年も人間として生きてきて、いきなり過去の、自分の記憶にはないものを見せられて、力があるからと、速攻戦力として機能するとは到底思えん】

「記憶の齟齬(そご)か」

【よほど柔軟に受け入れようとする精神がなければ、まあ、悪くて発狂するだろうな】

「良くて?」

【意志の弱い方が消失。普通に考えれば、人間の十数年が超越者の無限に敵うはずもない。

 とはいえ、前例がない。うちの総帥やお前の親父さんが打ち立てた理論に基づく想像にすぎないから、実際にはどうなるかさっぱり分からん。

 記憶封じちまおうなんて、そんな面倒なことするのは神州くらいだからな。国内にでもいなければ、前例知ることも出来ないし】

「神祇院のそれ。神魂の入れ直しは国策なのか?」

【少なくとも、九曜・神薙と九曜・霧崎には神祇院からそういう達しはない。九曜・緋桜院にも確認済だ。

 うちの神和(かんなぎ)のように分家が勝手に動く可能性も否めないが、そこを考えればキリはなくなる。

 で、お前のところは】

 無言で応じる。

【そうな。分からんよな。

 九曜の中で最も神祇院との結びつきの強い、九曜・鏑木と九曜・不破は分からんが、今のところ連中が兵を動かしたという報告はない。九曜・久我が救護隊を末広町に派遣したとは聞いているが、あそこの姐さんは陰謀とか嫌いだからなあ。九曜・祠上はよう知らん。

 で、九曜・天宮は狙われ中と。いい加減誰が九曜頂なのか公表してほしいもんだ】

「リンカーがいるのはタカミヤだけ……いや、キリサキもそうか」

【確か、鏑木と不破がそうだったはず。まあ、あそこを襲撃する馬鹿はいまい。烈士隊の総本部だからな。

 転生狩りが神州国内に限定されている以上、九曜頂・霧崎――(ゆう)は安全だ。俺らと一緒に今モナコのカジノでお仕事中だ。ちなみに俺は全額スッタよ、ドチクショウ】

「魔女の趣味は本当によく分からん」

【資金作りに余念無しだ。建国宣言出したもののまだ国土は開発中だし、金はいるからな。

 お前もうちへの進路を希望したと聞く。精々、何を要求されるか覚悟くらいはしておけ】

「心得た。とりあえず、問題の解答を考えるか」

【解答はそれほど難しくはない。

 例え記憶の封じによる問題があるからと、神魂を人間の自由にしようとする行為は、超越者達に対する反逆でしかない。統括者(アマツども)にバラせば終わる。

 ただ、神祇院がどこまで関与しているか分からない以上、九曜を使うしかない】

「俺は無理だぞ」

【分かっている。うちの将来の戦力をこんなところでなくしてたまるか。総帥に殺されるわ。

 お前がやることは二つ。天宮璃央を護ること。そして、現状奴らの戦力となっている存在を潰すことだ】

「ならば、政治手段に関してはそちらに任せる」

【応。というわけで、穂月の妹に変わってくれ】

「分かった」

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