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導き

最近すっかり疲れてしまって初心を忘れていたように思う。

なんとか復活してようやく投稿。

 司書室で急に素っ気なくなったガミに別れを告げ、家に戻ってくると回覧板が居間に放り出されていた。なんとなく開いてみると一枚のチラシが出てきた。チラシには寺で一週間泊まりこみのバイト募集が汚いレイアウトででかでかと書かれていた。

「あ、智帰ってきたの」

「うん・・・何これ」 

「ああそれね、学校の方にやたらでっかいお寺があるじゃない?あそこバイトが欲しいんだって。今年寄りが独りだけでやってるからね」

「へぇ」

「あそこのお坊さんすごい変わり者らしいわ、それに今の御時世だから人も集まらないのね」

「お母さん、行くの?」

「なんで私が行くのさ。あんたが行くかい?」

「この参加名簿の欄に名前を書けばいい?」

「あら、ほんとに行く気なの?」

「何事も経験だしね」

俺はリビングを出ようとドアノブに手をかけた。そのとき母の声が聞こえてきた。

「・・・あんた、ちょっと変わった?」

「・・さぁ」

ぶっきらぼうな返事。

だが、そのときの俺は、少し笑っていたかもしれない。


「起きろ」

その声に俺は飛び起きた。心臓も一緒に飛び出すかと思った。

「あ・・・おはようござい・・・ます?」

障子は開け放たれていたが部屋に光は差し込んでこない。外はまだ真っ暗だった。

「暗い・・・」

「もうじき明るくなる。そろそろ起きた方がいい」

「いや・・でも、早くないっすか」

「お前の母さんは朝ごはんを作ってくれるお母さんだったか」

「え?はい、そうです」

「ならこれでお母さんの気持ちが分かるだろう」

「お母さん頑張りやさん・・・」

「そういうことだ。ほれ、朝飯の支度だ」

「ちょっ住職ちょっとまって」

俺はふらつきながら部屋を出た。


 俺は今近所の寺で住み込みのアルバイトをしている。アルバイトのさらに駆け出しだから仕事は力仕事と掃除がメインだ。ちなみに参加者は俺のみである。

 寺の朝は早い。時間が過ぎるのも早い。この電気時代に釜戸で飯を炊き、糠漬けの樽が置いてある土間があるくらいだから時間がかからないなんて事が無い。食事後に布団を片付け掃除をしているといつの間にか太陽が高く上っていた。

 掃除箇所は全ての廊下と境内と部屋とその他もろもろで、こなしている内にお昼が過ぎた。昼食後、残りの掃除箇所をやっつけると住職に呼び出された。

「さて、坊主には労働のほかに仕事がある。それはなにか知っているかな」

とても今年で70幾ばくとは思えない快活な態度である。肌が皺こそあるものの引き締まって実年齢よりだいぶ若く見える。

「それを勉強しに来たつもりだったんですが、今はどうすれば早く掃除を終わらせられるかで頭がいっぱいです」

「そうかそうか、それならもっと頭を使ってもらおう。こっちへ来い」

住職はお堂の中へ俺を招きいれ座布団に座らせた。少し離れて住職も向かい合うように座った。

「坊主はなぜ出家したと思う?それは仏の教えに惹かれたからだ。坊主の仕事はつまり、仏の教えを学ぶことだ」

出家した人々は何ゆえ出家するのか。仏の教えを学ぶ。それもそうだ。そのために人は寺を建て俗な世間と隔絶された場所に閉じこもったのだ。

「そしてできるなら、それを広めることが出来るといい」

「はぁ」

「なにか質問はあるか」

「あるといえば・・・」

「なんだ」

「俺の坊主になる人のイメージが厭世家というか世の中が厭になった人って感じなんです。後は犯罪を起こして逃げてきた人も居たそうですが、そういう人たちはちゃんとしたんですか?」

「ちゃんとしというと?」

「仏の教えを学んだんですか」

「神は様々な出会い方を用意されている。そしてそれは犯罪者であろうが百姓だろうがサラリーマンだろうが同じだ。仏門に下った以上、彼らも学びを深めていっただろう」

「いま神って言いましたが、仏と神は違うんじゃないですか?なんか仏教系と神道系はいろいろ違うでしょう」

「けっこう細かいところを突いてくるな。女にそんなことすると嫌われるぞ」

「今んとこ女は居ないので気にしてないです」

「・・・どんまい。それでさっきの答えだが、宗教によって信仰している神も教えも違うのは確かだ。その違いで宗教戦争なんて馬鹿らしいことも起こった。キリスト教なんかはそういう歴史があるな」

「ええ」

「でも私は思うんだ。キリストは愛の教えを説いて回っていたのに、どうしてその弟子の末裔である人々が戦争を起こしたりなどしたのか。私は二つ考えた。一つは彼らを利用して戦争を起こさんとした黒幕が居るということ。もう1つは彼らが教えを本当は理解していなかったんじゃないかということだ」

「それはたしかにそうかもしれないですが、それと他の宗教との違いにどう関係があるんですか」

「うん、世界宗教のように何千年と信仰されている宗教の教えには必ず真理が含まれているといえるだろう。沙羅双樹の下で仏陀が悟ったというのはこの真理を知ったということに他ならないのは伝承にも伝えられている。その真理というのは果たして宗教同士でそう変わるものだろうか?世界は1つなのに」

「言いたいことがよくわからないんですが」

「まぁあれだ、真理が1つだとすれば、信仰する神が違っても問題なさそうじゃないか」

「・・・そんなもんですかね?」

「それでもいいと思う。ここで当然”なんで教えが違うんだ”って言われるわけだが、教えが説かれたときは時代も風土も違うからな。その時々で最も必要とされる教えを説いたのだ。それが時には愛の教えであって、時には修行の教えであった。だが突き詰めていけば全てが真理にたどり着くはずだ」

「・・・なんか同じような感じで講釈をする友人を思い出します」

「そうか、それはぜひとも友達になりたいものだな。疑問は解けたかな」

「それだと、世界宗教のようなレベルのものは1つの真理がいろいろな言葉で表現されてきただけ・・って感じですか」

「いい感じだ!」

住職は子供のような嬉しそうな顔を向けた。

「今日からこんな感じで会話する時間を設けるぞ。基本的には私から色々と教えることになる。坊主の仕事を知りたいんだろう?なら学んでもらわないとな」

「それは良いですね。ぜひお願いします」

「うんうん。じゃあ今日はこの辺にして、夕飯の材料を買いに行ってもらおう。帰ってきたら夕飯の準備だ。そのあとは一日の反省を行う」

「分りました。何が要りますか?」

「メモを渡すからちょっと待て・・・」


 そうして時は流れていった。その間に行われた話し合いはとても有意義な時間だったと思う。彼のもつその知性はガミを思わせた。いや経験という大きな武器を持っていた住職の方が上だったかもしれない。俺はどんどん住職に対する尊敬の念を強めていった。7日はあっという間に過ぎた。


「まず第一に一日の反省を欠かさぬこと!第二に正しさとはなんたるかを追求していくこと!第三に」

「向上心を保つための祈りを忘れるな!ですよね?」

今日はアルバイトの終了日である。俺は門の前に立って住職の別れの言葉を聞いていた。

「ふん。ようやく覚えれたか」

「毎日何回となく言い聞かされればさすがに覚えますよ」

「じゃあ最後にこれからのお前に必要な言葉を与えるとよう」

「はい」

「焦るなよ。人は遠き道を歩むとき、静かに行くものだ」

「・・・胸に刻みます」

「惑わされるなよ」

「そのつもりですが・・・なにぶん若造ですから」

「羨ましい限りだな。それでは、又会う時もあろう」

「はい、お世話になりました」

俺は家に戻った。

俺も寺みたいな静かな場所で一週間ぐらいのんびりしたい。

まぁ智は真面目に働いてましたが。


実は物語の終焉が近いです。

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