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20/22

眼に見えないもの 締

なんという俺理論

またダラダラと自分の思ったことを垂れ流しているので、「気に入らない」「反論の準備はできている」という人が居るならどうぞ聞かせてください。

「死」はこの世の終わり。自分という存在の消滅。活動の終了。

 俺は死を漠然とそういうものだと思って、ろくに考えもせず生きてきた。この十八年間はそれで十分だった。そしてこれからもそれで十分だろうと思う。

 他の人たちもそんな風なことは考えていないだろう。俺は友人たちとそんな会話をしたことは無かった。きっとそんな会話を喜ぶ友人も居なかったろう。

 

 だが、人間はいずれ人生を終える。


 そしてどうなる?


 俺は自分が死ぬ姿を想像した。

 俺が死んだらきっと他の人々と同様に棺おけに入れられるだろう。そして参列者の慰めを聞き、大きな車で運ばれていき、焼却されるのだろう。

 その燃え尽きたかす(・・)が自分だ。


 灰に感覚はあるのだろうか。もちろんない、はずだ。灰になる前の死体ですら聴覚も視覚も文字通り死んでいる。

 きっと慰めは聞こえないだろう。道路の振動も感じることは無く、体を侵食していく炎の熱も、色もわからない。粉々の灰はもうただの消し屑で感覚がどうのという方がおかしい。

 なにも見えない。死んだらまっくらやみ(・・・・・・)が広がっているのだろうか。

 何も感じない。苦しみはまったくない。だが喜びもない。風を受けて爽やかな気分になることも、日光を浴びて温かさを感じることも無い。

 なにもわからない。自分が置かれた状況も、誰がいるのかも、自分が何ものなのかも。


 人生の喜びの記憶を思い出すこともない。いやいや学校に行って、生活のために息切れしながら会社に通い、ようやく手に入れたものも忘れ去る。

 いや、そう考えることすらできない。

 思うことができない。


 何も無い


 ただ ただ 無い


 存在の消滅



 俺の体はソファーを突き破って地の底に落ちていくようだった。

 底知れない恐怖が背筋を這い回る。死の後で全ては無に帰すなら、自我どころかこの世の存在に意味が無い。

 存在の無意味、という巨大な手が胸を握りつぶそうとしている。

 心臓の動悸が痛い。

 息が苦しい。

 

 怖い。

 俺は怖かった。

 自分が消えてなくなることが怖くて仕方無くなった。



 俺はハッと目を見開いた。汗が噴出していた。俺はふらふらと水を飲みに立った。

 蛇口から流れる水に腕をさらしてみる。冷たい感触が気持ち良かった。

 顔を洗って自分の部屋に戻った俺はベッドの上でもう一度死後の世界を思った。

 俺は”死ぬと全てが無くなる”なんて本気で信じていたのだろうか。いや、たぶん信じてなどいなかった。それどころか真剣に考えようともしてこなかった。きっと多くの人もそうなのだ。俺も友人達も「死」のことなど考える必要なんてないと思っていた。もしくはそういうことを考える人間を変人だと、非常識・・・だと扱ってしまう空気があるからか。そんな風にして見て見ぬふりをしている人がほとんどで、そのまま人生を終えていく人もまた多いだろう・・・いざそのときになって彼らはなにを思うのだろう。

 きっと怖いだろうな、と思った。


 俺はすっかり疲れてしまってうやむやな気分のまま眠りに落ちた。直前に、いったいどこの誰が死んだら何もなくなるのが常識なんて言ったのかな、とぼんやり考えていた。



「と、言うわけでガミ、よろしく」

「・・・意味がわからん」

俺はいつものように司書室に据え付けられたソファーにゆったりと座っていた。ガミもいつもと同じように本から目を離さない。

「いやいや、俺も頑張って死んだ後を考えたんだけどな、どうもわからないんだ。人間は死んだらどうなるんだ?」

「・・・で?」

「いつものようにご教授願いたいなぁーと・・・」

「だったらその姿勢はやめることだ。人の話は五感を使って聞くものだ」

「うん・・・すまんかった」

とりあえず腰だけは上げて俺は改めて頼んだ。ガミは承諾した。

「まず一つはっきりさせておこう。絶対に”あの世”はある」

彼女の発音には迷いが無かった。

「すごい自信だな」

「信じているからな」

これもまたはっきりとしていた。

「なんでだ?あの世を見てきたのか?」

俺は真剣な気持ちで聞いた。色々と考えた後だったから今は茶化すのは馬鹿らしいと思った。

「実際に見てきたわけではない。だが私はあると思わざるを得ない。生きている意味を探求していくとな、そうなるんだ」

「生きている意味、か」

「そうだ。なぜ私は日本に生まれて生きながらえているのだろうか、海を超えればまさに今何百人という子供が餓死しているのに・・・、とね」

「・・・あんまり考えたくないな」

俺の正直な思いだった。そんなことを考えていると生きているというだけで責任を感じすぎて、苦しい。

「ほとんどの人間はそう思うだろうな。そしてそれを実行している。考えることを止めてまるで無いものとして扱うんだ」

俺はこの言葉に共感した。

「それは”死”についても同じ・・・か」

「ああ、死は怖い。これを恐れない人間はまずいない」

だろうな、と俺は相槌を打った。

「だが、それを考えずして死ぬ不安は取りさらえないのだ」

「そう、それだよ」

俺は立ち上がってガミがひじを置いていた机に手をたたきつけた。

「俺は不安なんだ。死んだら俺はどうなるんだ?止まったみたいになるのか?考えたり感じたりできないのか?どうなっちまうんだ」

「落ち着け、智」

ガミは冷静に俺を制して、氷の入った水を差し出した。

「飲め」

「俺は・・・怖い・・・怖いんだ」

「まずは飲め、そして座れ」

俺はコップを受け取ってゆっくりと水を飲んだ。胃に冷たさが落ちていって体が冷やされていく。

「ああ・・・すまん、ありがと」

「気持ちはわかる。私も同じだったからな」

「そうなのか」

「ああ」

ガミも悩んでいたという事実は俺を大いに安心させた。ガミほどの人間が悩むようなことに俺が答えを出せるはずはないと思えたからだ。同時に俺に少し不安が生まれた。

「・・・わかったのか?死後の世界はあるのか」

「まず説明が必要だ、聞け。この問題は人間がとるべき道が大いに関係しているんだ」

「それがなにか関係あるのか」

「ある。前に”愛”についていろいろと話したよな」

「ああ。愛は相手の精神的成長のために自分を拡げることだ・・・って言ってたやつだな」

「そうだ。相手の精神的成長を望まず、自分の怠惰や過ちの言い訳のために利用しているのにそれを愛と言う奴がいる。その人間がとった道は正しくない・・・・・。他にも人間らしさっていうことで話をしたよな。あれもそうだ。単純に暴力で訴えることは人間らしくない、人間として正しくない・・・・・

「正しさをやけに強調するな」

ガミは普段見せないようなニヤッという笑みを浮かべた。

「察しがいいな。よく気づいた」

ガミが立ちあがった。

「まさにそれだ。人間としての正しさ、心の正しさがまず重要なのだ」

「それがどう死後の世界と関係するんだ」

「死後の世界というよりか、霊的の存在かな。真に正しい在り方を追求していくと、どうしても愛情や幸福を目指していくことになる。それは眼に見えないものの存在を肯定するということだ。肉体は生まれ、躍動し、老いて、死ぬが、そうして変化していく中で変わらない心があることを感じる。人間がある日突然鳥や魚になったりせず、人間として在り続ける何かを感じる。そこに魂の存在を感じるのだ」

「えっと、それをまとめると、正しさを追求していくと、肉体がどう変化しても変わらずに残る魂があると分る・・・ってことか」

「そうだ」

「魂は死なない?」

「死なない。そして魂があるなら魂が集まり生きる世界があると考えるのが自然じゃないかな」

「うん。俺もそう考えるだろうな。それでその世界があの世・・・つまり死後の世界があるという根拠か」

「そうなるな」

「・・・なんていうのかな、なんか難しいっていうか、それを他の人に伝えるのは大変そうだな」

「ああ、難しいね。正しい心を探求していこうという人生に共感してくれるかだけでもかなり貴重だ。それが自他の幸福につながるといくら説明してもな。みんな八十年あまりの短い人生の中で、自分の努力が無駄になることに不安を抱きながら生きる方を選んでしまう」

ガミの表情には物悲しさがにじんでいた。なにか経験があったのだろうか。だがそれを知りたいと思うのは失礼だろう。そしてどう話題を変えていくべきか考えていると先にガミが言葉を発した。

「君はどうだ?魂を感じたことはあるかな」

「あるも何も、こう見えてお前の言葉を信用しているんだぜ?俺には経験が足りないから、魂云々はなんとも言えない。でもきっとそうなんだろ?それを確かめてやるさ」

「私が嘘を言っているかも知れないとしても?」

「嘘だったのか?とても俺にはそう思えなかったが」

「嘘はつかんが、完璧な解答だとも言えない」

「じゃあいいじゃないか、これからそれの答えあわせをしていけばいいさ」

「君は・・・けっこう馬鹿だな」

「聞こえんな」

「・・・ありがとう」

「・・照れるな」

「聞こえてるじゃないか」

「聞こえんな」

ガミは頭を横に振りながら「君との話は疲れる」といった。

俺はお疲れさん、と一言ねぎらった。

俺が「寝る」と断ってソファーに横になると、ガミは空になったコップを持って立ち上がった。そのとき俺は思い出したように声をかけた。

「そうだ、ガミ。礼には礼で返すのが正しいよな?」

「ああ、当然だな」

「そうか。ガミ、ありがとう」

ガミは黙ってそっぽを向いてしまった。その背中を眺めていると「どういたしまして」という小さな声が聞こえてきた。

俺は満足して眼を閉じた。

その日の昼寝はとても気持ちのいいものだった。

一応、死についての瞑想は自分の実体験です。


やっぱり、何千年も尊敬されて止まない努力や愛を実践した偉人たち自身が報われないというのは真に平等とは言えないですよね。

そんなことを考えていると死後に「照魔の鏡」とか「閻魔様」が居てほしいと思います。

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