魔術師再び
毎日投稿とか生意気言ってすみませんでした。
俺は心底悠也を憎んでいるのもと思われる。そうでなければ夜道で袖の内にカッターナイフなど忍ばせて悠也の後方をつけたりなんぞしていない。
彼は街で俺の思慕している女子とデートをした。それはメールでも伝えられていたことであるから俺は半ばあきらめかけていたことだ。それ自体が理由ではない。問題は俺がつけている最中の彼らの仲である。
クレープを買って食べていると悠也は彼女の口の端のほうにクリームの一塊がついているのを見つけた。彼は口にクリームが着いてるよと言ってそれを注意した。そしたら日和は急に笑い出した。何かと思ってみているとどうやら悠也の頬にもクリームが着いていたらしい。彼女はそれを指でふき取ると指に着いたクリームをそのまま食べてしまった。顔を赤くして悠也がみていると彼女は自分のしたことに気づいて赤面した。それだけで終わればいいものの悠也なんと日和の顔についたクリームを同じようにふき取って食べてしまった。あらにこれでお互い様だねなんて言ってふたり笑い出すものだから隠れていた電柱に頭を打ち付けて死にたくなった。
時には屋台で焼き芋を2人で半分こして食べてるし、時にはたこ焼きを日和のほうがあーんして食べさせようとするし、時にはおそろいで買った缶ジュースを悠也が取り間違えて日和のを飲んじゃって彼女顔真っ赤にさせてるし・・・。
俺の心は打ちのめされた。全ての現実に絶望した。彼女はすでに俺のことなど微塵も頭に無いのだろう。いま彼女の愛を一身に受けている悠也も、俺の存在などどこかに置いて来たに決まっている。なんであいつなんだ。なんで俺じゃないんだ。俺は自分がこんなにも惨めで救いの無い世界にいるのが許せなくなった。そのとき店先に並べられている商品の中に派手に脚色されたピンク色のカッターナイフがあるのを見つけた。俺は半ば狂気に取り付かれたようにそのカッターナイフを買った。残金は残りの電車賃しか残っていない。しかしそんなことどうでも良かった。街で、帰りの電車の中で、俺は彼らが分かれるそのときまで、普段なら絶対に発揮しないような忍耐を持ってチャンスを窺った。
そして時は来た。あたりも暗くなり始めたとき、彼は近道をしようとしたのか暗い川沿いの道を進み始めた。俺は荷物をわきの草むらに隠した。体が驚くほど身軽になった。後はもう体のなかの沸騰するような感覚に任せ、走り出した。俺は握り締めたカッターナイフを彼の後頭部めがけて振り下ろした。
ナイフはガツッという音と痺れるような衝撃とともに手から離れ落ち地面に突き立った。それとほぼ同時に脇の茂みから太い腕が俺を茂みに引きずりこむ。俺は叫び声も発することなく口を塞がれ昏倒した。茂みの葉がこすれる音を聞いて悠也が振り返ったときにはもう俺の姿はなく、俺の元いた場所にピンクのカッターナイフと石ころが一つずつ転がっているだけだった。
俺は夢を見た。以前から時々見ている花屋と客と自分の出てくるあの夢だった。またしてもあの客は俺の花を買っていこうとしていやがる。前回までなら俺はただそれの様を眺めているだけだったが今回の俺はもっとアクティブに動いた。欲しいなら盗ってしまったっていいんだ。きっとあの客なら、あいつなら許してくれるだろう。花屋だって金を返すだろう。俺は2人の間を走りぬけ花を奪い取った。そして全速力で逃げ去った。なぜだか俺の背中を悲しそうな目で見詰めている二人の姿を俺ははっきりと知っていた。息を切らして物陰に隠れて花を眺めた。みればみるほど美しい。自然と顔が引き寄せられていく。そして俺の息がその花にかかったとき、変化は起こった。花がたちまち黒ずんでしわしわになっていく。枯れて端から粉々になって散っていく。俺は狼狽した。どうにかしようと策を色々考える間にも花は散り散りになって、そのうちに跡形もなくなってしまった。
俺は自分というものを認識できるようになったとき、見覚えの無い天井を見た。ソファーの上に寝ころがされ毛布を掛けられているようだ。
「なんだ・・・」
俺はぼんやりとした意識の中で何とはなしに空中に向かって声を発した。しかし誰も答えてくれなかった。
腰を上げてしばらく周りを見渡した。だんだんと意識がはっきりしてくるのだが、今自分の置かれている状況がより解らなくなってきた。体は五体満足のようだし、力も入る。しかし自分が意識を失ったときの記憶が曖昧である。そしてここがどこだかわからない。とりあえずこの部屋の特徴からなにか察せないかと思い注意深く観察する。まず本がやたら積まれている。部屋の中央のテーブルには無造作に様々なカバーの本が積み上げられているが、その様子は床にも窓の縁にも見受けられる。ここでテーブルがあると言ったが椅子も5脚置いてある。後は俺の寝ているソファーに毛布。コーヒーメーカーにココアの粉の入ったケースとポット。先端の丸い棒、スプーン、マグカップが数個。部屋の奥には流し台も見える。そこには洗剤と石鹸、スポンジが置いてある。部屋の構造を把握するために立ち上がり自分の背後を確認すると意外なことが分った。ソファーの背後は胸ぐらいの高さより上はガラスで仕切られていたのだが、そこから見える景色は我がAB高校の図書室そのものであったのだ。以前と違って全てのテーブルに装丁がぼろかったり雑誌の類だったりするものが整頓されて並べられている。俺は自分が貸し出しカウンターの向こう側、司書室にいることを知った。
「おはよう。夢は見れたかな?」
あまりの突飛な状況にあきれている俺の背中に声が掛けられた。俺は反射的に体を震わせてしまったがこの声には聞き覚えがあった。
「・・・おまえか」
「そうだ、私だ」
声はさも当然という風だ。俺は声の主と向き合った。椅子に乗せた小太りの体とさらに重ねられた大きく膨らんだ頬に鋭い目元。その醜い容貌を忘れるわけが無い。俺は彼女をにらめつけて言った。
「なんでお前が・・・俺はどうしてここにいるんだ」
彼女はふんと鼻を鳴らした。
「ここに私がいるのは鳥が空にいるように、魚が海にいるように同じくらい当然のことだからだ。しかし今はそんなことはどうだろうと構わない。それよりも、お前は自分のしたことは忘れたのか?」
「俺の?俺は・・・」
そういえば俺はなんでここにいるんだ。俺はなにをしてたんだっけ・・・。・・・。・・・そうだ・・俺は悠也の背後から・・・
「思い出したか?」
彼女の問いを俺は無視した。しかしもう、自分のしたことは全て完全に思い出している。
「沈黙は肯定の印だよ」
「そんなことは・・・どうでもいい。お前はなんで俺をここに連れてきた。お前は何者なんだ」
ここで彼女は少しばかり目を大きくして驚いて見せた。
「ああそうか。いや、悪かった。思い返してみれば私は自己紹介もしていなかったな。」
彼女は座ったままの姿勢で一口マグカップの中身を飲んでから自己紹介を始めた。
「私の名前は春日雅美。親しい者はガミと呼んでくる。・・・お前も自己紹介するがいい。それで公平になる」
「なにがフェアだ。勝手に人を攫いやがって、何を偉そうに。ふざけるなよ。俺は家に帰る」
俺は司書室のドアに手を掛けた。
「ならば私が代わりに言ってやってもいい。お前の名前は境 智。親友をカッターで切りつけようとした愚か者だ」
俺は血が逆流するのを感じた。なんだと、と大声で叫んで振り返る。そのままこいつのところまで行って首を締め上げてやろうとした。だが振り向いたその瞬間に頬を掠めて飛んでいくものがあった。みるとピンクのカッターナイフがドアに突き立っている。ガミを見るが彼女が投げた様子は無い。俺がほんの一瞬混乱している隙に彼女は言った。
「お前に訊きたい。なぜあんなことをしようとしたのか。なんでお前はそんなに迷っているのだ」
俺はぐぅの音もでなかった。俺は逃げるためにまたドアノブに手を掛けようと思った。しかし、彼女のなにもかも見通しているような鋭い視線に射竦められて動きが取れなかった。
「まずはソファーに座れ」
俺は動けなかった。ガミはマグカップにすばやくココアを作り俺のそばまで寄ってきた。そして俺の肩に手を置きゆっくりと押した。不思議なくらい優しい力だった。俺はソファーに力なく座り込んだ。ガミはお前のだとマグカップを持たせて元いた椅子に座った。俺がココアを飲んでいる間彼女は何も言わずただ中空を見詰めていた。
やっとだよ!ここまで持ってくるのにこんなに時間掛けてるよ!クーガー兄貴に怒られるよ!月間漫画家より週間漫画家の方が優れているというのが持論の人にどやされるよ!
もうちょっとがんばりたい。