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迷宮世界  作者: 傍観者
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依頼屋の攻防3

 依頼屋本部が警報が鳴り響く頃、本部から離れた一つの依頼屋支部に東野和樹の姿はあった。


 至って平凡な街中を拠点とする雑居ビルの二階、悩み相談教室と記されているその一室は紛れもなく依頼屋の支部である。勿論、悩み相談など嘘っぱちの見せかけであり、怪しい雰囲気漂うビルの二階に行って見ず知らずの人に悩みを打ち明けようとする人など誰一人としていない。


 だからこそ東野が堂々とソファーに腰掛け、足を組んでコーヒーを飲んでいること自体、何もおかしくない姿である。

 それどころか、そのビルに在中している他のメンバーすら、東野の前のテーブルに展開された人生ゲームをしながら盛り上がっている。


「にしてもどういう事だ? 連絡あるまで動くなっていうのは?」


 今このビルを拠点に活動しているのは僅か三人。本来はその倍の人数はいたが、戦闘における殉職もあり今の人数に至っている。

 そして三人の内二人は人生ゲームではしゃいでおり、もう一人は唯一置かれた作業机に新聞を広げ、こちらもコーヒーを飲みながら寛いでいる。


 東野が疑問符で声を掛けた相手はこの男である。


「知らねぇよ。何か考えがあるんだろうよ。つーか俺達は此処を拠点にしてるから全然構わねぇんだが、本部所属のお前まで動くなってのは珍しいな」


 東野の質問に男は新聞から目を外すことなく答える。


 四十代のその男はこの支部を纏める隊長を務めている。見た目はヤクザのような強面であり、体格もでかい。一見怖そうな人物だが、部下の面倒見が良くとても慕われている隊長でもある。そして性格が大雑把であるため、仕事のない時に部下が人生ゲームで遊ぼうが何しようが一切お咎めない。


「そうだろ? こんな事俺だって初めてさ。近くの支部で待機しろって命令が来てから一切連絡無しだぜ? まあ偶々、多木峯さんとこの支部が近かったから良かったが、藤岡さんの支部だったら俺のテンションだだ下がりだぜ」


 東野の言葉に、新聞から目を離した多木峯達治(たきみねたつじ)は同意するように苦笑する。


「アイツは堅いからな。お前が苦手にするのもしょうがない」

「それに比べ多木峯さんは緩いっすからね! 俺達もやりやすいってもんですよ。あ、東野さんの番っすよ」


 満足げに口を開いたのは、東野の正面のソファーに座る男、村田時生(むらたときお)である。五年前に依頼屋に入った村田はこの隊でも一番若い二十二歳の若手である。

 お調子者という言葉がしっくりくる性格であり、多木峯の大雑把な部分に付け入り暇があれば何かと楽しもうとする。


 そんな彼だが、仲間が半分まで減っている中で生き残っているのは、決して運だけではないということもある。


「そんなこと言ってますよ、多木峯さん。ちっと厳しくしたほうがいいんじゃないっすか?」


 東野はケラケラと笑いながら、ルーレットを回し自分の駒を進めていく。


「そうだな……村田に休みは必要なさそうだ。今からお前一人で政府に喧嘩売ってこい」

「ちょっ、無茶ですよ勘弁して下さい! 冗談ですから!!」


 土下座をする勢いで村田は謝り始め、それを見た多木峯も笑みを浮かべる。それを横目に東野は自分の駒を動かしていく。


「一、ニ、三………『職場が倒産し職を失う』……なんの冗談だ、これは?」


 マスに書かれている内容を読み上げた東野は呆気にとられたように呟いた。


「あらら……せっかくスポーツ選手になったのに、これで無職じゃんか」


 東野の横に座る広岡賢治(ひろおかけんじ)はマス目の内容に苦笑いを浮かべる。彼もまたこの支部で生き残っている強者であり、依頼屋では古株に入る。最近薄毛に悩み、いっそのこと坊主にしたその容姿は威圧感たっぷりの風貌である。


「つーかスポーツ選手なのに会社の事情で無職ってどーよ?」

「まあゲームですから。波乱万丈のほうがゲームの中では面白いんですよ」


 村田はそれが醍醐味だと言わんばかりに胸を張った。


「現実でも波乱万丈だっての。第一、この内容は今の依頼屋にだって当てはまんだぜ」

「そう言われると……何も言い返せないんですが……」


 シュンと黙った村田から目を外し、東野は頭をガシガシと掻く。


「まあいい。ほら、次はお前だぜ」

「あ、はい! じゃあいきますよー」


 瞬時に笑顔を撒き散らした村田は人生ゲームのルーレットに手を掛け、回した。


 ――と、その時、多木峯の携帯電話が着信音を響かせる。


 多木峯は机の上の携帯を手に取り、相手を確認してから通話ボタンを押した。


「どうした?」

『そっちはどうだっ!?』


 その声は距離のある東野達にも微かに聞こえる程の大きさだった。


 至近距離でその声を聞いた多木峯は、携帯を僅かに耳元から離し怪訝な顔に変わる。


「いきなり過ぎて分からんぞ。何があった市原?」


 そこで東野は電話の相手がこの支部の隣町に拠点を置いている支部の隊長、市原(いちはら)だと理解した。


『支部がやられたっ! あいつらは、なんかおかしい!!』


 言い終わるや否や、電話越しに聞こえてくる何発もの銃声。

 多木峯は市原が戦闘中だと理解し、携帯を机に置きスピーカーのボタンを押した。その顔は呑気に新聞を読んでいた時とは打って変わって真剣である。


「市原! 今すぐ応援に向かう! 相手は政府の暗部か、警察の部隊かどっちだ!?」

『どっちでもねぇ!! ワケがわかんねぇ、なんで立っていられるっ!? あぁクソ、弾が………アアアァァァァッ!! 来るなぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 絶叫の後に聞こえてくるのは市原の呻き声と鈍い音。そして電話は雑音と共に途切れた。


「市原………」


 市原の最後の声を聞く限り、彼が無事でいる可能性は低い。


 多木峯だけでなく、無意識に立ち上がっていた他の三人も唖然とした表情を浮かべる他なかった。


「市原隊長が……あんな取り乱すなんて……」


 村田がぼそりと呟く。市原と何度か面識はあるが、絶叫する姿は想像しようにも思い浮かばない。


 多木峯は再び携帯を手に取り、慣れた手付きで本部の番号を表示させる。



「……クソ、つながらねぇ。全員、準備をしろ。何があったのか俺達で確かめにいくぞ」


 乱暴に携帯を閉じる多木峯はそう指示を出す。


 生存の可能性は低いと頭では理解しているが、戦場を共に駆け巡った仲間をこのまま諦めきれるわけもない。


「それはちょっと無理そうだぜ」


 しかし、皆が動く前に窓際に移動した東野が口を挟む。東野は窓の外の一点を睨みつけるように凝視してから多木峯へと顔を向ける。


「こっちにもおいでなすったぜ。正面から……堂々とな」


 その言葉で多木峯達は一斉に窓際へと移動し、その真意を確かめる。


 雑居ビルから数メートル先、複数の黒服の団体がゆっくりとしたペースで向かって来ている。


 夜中に全員が全員同じ黒服に身を包み、しがない雑居ビルを目指しているその滑稽さは、東野が言うように敵であると容易に確信が持てる程だ。


「なんか、不気味な連中っすね」

「政府でも警察でも、倒せば問題ないじゃんよ」


 村田と広岡は拳銃を手に取り、いつでも戦闘出来る準備に入る。


「しかし、妙だな……」


 一方の東野は未だ窓の外を凝視しながら、感じる疑問の答えを模索していた。


 多くの襲撃を経験してきた東野にとって、今回に関しては初めての経験だと言っていい。正面から堂々とやって来て、急ぐ気配も罠を仕掛けている様子も見受けられない。何より政府の暗部や警察の部隊にはあった統制というものがひとつも見受けられない。


「自爆テロでも考えてんのかねぇ……」


 そう呟きながら相手の動きからその可能性は低いと考え直す。


「数はおよそ十。作戦はいつも通り、倒せるだけ倒す。市原の部隊の事もある、油断はするな」


 多木峯がそう言うと、村田と広岡は一度頷き素早く部屋から駆け出していった。


「お前も参加してくれると助かるんだが?」


 窓の外から視線を離さない東野に多木峯が声を掛ける。


「あんなヤツら俺が動くまでもねぇ……と言いたいとこだが、今回の敵は俺も興味がある。参加させて貰う」


 そう言って東野は銃を取り出す。


「期待してるぜぇ……実行部トップの実力を」


 そして多木峯は微笑んだ。








 それはいつもの戦闘とは違っていた。


 村田と広岡は階段を駆け下り、ビルの入口から飛び出たと思うや否や問答無用で銃弾を放った。

 サイレンサー付きの拳銃から放たれた弾は一番前を歩く二人の太股に命中する。


 一発では殺さない。情報を吐かせる為に戦闘不能にするだけでいい。そして乱れた陣形の隙を逃さず対処しようとする残りの敵を倒していけばいい。


 その筈だった――


 しかし、その陣形が乱れるどころか太股を撃ち抜かれた前方の二人さえ、まるで何事も無かったかのように歩き続けている。


「村田ぁ……ちゃんと当てたのかよ?」

「そういう……広岡さんこそ……」


 早速理解出来ない。そんな面持ちで二人は顔を合わせた。


「それなら、もう一発いくじゃんよ」


 気を取り直して広岡は銃を再び構えた。


「なっ――!!」


 広岡が前方のひとりに的を絞った時、ゆったりと歩いていた行動が嘘であったかのようにその男が素早く突っ込んで来たのだ。

 驚きと共に照準を狂わされた広岡は反射的に銃を撃っていた。


 その弾は男の眉間にめり込み、頭から血を噴出させながら地面に倒れる。


「な、なんだ……効果あるじゃんよ……」


 ホッと安堵の息を吐いた広岡は苦々しくも笑みを浮かべた。


「広岡さんっ!!」


 村田の一声で現状を察した広岡から血の気が引いていく。


 素早く動いたのは、広岡が仕留めた一人だけではない。少し遅れて前方にいた他の男達も回り込むように動き、広岡の両サイドから突進していたのだ。


「――ッ!!」


 油断していた。一人の男ばかりに意識がいき、他の男達は眼中に無かった。のろのろとした動きから急遽素早い動きへと変わった所為でもあるが、それでも広岡が油断していたと言える。


 広岡の右手から迫る男達へ村田は援護射撃を打ち続けるが、その素早い動きで致命傷を与える事は出来ない。胴体に何発かは当たるものの、やはり男達の動きが緩まることは無い。

 一方の広岡も左手から迫る男達に発砲していくが、こちらも結果は同じであった。


 男達との距離が数メートルに近付いた時、広岡にはどうしようもない焦りしか湧いてこない。


「なんで……なんで倒れねぇ……」


 背筋が凍るような寒気が冷や汗となって頬を流れる。


 何発も撃ち続け、敵の足を止められなかった結果は必然と見えてくる。


 ――カチッ、カチッ


 トリガーを引いても弾が出てくる事はない。弾の入ったカートリッジを交換する作業など今まで数え切れない程行っている。いつもであれば一秒あれば新しい弾丸を発射していた。


「――ッ!! しまっ――」


 しかし、目前に迫る訳の分からない怪物達のプレッシャーを受けている広岡は、その簡単な作業さえままならず、終いにはカートリッジを上手く掴めず地面に落とす始末だ。


「ひ、広岡さんっ――!!!」

「…………」


 村田の絶叫に近い叫び声さえ頭に入って来ない。次にすべき行動も思い浮かばない。真っ白になった頭の中はそのまま硬直という姿を広岡に伝えている。


 男達の手がついに伸びてきた。広岡を掴むまであと数センチというところだろうか。


――ああ……終わった……


 頭の中が真っ白になった状況で唯一それだけが広岡の脳内に蘇った。


 拳銃を持って外に出てから五分経っているだろうか、これ程までに呆気なく自分の終焉を迎えるなんて想像もしていなかった。


 ついに伸ばした男の手が広岡の肩に触れた。そのすぐ後ろにはもう一人の男。そして背後には二人の男が広岡に向かって来ている。残りの男達は未だゆっくりとした足取りで正面から進んで来ている。


 村田は銃を撃つのをやめて広岡の元へ全力で走っている。

 村田が来るまで数メートルの距離だろうが、それでもどちらが早いかは一目瞭然である。


 広岡の肩を掴んだ手に力が込められるのを肌で感じた。


――結局、俺もこうなる運命じゃんか


 今まで生き残れたことが奇跡だったのかと、全てを諦めた広岡は何をする事もなくただ流れに身を任せ目を閉じる。


「なに諦めてんだよ」


 ふと、そんな声が聞こえた。そして掴まれた肩から手が放れていく感覚。全てを諦めた広岡はそこで目を見開いた。


「東野……」


 肩を掴まれた男の手は、東野の手ががっちりと掴み自由にさせていない。そればかりかその男自体が首から噴血させながら倒れていくのが広岡の目に映る。


 そこからは東野の独壇場であった。


 力の抜けた男から手を離し、直ぐ後ろの男の伸ばしてきた両腕をかい潜り、すれ違いざまに自分の体を回転させる。たったそれだけの動きでその男も首筋をパックリと斬られ地面に伏していく。


 一体何が起こったのか、素人が見たら理解出来ない程の素早さであろう。しかし、それなりに危険な戦場に身を置いている広岡は東野が何をしたのかすぐに分かった。


 広岡が追い詰められたら場所は支部がある部屋の窓の丁度真下である。二階の窓から飛び降りた東野は広岡を掴んでいた男の手を掴むと同時に首を刃物で切り裂いたのだ。そして二人目の男も体を回転させると同時に首を切り裂いただけの事。


 ただそれだけの筈なのだが、東野の動きは別次元のものだと錯覚しそうなくらい無駄がない。それが東野和樹だと言われれば、今なら素直に納得出来るだろう。


 ――強い


 他に思い付く事は無い。自分達が苦戦した相手をいとも簡単に仕留めたのだ。それもナイフよりも少し大きい短剣一本でだ。


 悔しさよりも尊敬に値する東野の動きに広岡は魅了されていた。


 そして魅了されている内に後方から向かってきていた二人の男達も地面に倒れていた。

 その後ろで村田が唖然としているのは、広岡と同じ心境だからだろう。


「奴らはただの人間だ。致命傷を与えれば動きも止まる」


 東野は短剣の血を拭いながら倒れた男を蹴り飛ばす。


 その一声で我に返った広岡と村田は東野へと駆け寄った。


「東野さん!」

「いやぁ、助かった……礼を言うじゃん」

「あ? いいってことよ。んなことよりも……」


 すぐに二人から目を離した東野は先程蹴り飛ばした男の方へと視線を向けた。


「まるでゾンビだな」


 東野の言葉に広岡と村田は頷いた。


 何発か銃弾を受けたにもかかわらず、まるで痛みを感じていないように動いていた男達を何かに例えるならその言葉が一番しっくりくるだろう。そしてそれは決して比喩や例えではない事も証明されている。


「まさか……本当に……」

「バカか。俺達を倒す為にウイルスを開発しましたってか? それが本当なら異世界人ってのはよほど遊び好きだな」


 村田の言葉を東野は軽く笑い飛ばす。


「よく見てみろ。奴らの顔は人間の顔そのままだ。ゾンビっていう類じゃねぇ。つっても……完全に否定出来ないところが怖いけどな」

「じゃあ、こいつらは一体なんなんでしょう?」

「さあな。俺としては操られてるとしか思えないけどな」


 東野は真剣な顔でそう答えた。


「洗脳……ってことじゃん?」

「洗脳より(たち)が悪いんじゃねぇか? 人間の神経すら狂わせてるんだからよ」


 と、その時、一発の銃声が空に響き、東野達は上を見上げた。


「てめぇら油断しすぎだ。いつまでもお喋りしてんじゃねぇよ」


 そこにあったのは、窓から狙撃ライフルを構えた多木峯であった。多木峯の言葉の意味を察した村田と広岡はすぐに残りの男達へと視線を向けた。


 その男達は既に駆け出して来ており、三人との距離は数メートルほどに迫っていた。


 咄嗟に戦闘態勢に入る二人だったが、二度、三度と銃声が鳴り響き、男達は次々と倒れていった。


「多木峯さんの支部が襲われているんですから、隊長も働いてくれなきゃ困るでしょう?」


 最後の一人が地面に伏した時、東野は笑みを浮かべながら軽口を叩く。


「隊長っつうのはな、基本指示を出すだけでいいんだよ。年寄りに期待するんじゃねぇよ」


 そう言いつつもニヤリと笑う多木峯に東野は溜息を吐く。


「その考えは依頼屋の中で多木峯さんだけっすよ」

「まあいいじゃねぇの。それより、そいつらの素性は分かったのか?」


 ライフルを壁に立て掛け、コーヒーを口に含みながら多木峯は窓から顔を出し問い掛ける。


「さっぱり。人間が感情と神経を無くしたらこうなるんじゃないっすかね」

「……成る程、他の部隊もそりゃ困惑するわな」


 東野の言った意味を読み取ったのか、多木峯が頷きながら同意する。


「連れて帰って幸村にでも調べて貰うほかねぇな」


 東野は血塗れの死体を本部まで連れて帰る苦労を想像し、再び溜息を吐きながら男達の倒れている場所へと視線を向けた。


「あん?」


 だが、その視線は倒れている死体ではなく、その更に奥の赤い光を捉えた。


 暗くて他はよく見えないが、空中に浮かぶ小さな赤い光だけははっきりと目にする事が出来た。そしてそれは圧倒的なスピードでこちらに向かって来ていることも分かる。


 それはまるで――


「炎の……玉……――ッ!! 伏せろっっ!!!」


 東野の叫びに村田と広岡は咄嗟に頭を抱えその場に伏せた。


 刹那、その赤い玉は支部の建物に直撃し、大きな破壊音と噴煙を残した。


「な、多木峯さん!!」


 顔を上げた村田は炎に包まれている支部を見ながら隊長の名前を叫んだ。しかし、その声に応答する者はいなかった。


「おいおい……ロケットランチャーなんて持ち出してきてんのか?」


 また政府の戦闘員かと、現実的に考えていた東野がボソッと呟いたのも束の間、三人の目の前に赤い髪の男が突如として現れた。それを見た東野の顔つきが一瞬にして険しいものへと変わる。


「テメェ、まさか……」


 その手にはロケットランチャーではなく、銀色に輝く一本の両手剣が握られている。


「政府の……人間……?」


 村田と広岡にはそれしか思い浮かばないでいた。それは今まで戦って来た相手は紛れもなく日本人である政府の戦闘員だったからだ。だがしかし、それは間違いであると脳内が教えている。それは危険という認識であり、その恐怖は体の自由を奪われてしまうものだった。


「ランクS。そうだろうがっ!?」


 東野にしては珍しく強い口調である。それを聞いた男は表情を変えずに口を開く。


「だとしたら……どうする?」

「――ッチ!」


 肯定だ。


 東野はそこで一つの決断を下す。


「コイツの相手は俺がする。お前らは今すぐ逃げろ」

「……好きにしたらいい。俺から、逃げられたらな!」

「あ……あぁ………」


 睨まれた二人は最早口をまともに開く事さえも叶わなかった。


 生と死の二つしかない状況下の中、東野とSランクの視線がぶつかり合った。



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