真実のその先へ2
フィーガルとはナーシェ達が乗ってきた宇宙船の名前であった。
誰も近寄らないような山奥にフィーガルを停泊させ、耳に付けた小型無線機で情報を送り、備え付けられた転送装置を利用し浩介を一瞬でここまで運んだ。
それを聞いただけでも地球より科学技術はかなり高いと理解できる。フィーガルの内装、コントロールルーム、扉の精密さを見ても近未来アニメのように地球が目指す理想郷の姿であるとも錯覚させる。
地球から何万光年離れた星かはナーシェの話を聞くだけでは理解出来なかったが、つまりは今の地球では発見できないほどの距離だということで納得する。
動力となるエネルギーは一体何を使っているのか、フィーガルを構成しているこの物質はなんなのか、転送システムは一体どういった仕組みなのか、など研究者としては非常に興味の尽きない研究材料ではあるが、浩介にとってそれはどうでもいいことだ。
地球とは違う場所の人間ということが分かっただけで満足である。言葉が伝わっているのもかけ離れた技術力を持っているからだと、細かなことは恐らく理解は出来ないと処理する。
そしてこのフィーガルは幾多の船艦の中でも小型のタイプらしく、浩介が寝かされていた部屋が数カ所と、普段皆が集まるコントロールルームしかない。
ナーシェは仲間に会わせると言ってカイに浩介の移動を手伝わせようとさせるが、まだこのメンバーを信頼しきれない浩介自身がそれを断る。
全身の痛みを得意の強がりでカバーし、何とか立ち上がった浩介はゆっくりとした足取りでコントロールルームへ向かっていった。
人員は全員で六名。ナーシェ、セリア、カイの他に女性一人と男性二人である。
女性に関してはガラス張りにされている船艦の一番前、車でいうと運転席か助席という場所に座り最先端と思えるようなキーボードをピコピコと叩いている。
後の男二人は見る限り男というガッチリ系だった。恐らくは戦闘員だと推測でき、結構シンプルなチームなんだなと思う。
浩介はコントロールルームの後方に設置してあったソファに腰を下ろした。痛みから解放された浩介は大きく息を吐いた。
「大丈夫?」
セリアが声を掛ける。ジャケットを羽織った浩介の袖口をずっと掴み此処までついて来たところを見ても、知らぬ間に懐かれたものだと軽く微笑む。
「ああ、そんな心配しなくても大丈夫だ」
「あらあら、セリアはコウちゃんに懐いちゃったね」
ナーシェはまるで幼い妹かのようにセリアの頭を撫でる。
「……コウちゃんはやめてくれ」
呆れ顔で非難する浩介を嘲笑うような笑みでスルーしたナーシェは浩介の向かいへと座った。
「それで、コウちゃんはある程度理解出来ているんだよね。じゃあ他は何が知りたい?」
いや、だから――と、言葉が出かかるが、無邪気な笑みを向けるナーシェに効果は無いと思い思考を切り替えた。
「じゃあひとつ聞く。何故あいつらはこの地球にやってきたんだ?」
真剣に尋ねる浩介だったが、ナーシェは少し驚いた表情を見せる。
「いきなりその質問でいいの?」
ナーシェの言いたい事はすぐにわかった。
目の前にいるのは今の地球では確認出来ない程の惑星の人民である。普通ならば興味が勝りその惑星のことや、地球といかに違う環境であるか、などが真っ先に思い浮かぶとナーシェは思っていたからだ。
それは浩介も思わなかったわけじゃない。地球よりレベルの高い技術を持っているのはフィーガルを見ても分かるし、どのような街でどのような生活を送っているかも気になる。更に言えば魔法はあるか、魔物はいるかなど興味は尽きないのだ。
しかしそれはあくまでプライベートな質問だ。その質問をしたところで誰も浩介を責めたりはしないが、聞きたい事の中では最も低レベルな内容である。馴れ合いを求めるわけじゃない――と、浩介はその興味を頭の片隅に追いやった。
今成すべき事は全ての真実を知ることだ。だからこそ浩介はその切っ掛けを知る為の質問を優先した。
「まあ、コウちゃんは真面目そうだし、しょうがないか……」
ナーシェがコウちゃんとあだ名を付けるのは、彼女の性格からなのか何か裏があるのか、ただ単にいきなり訳の分からない場所に来た浩介を元気付ける為か知らないが、それで油断するつもりはないというように真剣な顔をナーシェに向ける。
「ちょっと長くなるけど、いいかな?」
「なるべく簡潔に言ってくれればそれでいい」
それはつまり関係の無い話はするなということである。ナーシェはそれを悟り僅かに苦笑する。
「カイ。何か飲み物を持ってきて貰っていいかな?」
「……わかりました」
あまり浩介を良く思っていないカイは浩介を睨むような眼で返事を返す。
ナーシェはそんなカイの様子を溜め息で払拭すると、浩介に顔を向け微笑む。
「話は約五十年前に遡るわ。この惑星は私達のいる区域では結構前から知られていたのよ。だけどあまりにも技術力を含めた環境が違いすぎた為に接触が禁止された。でも五十年前、私達の惑星と抗争状態にあったバラリアという惑星がその禁忌を犯した。この惑星に降り立ち、あろうことか人と接触までした。飽くまでもこの国の一部の人達だけみたいだけど」
「なんでここ日本だったんだ?」
この地球には様々な国がある中で日本を選択した意味が理解出来なかった。それともすでにアメリカなどにも潜伏しているのか、と脳裏を過ぎり口に出すがナーシェが首を振った。
「彼らはここニホンしか潜伏していないわ。それはニホンが何かにおいても都合が良かったからだと思う」
「都合が良い?」
「そう。先ずは技術力。繊細な技術力を持っていて、何をするかは知らないけど彼らにとってこのニホンの技術力が適していたんでしょうね。次に人間性。比較的平和主義で闘争心が低い。性格上からも操るのは簡単と読んだのね。最後に言語。私達が使っている言語と近いのがニホン語だったから解析が楽にできた。これがニホンを選んだ理由と推測されているわね」
浩介は成る程、と納得し、カイが運んできたお茶のようなものに目を向けた。毒でも入っているのでは? と思ったが、ナーシェがいる手前そんな大胆なことはしないだろうとコップを持ち、舌先につける程度口に入れた。
「……お茶だな」
舌の痺れもないし変な臭いもない。味も普通だと確認し一口含んだ。
そんな思考を持っていたとナーシェがわかる筈もなく、話を続けた。
「でもその時はちょっと接触しただけでこの惑星を後にした。それ以降何度か来ていたみたいだけど、それは緻密な計画を立てていたんでしょうね。そして五年前、彼らはついに本腰を上げた。このニホンに数人の優秀な人員を派遣させた。それがコウちゃんも知っている彼らの正体よ」
「……予想通りだな。しかし、約四十五年も計画を練るようなものか? ヤツらの目的からしてそんなに年月がかかるとは思えない」
「言ったでしょ? 私達の惑星と彼らの惑星では抗争状態だって。その抗争は百年以上も続いているの。その計画だけ遂行出来る余裕が無いのもしょうがないわ。私達だって彼らがこの惑星と接触したと知ったのは一年前。それだけ内密に行われていたのだからそのぐらいの期間は掛かるでしょう」
そこでナーシェはお茶を啜る。
「彼らのしようとしていることは大まかではわかるけど、細かなとこまでは分からない。それはコウちゃんのほうが詳しいかもね」
「じゃあ最終的なヤツらの目的は何だ?」
ナーシェは少し申し訳なさそうに肩をすくめる。
「私達の惑星との抗争状態は更に近くの惑星を巻き込む程までに変わっていった。私達の惑星に味方するところと彼らに味方するところ、戦力は五分五分ってところかな。大きい抗争になった彼らは万が一負けた時、ううん、その場合でなくとももう一つの拠点を作ろうとしている。抗争に絶対に巻き込まれない距離にあり、簡単に自分達のモノに出来ると判断したこの惑星、あなた達のいう地球をね」
「……元からこの地球の人間は抹消させるつもりだったか。日本の支配する惑星を、か。………ヤツらの思惑通り巧いこと操られているんだな」
バラリア計画に記されていた内容の一部分を思い返し、溜め息をつく。浩介の独り言を聞いたナーシェは申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「迷惑な話だよね……私達の勝手な抗争でこの地球が狙われたことになるんだから。本当になんて謝ればいいか……」
「あんたに謝られても何も変わらない。ヤツらがこの惑星の人間に殺戮兵器を造らせているのも、あんたらを警戒してのことなんだな」
ナーシェは首を傾げる。
「殺戮……兵器?」
「ああそうだ。その話が確かならヤツらは内部からの人類破滅を狙っている。簡単に行うなら戦艦から攻撃すればいいだけだが、それだとあんたらに気付かれると思ったんだろう。それに比べ内部から浄化できればあんたらに気付かれることなく人類が破滅したただの惑星が出来上がる。後はどうにでも好きに出来るってものだ」
まあそれで全人類が死滅するとは思えないが、八割、もしくはそれ以上は減るだろう。残り二割程度の人間が生き残ろうが、彼らにとって危害がなくそれだけの人数で改善出来るとも思えない。事実上破滅と言っても過言ではないのだ。
浩介はお茶を啜った後、ナーシェと顔を合わせ口を開いた。
「さて、厄介な展開になったものだ」
真剣にそう呟く浩介を見たナーシェはその真意に気づき目を見開く。
「厄介どころか寧ろ喜べよ。実行される前に俺達が駆け付けたんだ。状況も確認出来たしさっさと援軍でも呼んで解決してしまおうぜ!」
戦闘員の一人が浩介に声を掛ける。しかし浩介は男に目を向けずナーシェを見たままだった。
「だからこそ厄介なのよ」
そんな浩介の言葉を代弁するようにナーシェが口を開いた。その声はいつものような明るい声ではなく、重い口調だった。
ナーシェの言葉で重苦しい空気が漂い、理解出来ていないカイがナーシェに顔を向ける。
「どういうことですか?」
理解出来ないのは皆一緒であり、ナーシェの言葉を待つように口を閉ざした。
「カイ、私達の任務は何?」
「え? えっと……今この惑星がどうなっているかの状況を掴み報告する。場合によっては侵入しているバラリア人の抹殺です」
「そう。そしてそれはバラリアも知らない極秘任務。報告するのは特に問題はない。でも、援軍を呼ぶのと抹殺は迂闊に出来ない」
「何故です?」
「私達の存在を知られるからよ。それを知った彼らはどう動くと思う?」
その問いは浩介が間髪容れずに答える。
「あんたら含め抹消しようとするだろう。それだけならまだ良いが、間違い無く計画の実行を早める結果となる。例え俺達が勝利したとしてもかなりの被害が出るのは明らかだ。場合によっては全ての計画を断念し、この地球ごとドカン、だな。あんたらには痛くも痒くもない話だがこちらとしては迷惑を被る話だ」
浩介は至って冷静にそう言った。それが癪に障ったのかカイが浩介を睨み付けた。
「随分な言い草だな! 心配して来てやった俺達を迷惑だと思ってんのかっ!」
「心配? ただ任務だから来たんだろうが。来てやった? いつからお前は俺達の上に立つ存在になったんだ?」
そう口に出し、浩介もまたカイを睨みつける。
「ッ! お前っ!!」
「やめなさい!!」
今にも殴りかかろうとするカイをナーシェの叫びに近い声が制止させる。
「やめてよ………」
そして今度は小さな声で呟いた。俯くナーシェを見たカイも一気に静まり返った。
その光景を見ていた浩介は一度溜め息を吐き、煙草に火をつけた。
「別にお前らが来たから厄介だと思ってるわけじゃない。あんたらが何の考えも無しに動くことが厄介だと言ったんだ。それに、あんたらが動こうが動くまいが結果は変わらないかもしれないしな。そればかりは俺もわからない」
「……あなたは、私達にどうしてほしいの?」
コウちゃんと言わないところを見るとナーシェも今後の行動を見据えるだけの余裕がないのだろうと浩介は苦笑する。
「帰ればいいだろう。あんた達がここで命を張る理由もない」
「………」
「とりあえず、俺を此処から出してくれ」
「……そんな身体で何が出来る?」
正論を言われたカイは悔しそうにそう言った。
「人間、死ぬ気でやれば何か出来るだろ」
「死ぬ気なの?」
セリアが賺さず口を開く。
「死ぬ気はないが、約束はできないな」
浩介は痛みを耐えながら立ち上がる。
「さて、誰か出口へ案内してくれ」
「………カイ」
「………わかりました」
ナーシェの短い言葉にカイが頷く。
そのカイとコントロールルームを出る時、浩介は立ち上がることもしないナーシェを見た。
「ナーシェ。助けてくれてありがとう。心から感謝してる。じゃあな」
軽く頭を下げたあと、右手を上げ踵を返した。
「ちょっと待って!」
不意に背後から呼び止められる声で浩介はナーシェの方に振り向く。ナーシェは立ち上がり同じく浩介を見ていた。
「武器、必要でしょ? あなたが持っていた剣と銃、預かってるから」
その言葉で浩介も意識を失う前の状況を思い出した。
「ああ、そうだったな。どこにある?」
「案内するわ。付いて来て」
ナーシェは浩介とカイの横をすり抜け、一度浩介と視線を合わせたあと促すように背中を向けた。その後ろを浩介が付いていく。
コントロールルームを出た先は一本の通路になっていて、左右に幾つかの部屋がある。賃貸アパートのようなその通路を歩く二人に会話は無く、コツコツと足音だけが響く。
そんな中、ナーシェが一つの扉の前で立ち止まる。
「この部屋よ」
「そうか」
後ろを歩いていた浩介がその扉に目を向けた瞬間、視界の片隅でナーシェが動くのを捉えた。
その動作は生易しいものではない。まるで浩介を捕って喰うかのような威圧あるものであり、命を脅かすような雰囲気を醸し出している。
浩介は咄嗟に後退しナーシェの拳を回避するが、すぐさま二撃目が出される。躱すのは不可能と判断した浩介は右手で軌道をそらし距離をとった。
「ッ――」
ナーシェの拳を完全に見切った浩介だったが、右手でそらした際の若干の衝撃でさえ今の身体には堪えきれないものがあった。
思わず片膝を付いた浩介はナーシェを睨み付ける。
「なんのつもりだ?」
意味がわからない。それが浩介の気持ちだった。助けてくれた相手が逆に攻撃を仕掛けるのだから当然だ。
重い口調で言う浩介に、ナーシェは真面目な顔で口を開く。
「そんな状態じゃ何も出来ないわよ?」
「は?」
ところがナーシェから出た言葉は意外なもので、浩介も思わず聞き返す。
「そんな身体のあなたがいくら足掻こうが結果は目に見えてる」
それは正論だと浩介も思う。
「あなたの判断は決して正解ではない」
「だが、間違ってもいない。そうだろ、ナーシェ?」
浩介はゆっくりと立ち上がる。
「ええ、そうね。でもそれは私達が不用意に動けばの話。元々あなた一人でどうにか出来るものでもないわ」
「誰が一人って言った? 俺の読みが正しければヤツらに敵対心を抱いている組織がある。そいつらをうまく利用すれば不可能じゃない」
「例えそうだとしてもバラリアの優秀な精鋭相手に、何の力も持たないあなた達が勝つのは難しい筈よ。あなたもそんな状態だし」
「あんたの考えもわかるが、俺が一番に懸念しているのはヤツらが見返り無く攻撃してくることだ。そうなれば勝てないどころかこの星そのものが無くなる。そうなる可能性が高いのがあんたらが動くことなんだ」
「じゃあそうならないようにすればいいじゃない」
「じゃあそうならないように動いてくれんのか? 今の状況を詳しく知ってから行動に移せるのか?」
「あなたが私達に指示を出せばいい。そうでしょ?」
声を荒げることなく至って冷静な言葉のやり取りが途絶える。
次の言葉が出てこない浩介に対し、ナーシェは口元を吊り上げる。
「あなたが私達に正確な指示を与えればその通りに動く。あなたの心配はそれで解消される。……違う?」
満足そうに言うナーシェは浩介に微笑んだ。
「……どういう風の吹き回しだ?」
「別にそんなつもりはないわ。ただあなたの言う通り私達は自分の任務、都合で物事を考えていた。彼らの先の行動を読まずに、ね。この惑星のことなんて何も考えてなかった。言われて気付いたけど、何もせずに私達だけ帰るなんて出来ない。元はといえば私達の抗争の巻き添えなのだから」
言葉では上手く言ったが、何も出来ずに帰ることはナーシェの中で戦力外と言われているような屈辱があった。しかし、安易に動けば浩介の言った通りの結果となる。それならばお互いの立場を考えた行動をすればいいと、不本意ではあるが自分に言い聞かせたのだ。
浩介としてもそれは願ったり叶ったりの提案だ。何だかんだ言ってもやはり戦力となるナーシェ達に協力してもらうことはこの上なく大きい。
内心ほくそ笑む浩介は表情を変えず口を開く。
「それなら確かに話は変わる。だが、いいのか? あんたらのプライドもクソもないぞ」
「今更プライドがどうこういうものでもないでしょ。そのまま帰るだけならもっと酷いわよ」
「そりゃそうだろうが、あんたがそう割り切っても仲間はどうだ? 少なからず俺に不満を持っているだろうし、内部から崩壊なんて勘弁してほしいところだ」
ぐだぐだの結果を想像し、浩介は苦笑いを見せた。
「それは私が言い聞かせるわ」
「俺達は大丈夫ですよ」
ナーシェの紡ぐ言葉に追い被せるような男の声で、二人は視線を声のした方へ向けた。
浩介が歩いてきたコントロールルーム側の通路にカイ、セリア含め全員が集まっていた。
そして最初に声を掛けたであろう戦闘員の男が微笑しながら言葉を続ける。
「あんたの言いたい事は俺達にも伝わりましたし、ナーシェさんの言う通りただ帰るというのも納得できません。ならそれが最善の方法だと、俺は思うんだが……」
その言葉に他の仲間はひとりを除き頷き返すが、頷かないとわかっていたように男の視線はカイに向く。
「カイ……」
下を向き、拳を握り締めている姿のカイに、ナーシェは不安の気持ちと共に呟いた。
「わかってます。それが最善だということも、彼にその力があるということも……」
浩介の冷静な考え、ナーシェの不意打ちを躱す反応などを見てもそれは認めざるおえない。
カイは顔を上げると、浩介の近くまで歩み寄った。
「今までの数々の無礼、本当にすみませんでした」
そう言って深々と頭を下げた。
それに対し、浩介はなんともいえない気まずさに苦笑いを浮かべる。
「頭を上げてくれ。俺はそこまで気にしちゃいない」
頭を上げたカイに、浩介は右手を差し出す。
「よろしく頼む」
「……こちらこそ」
一瞬驚いたカイだったが、すぐに顔を引き締め浩介の手を握り返した。
「じゃあ決まり! これからコウちゃんにはわたしと対等な立場で指示を出してもらいます。異論は無いよね?」
仲間は頷くが、浩介はナーシェの対等の立場という言葉に譲れないプライドを感じて苦笑する。勿論口には出さなかった。
「じゃあ皆コントロールルームへ戻って。今後の動向を決めるから」
そしてナーシェは浩介を見る。
「その前にコウちゃんは武器を決めてね」
「決める?」
武器を返す、ではなく武器を決める、という点に首を傾げる。
「そう。剣は使えるけど、この惑星の銃は彼らに効かない。銃を使うならもっと良いのがあるわ。他に槍とか杖とかもあるから馴染む物を選んで、という意味よ」
「………まるでファンタジーだな。いや、既にそんなものか」
「え?」
「いや、なんでもない。こっちの話しだ」
浩介は気を引き締め、ナーシェに続き部屋へと入った。