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迷宮世界  作者: 傍観者
19/40

真実のその先へ1

 都会の街中、ビルに設置された大型モニター。家電販売店でのテレビコーナー。家庭のテレビ、携帯のワンセグ、ラジオなど全てから流れるビッグニュースに国民は思わず見入った。


 様々な医療品、家電製品、大型機械の制作など数多くのものを世に売り出し世界に名を知られる倉谷ノルベール研究所で起きた大惨事に興味を示さない筈がない。


 しかし国民が知らされたニュースでの情報は真実と少し違っていた。


 社長、倉谷敏弘の死。駆けつけた機動部隊の全滅。警備員の負傷、そして研究所に侵入し全ての責任を負わされた容疑者、高崎浩介の指名手配。


 伝えられた内容は全て浩介を悪として見なされるものであり、世界に貢献していた倉谷敏弘の死を敬うものである。


 何も知らない一般人はそれらを信じ、恐怖した。これ程の残虐な事件がここ日本で起きてしまったと。その加害者である高崎浩介は危険な人物だと、誰もが認識した。


 未成年といえど名前と顔を公開したことに異議を唱えるものは少なかった。警察はプライバシーの侵害などを考慮せず、浩介を危険な悪だと公表し、捕まえることに全力を尽くすと国民に誓ったのだ。


 しかしその事件以降、浩介の足取りは全く掴めていない。





「指名手配なんてやり過ぎでしょう!!」


 とある一室に杉田の大声が響く。


 その矛先を向けている相手は警察庁の長官である向井信之(むかいのぶゆき)だ。

 エリート街道をのぼりつめている向井だが、真面目な性格でエリートとは思えないほど努力を惜しまない人物である。そのため周りからも信頼され、下からの人望も厚い。実際今の警察組織の志気が高まっているのは彼が居るからといっても過言ではない。


 そんな向井に下っ端の杉田が意見できるのは極簡単な理由がある。


 杉田が新米刑事だった時に面倒を見たのが先輩であった向井なのだ。彼はことある事に杉田の尻拭いをして一端の刑事に育て上げた。一方の杉田も先輩である向井に感謝をし、彼を目指した。


 そんな月日を数年過ごし、二人は自然と固い信頼関係を紡いだ。


 向井が出世していく事に杉田は自分のことかのように喜び、上になった向井も以前と変わることなく杉田に接した。そして今でも二人で居酒屋に出向く程親友としての形が続いている。


 それだけ信頼している向井の正義感は杉田も心得ており、崇拝もしている。

 だが今はその判断に納得出来ない。


 警察の送った機動部隊は基本立て籠もりや強盗事件などの際に強行突破が許される謂わば特殊部隊だ。

 如何に浩介を凶悪犯と認めようとも、倉谷ノルベール研究所に何の疑いも抱くことなくただひとりの学生を殺すことだけに出動させている。そして全滅と知った警察は浩介を指名手配とした。


 上からの圧力や命令もあったかもしれないと考えても、今杉田が不満を言える相手は向井だけだった。何より柴田から聞いた情報を包み隠さず話した相手も向井なのだからそれはより強いものとなる。


「言った筈です! 研究所の秘密と政府の狙いを!! 何故それを野放しにして高崎浩介に全ての罪を被せるやり方をとったんですか!?」

「………杉田。誰がお前の言うことを信じる? その情報は誰の情報だ? よりによって依頼屋だと……? 俺がどっちに付くかお前なら分かる筈だ。お前も頭を冷やせ」


 真剣な眼差しを向ける杉田に机を挟んだ椅子に深く腰掛ける向井は下から杉田を見上げた。その目、その口調は親友としてのものではなく、上に立つ長官としてのものであった。


「ではここ最近の不可解な事件について納得できるような説明が向井さんに出来ますか? 商店街の事件から見てきている僕には彼らの情報こそが有力であり、全ての的を得ていると考えます。半信半疑でも構いません! 一度内密でも調査をして戴きたい」

「その必要はない。高崎浩介を捕まえたらそれでいつも通りだ。君は的を得ているということだけで全てを信じているのか?」

「違います。刑事として、僕が体感したことを踏まえて確信があるんです」

「………君は疲れているようだ。長期休暇を与える。暫く家でゆっくりしとけ」

「向井さん!!」


 向井は杉田を無視して引き出しから休暇の書類を取り出すと躊躇なく印を押し杉田の前に置いた。


 何を言っても無駄だと感じた杉田はやりきれない思いから拳を強く握り締めた。


 柴田から聞いた話をした時もそうだった。何を言っても流されまともな話さえ出来なかったのだ。そして今回も無駄足に終わり、その現実を杉田は噛み締めた。


 杉田は書類を置かれた机の横に警察手帳と手錠、拳銃を置き向井に目を向ける。


「わかりました。僕は僕なりに調べ上げます。もう、向井さんに頼むことは無いでしょう」

「お前、政府相手に戦争でも起こすつもりか!?」


 思わぬ杉田の行動に向井の口調が荒くなる。


「全てが真実なら、そうなるかもしれません。僕がどっちに付くか、向井さんなら分かるでしょう?」


 杉田はそう言って微笑む。


「勝手な行動は許さんぞ!! 後悔するのは目に見えている!!」

「だからといってこのまま野放しにしておくことなど僕は出来ません。『何が正義で何が悪か見極めろ』 この言葉をくれたのは紛れもないあなたです、向井さん」


 杉田は一度頭を下げ、向井に背中を向けた。そのまま部屋をでようとする杉田に寂しそうな視線を向ける。


「杉田。時に悪は正義すら超える時がある。正義ばかり追い掛けていてもどうしようもない時もあるんだ……」

「………その言葉、あなたの口から聞きたくなかった……」


 パタンと閉まる扉の音で向井は大きく溜め息を出した。そして備え付けの電話を手に取り、ボタンを押す。


「………ああ、私だ。今すぐ彼を呼んでくれ。今すぐだ」







「綾華さん。いつまで落ち込んでいるのですか?」


 いつもの喫茶店のカウンターに座る柴田は、隣で俯く綾華にそっと声を掛ける。


 もう少しそっとしておこうと思っていた柴田だが、現状が変わり急遽綾華を呼び出した。


 呼び出したといっても、電話しても出ない綾華の自宅まで行き無理矢理引っ張り出したので綾華の落ち込み度は改善されていたわけではなかった。

 カウンターに置く両腕に顔をうずめ、泣くわけでもなくずっとそのポーズを変えない。


 痺れを切らせた柴田が軽い話題を話掛けてもうんともすんとも言わなかった。


「あなたがそんな防ぎ込んでいても現状は何も変わりませんよ。浩介君は今非常にマズい立場にいます。僕達が助けてあげないといけないんですよ?」


 仕方なくそのまま確信を付く話題に移る。しかし綾華は小さく頷くだけだった。


「浩介君が僕達から離れたショックも分かりますが、それは人の道を外す覚悟をしたからです。あなたにそんな道は歩んで欲しくないという優しさからだと思います。じゃああなたも覚悟を決めなくてはいけません! 人を殺す覚悟ではなく、そんな浩介君の全てを受け入れる覚悟です」


 柴田の言葉が少しは届いたようで、綾華から鼻を啜る音が聞こえてくる。


 そしてその話を聞いていたマスターが口を開く。


「彼ならあの事件の前に、一度此処に来たぞ」

「えっ!?」


 そして綾華が顔を上げる。目は真っ赤に腫れ普段と比べてかなり酷い顔になっているが、その目は真っ直ぐマスターを捉えている。


「あれ程しんみりとした彼を見たのは君らもないだろうな。今にも折れそうな心を必死に堪えているような感じだった。表に出すことはなかったがな」


 そしてマスターは浩介から預かった荷物をカウンターに置いた。


「これを預かって欲しいと頼まれた。携帯も代えると言っていたし、全てをひとりで抱え込む決心をしたんだろうな。そんな彼を君はほっといていいのか? 後悔はしないのか?」


 マスターの言葉に綾華は賺さず頭を横に振る。


「ヤダ、絶対に嫌……でも、どうしていいかわからない……」


 その時、喫茶店の扉が開いた。


「お! 揃ってるな」


 入ってきたのは杉田であり、二人の姿を見て笑顔を向ける。


「酷い顔だな、楠木」

「………うるさい」


 綾華は一度目を逸らした後、杉田を睨む。


 そんな綾華を流し、柴田の隣に座った杉田はコーヒーを注文する。


「どうでした?」

「駄目だな。警察は何も動かない。寧ろ高崎を捕まえればそれで終わると思っている。期待は出来ない」

「……そうですか」


 杉田は煙草を取り出し、紫煙を漂わせる。その杉田を見た綾華は疑問を口にする。


「何故杉田刑事が此処に?」


 その質問に柴田が微笑む。


「少ないですが、これで仲間が集まりました。あとは浩介君と合流して政府の野望を終わらせるだけです」

「それに、もう俺は刑事じゃない。杉田さんと呼んでくれ」

「刑事、辞めたんですか……?」


 綾華が心配そうに顔を向けるが、杉田は笑みを浮かべる。


「それも覚悟の上だ。じゃあ君は何の覚悟をするんだ?」


 何の覚悟をするか考えるまでもなく答えは出ている。公園に浩介を誘った時、既に覚悟したのだ。浩介が選択肢を与えてくれた中で一緒に真実を知るという覚悟を。例え浩介が離れていったとしても進む道は変わらない。ならばいじけるのはもう終わり。私は今まで何をしていたのか? と後悔まで感じてくる。


 一度視線を外した綾華は少し考え二人に向き直る。


「私は浩介と共にいる。どんな状況になろうと、もう離れない。離れたくない」


 それを聞いた二人は笑顔で頷く。


「それでは、先ず浩介君の居場所と更なる真実を知る必要がありますね」


 柴田の言う通り、先ずは浩介と合流することが一番の鍵となる。それと同時に異常な彼らに対抗する為には確かな情報と更なる強さを求めなくてはいけない。

 しかし、それがそう簡単に手に入るものではないと綾華と杉田も知っている。


「それじゃあどうするの、柴田君?」


 杉田もそれには柴田を見るしかなかったが、柴田は微笑みながらメガネを触る。


「警察が使えないとなると、最初から事情を知っている組織に頼るしかありません。浩介君のように強行突破もしたいのですが、それを乗り切るだけの力が今の僕らにはありません」

「それはそうだが、じゃあお手上げ状態って訳か?」

「いえ、確かな情報を持っていると推測でき、力もある組織があります。少し危険もありますが、僕は『依頼屋組織』に頼らざるおえないと思っています」


 以前の浩介の話から依頼屋組織が政府と敵対しているかもしれないと聞いている。うまくいけばそれに乗じて政府や異常な彼らの謎を知ることが出来るかもしれないと考えていた。しかしそれもうまくいけばの話である。下手をすれば依頼屋組織も政府の所有する組織であり、その場合返り討ちに合うのは目に見えている。


 それだけ危険な賭けになるのだが、今の柴田達が行動するならそれしかないのだ。


「でも、組織がどこにあるかなんて分からないわよ」

「警察ですら知らないことだからな」


 場所が分からなければ接触のしようがなく、調べるにしてもそんなに時間は掛けられない。柴田もそれには明確に答えられなかった。


「確かにそうですが、誰かひとりでも依頼屋組織に属する人物を見つけられれば、後は依頼をするという方法で何とかなると思いますが……」

「まあ、確かに今はそれしかないわね……」


 時間は掛かるかもしれないが、今の三人にはそうするしか出来ない。


「じゃあその手でいこう。先ずはどうする?」

「それなら、依頼屋組織と繋がりのあった教会を知ってるわ。そこを調べてみましょう!」


 綾華の提案に杉田はパン、と手を叩き、柴田も笑顔で頷く。


「……ちょっと待て」


 その三人を止めたのは他でもないマスターだ。突然のことに三人は無言でマスターに顔を向ける。

 マスターは洗ったカップを拭きながら不適に笑った。


「俺が教えてやるよ。依頼屋組織の拠点を」


 三人の思考が一旦止まる。コイツは何を言っているんだ、というような眼差しを向けるだけで次の言葉が出てこなかった。


「そんなに固まるな。俺は元々依頼屋組織の実行部に属していた。まあ今は喫茶店のマスターだが内情はお前らより詳しい」

「……は?」

「うそ……」

「………」


 三人はそれぞれ意表を突かれた顔を向ける。それは空想で構成された物語ではよくある話であっても、実際体験してみれば人はこのような反応になると思い知らされる程に驚く事実であった。


 しかしマスターの暴露は予想外ではあるが今の三人には救いの手となることは確かである。これからの苦労と時間を考えても大幅な近道となるのだ。


 だが、もう辞めた筈のマスターが自らの過去だけでなく組織の暴露までしていいのか、と杉田は疑問に思った。聞いただけの内容でも依頼屋組織がそこまで甘いとは考えにくい。


「そんな事を俺達に教えていいのか?」


 マスターの秘密と元依頼屋組織の人間が拠点となる場所を教えて後々いざこざが起きたとなれば立場的に三人にとって障害になるのは目に見えている。


「心配はいらない。俺も結構顔が知れている立場にいたんだ。今でも俺の耳に内部の情報が流れてくるぐらいだからな。それに高崎浩介をスカウトしている時点で仲間であるお前たちに居場所を伝えてもリスクはない。尤も、今の依頼屋は猫の手も借りたいほど人手が足りていない状況だから寧ろ歓迎される筈だ」


 マスターの言葉に柴田は疑問を持った。


「僕等としても教えて戴けることは助かりますし、断る理由もありません。しかし、イメージではかなり大きい組織を思い描いていたのですが、何故そんなに人手が足りていないのですか? 僕が思っているより組織は小さいのでしょうか?」

「……組織の規模でいえばあれ程大きな組織も他にないだろう。支部を含めれば日本全国にあるのだからな」

「じゃあ何故……?」


 マスターは溜め置きしていたコーヒーを入れたカップを三つカウンターに置き、もう一つ自分用でカップに注ぐ。


 三人はそれを口に付けマスターの言葉を待った。


「軽く百名。現在三十カ所。これが何を意味してるか分かるか?」


 マスターは重い口調でそう質問した後コーヒーを口に含む。


「………政府の特殊な力を持ったヤツらに殺された組織の人数と潰された支部………そうでしょ?」

「正解だ」


 マスターが元依頼屋ならば組織の拠点を教えると言った時点で政府と協力関係にあるとは考えにくい。浩介ならともかく今の三人には罠に掛ける程の戦力を持ち合わせていないからだ。拠点を教えてしまえば情報を不用意に教えることに繋がる。まずそんなリスクを犯す必要が全くと言っていい程無く、今までに浩介を罠に掛けることもいくらでもできたからである。


 となればマスターの言わんとしていることは容易に想像がつく。


 浩介から東野が言ったSランクへの警戒忠告を聞いていたし、完全なる思考能力を取り戻した綾華がその答えを出すのは簡単なことだった。


「政府と敵対関係というのも、今の状況が悪いというのも分かりました。その中でひとつ聞いておきたいことがあります」

「なんだ?」


 柴田は誰しも聞きたいであろう質問をする。


「依頼屋組織の存在意義です。何故この世界に依頼屋が誕生したのか? 何故そんなに大きくする必要があったのか? そして何を成そうとしているのか? その全てが知りたいんです」


 柴田に問われたマスターは顔を変えることなく一口コーヒーを含み、静かにカップを置いた。


「情報が流れてくるといっても最近の細かな状況までは俺も把握していない。それに俺が依頼屋に入った時には既に組織として成り立っていた」


 マスターは少し遠い目をした後、少なくなった三つのカップの中に熱いコーヒーを注いでいった。


「昔俺が聞いた話でよければ大まかに話してやる」


 三人は互いに目線を交わした後、再びマスターに目を向けた。


「お願いします」


 マスターは軽く頷く。


「依頼屋が誕生したのは、今からおよそ五十年前だ」







「――ッ! あぁぁっ!!」

「動いちゃダメ。身体の自然治癒力を高める薬を飲んだからって傷が治った訳じゃないから」


 ベッドから立ち上がろうとした浩介を小さな女の子が心配そうに言葉を掛ける。


 浩介が目を覚ましたのはつい先程だ。上半身は包帯だけが巻かれ、違うズボンが履かされているが脚にも包帯が巻かれているのがわかる。だがここが何処なのかも、目の前の女の子の名前も知らない。助けてくれたのなら敵ではないと頭で分かってはいるが、全く知らない場所で完全に警戒を解くことなど出来やしない。

 しかし、先ずは現状を把握したい浩介を一番に止めたのは身体全体に伝わる鋭い痛みだった。それは綾華の伯父の病室で体験した痛みの比ではない。身体中を突き刺されたような痛みはそれだけで気を失ってしまいそうになる程のものだった。


 浩介はベッドから足を出し、女の子と向かい合うように座るだけで動きを止めた。


「大丈夫?」


 女の子は依然心配そうな顔で尋ねる。


 見た目小学低学年ぐらいの少女は淡いピンクのワンピースを着ており、肩に少し掛かるぐらいの茶色でサラサラとした髪が可愛らしさを倍増させる。更には小さな顔にパッチリとした眼の相性が良く整った顔立ちをしている。その中でも印象的なのが少女の眼の色である。それは鮮やかなブルーだった。


 カラーコンタクトでも付けているのか、とも思ったがそれにしても綺麗すぎる蒼色がそれは違うと教えてくれている。


 少女の質問に答えることなく、次は周りを見渡す。

 部屋は殺風景なものであり、こちらの印象は銀色の世界に来たと思わせるような輝かしきメタルの部屋だった。しかしこれも圧迫感や違和感などもなく、未来へやって来たと思える程の空想世界のような居心地である。


 それは勿論浩介の気持ちの例えであり、近未来など体感したことのない浩介が言葉で表現するならそう言うだろう、という感性の思いである。


「大丈夫?」


 そんなことを考えていた浩介に再び少女が問う。

 流石にこれ以上少女を無視する訳にもいかず、浩介は少女に目を向けた。


「ああ、大丈夫。君は誰なんだ?」

「セリア」


 はっきりとそれだけ言った少女は真っ直ぐ浩介を見ていた。


「そうか、じゃあセリア。ここは何処だ?」

「フィーガルという船の中。ナーシェがあなたを連れて来た」


 浩介は目を瞑り状況を理解しようとする。


 女の子の名前はセリア。ここはフィーガルという船の中。船というのがイマイチ分からないがそれは後でわかるだろうということで片付ける。そして浩介を助けたのはナーシェという人物だということになる。


「そのナーシェを連れて来てもらえるかな?」


 それならばその人物と話した方が手っ取り早いと解釈した浩介はセリアにそう頼んだ。


 しかし、セリアが浩介に答える前にウィーン、という音で意識は音の鳴った方へと向く。

 それは自動ドアのような扉の開く音であり、そこからひとりの女性が姿を見せる。


 その女性もまた綺麗な顔立ちで、セリアの眼の色と同じ様な蒼い髪が背中で揺れる。白を基調とした身体のラインが浮き彫りになるようなノースリーブでタートルネックの服装が一段と女性らしさを演出し、蒼い髪もまた目立つ。


「もう意識が戻ったんだ。凄い生命力だね」


 笑顔でそう言う女性の口調は嫌みや敵対心などは含まれていなかった。本心で安堵していると一目見ただけの浩介にも伝わるような笑顔だった。


「君は?」

「ナーシェ。ナーシェ・バレンシア。宜しくね、高崎浩介君」

「じゃあ君が助けてくれたのか?」


 ナーシェは両腕を腰に付け胸を張る。


「そうだよ。感謝してよね」


 綾華と変わらないぐらいの高い身長のナーシェだが、見た目とは裏腹に行動が子供っぽく思わず浩介も苦笑する。


「ああ、感謝はしてる。だが聞きたい事が山ほどある。それに答えてくれたら心から感謝しよう」

「お前っ! なんだその物言いは!!」


 ナーシェの後に入って来た細身の男が見かねていきり立つがナーシェがそれを制する。


「やめなさい、カイ。あなたは下がってて」

「しかし――」

「勝手に助けたのは私。それにこんな状況で目を覚ました彼が何も質問が無い訳がないでしょ? 彼とは責任を持って私が話をします。異論は認めません」


 子供っぽい態度とは逆に威圧のある雰囲気で話すナーシェに、男は反論すら出来ず俯きながら下がっていった。


「大体の状況は後々把握できる。俺が一番に知りたいのは細かな現状じゃない。ただひとつあんた達に確認をしたいだけだ」

「確認……?」


 ナーシェは思わぬ浩介の言葉に首を傾げる。浩介は一度頷く。


「俺の考えが正しければこの質問で全てにおいて繋がりを見せる。その確認をするだけだ」

「へぇ………うん、答えてあげるよ。その確認をどうぞ」


 ナーシェは浩介を試すかのように軽い口調でそう言った。たかが知れているような確認だと心の中で確信しながら。


 そんなナーシェに浩介は単刀直入に言う、と言って一度その場にいる三人を見回した。その眼は確かなる確信を秘めた鋭い目線だった。


「あんた達は何処の星からやってきたんだ?」

「えっ――!?」

「なっ――!!」

「…………」


 セリアは顔色ひとつ変えなかったが、ナーシェとカイからは驚きの声が零れた。


 確信どころか真実を突いているその質問は流石に予想外の確認だったのだろうと浩介は軽く笑った。


「わかった。これで繋がったよ」



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