1話 人生投げずに、石投げる
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
「……。マジかよ……。」
俺は見慣れない風景に茫然としてからその直後に現実を受け止めていた。
脳内に響く声と何よりも直前までの現実がそれを証明したからだ。
総てを受け入れ、やる気もぼちぼちに起き上がり、あらゆる可能性を模索する旅を決意した。
人生切り替えが肝心。
★★★
地方の大学を卒業してからというもの就職の為、上京したはいいが昇進も昇給も縁遠い社会人生活を営み紆余曲折の末、苦節20回目の年越しを迎えようとしている。
【菱形 投矢】とは俺の事だ。
住み慣れた周辺の街並みは年末のカウントダウンイベントで忙しくなく賑わう。
―師走―
その喧騒ぶりは朝から冷え込む空気の寒さを紛らわす様に熱を帯びている。
行き交う人々が、やたらと眩しく視えて仕方ない。
仲睦まじく歩く若人達、燥ぎながらも楽しそうな家族連れ、もうすぐ年末だと言うのに働く人々。
皆さん御苦労様なこったと思うが俺もまた御苦労さんである。
「待ち合わせの時間はそろそろか……。」
取り出した携帯電話を確認すると、一通の通信記録が画面に浮かんでいた。
「何々……。」
それに目を通してから向かった先は海沿いの公園道に1件だけ建つコンビニエンスストア。
そこで待ち合わせていた相手と合流する。
「ひっしー、こっちこっち!」
俺を〝ひっしー〟と呼ぶ男は、かつて俺の後輩で今や上司の28歳の男、【流 優雅】である。
名門私立大学の院生をストレートで卒業後、何をトチ狂ったのか横浜の零細中の零細企業に入社する。
当時面接担当だった俺は彼の学識の深さや知見の広さ、要は【|ただならぬ高学歴と実績《超ハイスペック》】に圧倒されつつも面接時に苦言を呈したのだが、そんな彼を上役達が見過ごすわけもなく入社。
新人研修時に引率者として関わり始めてから同部署の誼もあり以降プライベートでも付き合いがあるのだが、互いに非世帯持ち、俗に言う独身貴族ならぬ独身平民だ。
共通した趣味も相まって付き合いが深いのもあり、歳の差を気にしないで済む間柄である俺達に敬語なんてものは息を忍ばせる訳もなく肩肘張らずに気さくに呼び合い、まるで同窓生のように茶化し合ったりするのだが……。
「優雅さぁ〜、お前何で今年も断ったんだ?引く手数多の癖に。」
〝流 優雅〟の武器はその賢さだけではなく容姿良し、手腕良し、愛嬌良しの三拍子揃った出来た男で言い寄って来る女性は実に多い。
ましてや直に年末。
人恋しさだろうと、本気であろうと求める者は求める時期。
だというのに彼は賑やかしい街中に両手に華を体現出来得る人生を授かっているのに、いくら仕事とはいえ40を越える歳のおっさんとこうして仕事先に足を運ぶのはどうかと思うが……。
「ひっしー、俺何度も言うけど嫁は二次元で良いのだ。至福なんだよ、アニメとか漫画とかゲームに没頭してる間がね、嫌な気持ちを忘れさせてくれるからさ。」
「とはいえ、入社3年で今度は部の長になるんだから今迄みたく、おいそれと遊んでられなくなるんじゃないのか?言い出しっぺなんだし。」
そう、俺の所属する新部署は製造業を主軸とした零細企業が媒体であるのだが、突如の方針転換で一部の赤字事業部を取り壊して新設された部署。
優雅はその長となり、俺は補佐となった。
その部署の新設にあたって俺達は昨年末から社内会議で発言した新部署の発足にこの一年、労力を費やして見事勝ち取った。
というより、もぎ取ったのだ。
ツテを介して少々強引に事業の立ち上げを画策し、会社の新たな財源としての重要さを如何に認識させようかと水面下で日々コツコツと時に説き、時に謀略を張り巡らし続けてきた。
そのロビー活動は実を結んで、ようやく新規事業として許可され、現在に至る。
「最早俺の地位は小さいながらも確立されましたから。代表を丸め込むのに苦労はしましたけど、着実に野望は一歩一歩進んでおるでありますよ。」
戯けて魅せるとはこの事を言うのだろう。
彼の余裕ある雰囲気に惹かれる異性達の気持ちも解らん事もない……気がする。
過去に不意に野望について彼は零細企業ならではだからこそ出来ると語った事もあったが、その道筋は盤石な様子。
「ひっしー、会社の暦上、今日は年末年始の大型連休……とはいえ仕事でもある。来ちゃったからには俺の部下なんだから働いてもらうぜ?とはいえ遊ぶくらいの気構えで良いからね。」
今日の目的は若年層や中年層を中心に人気沸騰中のアニメ、【ぐうたら冒険者】の新章放映記念として開催されるイベント会場に向かう途中で、それに関わる者として参加の招待が主催側からきた。
会社としても、この案件の報酬額に驚いた上役は二次元オタクの俺と優雅を責任者として差し向けたのだ。
「まぁ、【ぐうたら冒険者】は嫌いじゃないから引き受けられたけど、今後をつい考えちまうわ。」
「ひっしー、SFファンタジーならノリノリだけど、ジャンル代わるとポンコツだもんね。」
歯に衣着せぬやり取りは本来叱るべきなのだろうが、俺にはその気は微塵もない。
事実、優雅とは違い俺のオタクぶりはファンタジーに極振りしている。
専ら剣と魔法の世界観にしか興味がない。
だからアクション系はともかく恋愛系やミステリー系など他の様々なジャンルは、見はすれど食指は向かない性格。
「まっ。頼りにしてますよ、部長。」
「ひっしーもやるだけやってもらうからね?ていうか、先日の感触はどうだったの?」
優雅が気になっているのは、中途採用向けの面接の事だ。
弊社の歴史はそれはそれは永い。
地域密着型の製造業会社なのだが、歴史の割には企業体力も従業員の数も極貧。
経営陣は代々受け継がれてきた親族経営ならではの顔ぶれで、時代の変革や企業意識の改善なんてものは対岸の火事みたく見事に危機感皆無の他人事。
若い頃はどこの会社もそんなもんだと思っちゃいたが、何年も営業してりゃ嫌でも隣の芝生の青さは目につくもので、如何にうちの会社が時代に逆行ならぬ取り残されてきたか伺い知れる。
それゆえに、昨年から新部署、新事業の立ち上げに関わる一切を俺と優雅は抱え込むしか選択肢は無かったが、これが思いの外、辛さよりも充実感が勝っていて、古株らの皮肉や小言も気にならない反面、営業、企画、経理などから雑務にまで二人だけで熟さなければならず毎日忙しい。
だが、その辺については事業が軌道にさえのれば次第に手を離すつもりだから大した心配ではない。
そんな面倒厄介な現実をほんの少しでも軽くする為、仲間を増やす先行投資を常々仕掛けているが、企業体力の無さと零細ならではのこだわりも相まって採用は皆無。
時折、面接を設けてはみるも、その中身を知れば内定辞退も大きな割合で起こる。
俺達からすると新卒よりもある種社会の理不尽さや厄介さを身に染みて理解している人〝財〟に巡り合いたいのだが、中々現実は厳しい。
問いただしてから返事に時間を要した俺の反応に優雅も項垂れる。
「当面は、俺達でやるしか無さそうか〜。まぁ……日々楽しくやってるから大した問題じゃないさ、頼りにしてるよ、部長補佐。」
「そうだな、とりあえずこの一件を無事に終えれば少なくとも会長の説教は無いだろうし、その上、利益だって上がるんだ。気合いいれてやったろうやないか!」
関西地方出身の俺が方言を使うと、優雅も拙い関西弁で返した。
会場に着くと、この手のイベントでよく見られる列の長さに毎度思う。
どこからこれだけの人数が来るのか不思議。
「この事業じゃなかったら俺完全にあっち側で並んでたわ。」
「俺も。」
先方との約束時間より早めに現着した俺達は関係者通路からその光景を眺めていた。
「早く着いてるなら連絡しなさいな。こんな所で待ち惚けなんてさせなかったのにぃ。」
明るく上擦った声に駆け足で寄ってきた主に視線を向けると、今回の主催者側の責任者であり、俺達の事業の後ろ盾となってくれた淑女の姿が見えた。
「いやいや、こんな巨大イベントに呼んでくれただけで充分だよ、姉さん。」
優雅がそう口にしたのは、彼と12歳差である女性。
そして、稀代のアニメオタク。
その見識ぶりは優雅のオタクぶりも血によるものだと思わされたくらい豊富で、頭が下がる。
「お世話になっております、流代表。」
俺がそう挨拶すると、淑女は色香を漂さわせる笑顔を向けながら、俺達を関係者控え室まで案内してくれる。
その道すがら、今回の目玉イベントについての詳細を説明してくれるのだが、俺も幾分高揚していてその瞬間が愉しみで仕方ない。
何と言っても【ぐうたら冒険者】の一幕を主演の役者達が舞台上にて再現をするらしく、それはSFファンタジー好きにとって至高の催しである。
「彬さんが詠唱すんのか、そりゃテンション爆上げだな……。」
一人静かに昂る俺の心の声は気付けば漏れていて我に還る。
「あら、投矢さんったら、歳甲斐もなく可愛らしい反応するわね。」
流代表が自然体な笑顔を向けながら、そう口にしたが、いやはや恥ずかしい。
物語の主人公が唱える魔法の詠唱を配役主である役者が再現するのだが……その役者の大ファンであることと、その彼が吹き込む生命もとい、才覚溢れる声は【ぐうたら冒険者】の主人公の存在感を際立たせ、見事ハマっていて興味が尽きない。
「実は姉さん、ひっしーの趣向に合わせて今回の目玉イベント企ててぶっこんだんですよ。我ながらとんでもない人の血族だと認識させられましたよ。」
「そうなのか?なら、流代表には個別の何か御礼しなきゃな。」
控え室に着くと、あらゆる協賛者や役者が準備を終えていて挨拶や会話を交わしていたが、流代表が姿を現すとその場は和みつつも、一つの纏まりをみせる。
登壇を控えた役者達は綿密な打ち合わせを終えた後に流代表に挨拶にやってくると、彼女は一人残らず激励する。
役者も裏方も関係なく。
その様子を暫く2人で傍観していたが、ふと流代表が俺達に手招きすると、俺と優雅は視線を見合わせた後に代表の下へと歩み寄る。
そこで、今回の目玉イベントである主役の声の主と引き会わせてくれた。
俺が大ファンと知った上での仕業に少しばかりの照れを隠しきれなかったのだが、そんな俺を見て彼女は嬉しそうな表情をすると、今度は協賛者達と会合があるのかそちらへと振り返り片手を挙げて去っていった。
「聞きましたよ、流代表とは旧いただならぬ仲だと。」
主役担当の役者がそう言うと、俺は旧いも何も、出逢ってまだ3年も経たないと返すが、優雅も役者も口角をあげてにんまりと笑う。
まぁ、3年経たないとはいえ、今迄何かと苦労する度に助け舟を出して貰えていたから、ある意味でただならぬ関係なのかも知れない。
「それはそうと、無理強いしたようで何かすみません……。」
今回の目玉イベントについて語り合うが、相手は微塵も気にしていなく、むしろ愉しみだとさえ言ってくれた。
「登壇のタイミングは予め用意された抽選番号が発表された時ですから、あくまで自然体で来てください。その後の質疑は幾つか有りますけど全て此方に任せて下さい。それからは舞台上にあるスクリーンやドローンから立体映像が幕を張りますので、その場に立っているだけで充分ですから。是非とも、いい誕生日にしましょう!」
俺は優雅に慌てて視線を向けると、彼は満面の笑みを浮かべていた。
事の真意に気づいた俺は再び役者の方に向けると彼のナイスガイなウインクに呑まれ、握手を交わしその後はその時をただひたすら待った。
胸の高鳴りを秘めて。
☆☆☆
「ど、ど、どうしよう、優雅。滅茶苦茶緊張してきた。」
「珍しい。人一倍肝の据わったひっしーが緊張するなんて。ささやかだけど俺と姉さんからの誕生日祝いです。愉しんで。」
屈託ない笑顔の上司とお得意様の策略に俺は見事屈服して会場の熱狂に負けず劣らずな張り詰める緊張の足音が、さざ波のように押し寄せる。
会場の隅に鎮座していた俺達は囁き合いながらその瞬間を待つ。
舞台上では、あらゆるイベントが執り行われていってついにその瞬間が訪れた。
告げられた番号は震える手の平にある。
音響さんや照明さんの息の合った作業に俺の視界は白く強烈な灯りに支配されると、進行役の声に従って、壇上へと辿り着く。
「なんだ、おっさんか……若い娘が良かったんだけどぉ〜。」
主役の半端ない脱力感の声に舞台上にいる同業者達は嬉々としながらも激しくツッコミを入れると、会場の熱は更に盛り上がった。
「何かすみません、おっさんがこんな貴重な経験させてもらって。」
そう言い返せば、偶然を装って俺が誕生日だという事を明かされるわけだが……よし、打ち合わせ通りの展開だ。
会場の客も、ライブ放映のコメントもうなぎ登りで盛り上がっているのが解る。
流石は役者。
声の張り方や口調の強弱の使い方も言葉の選び方も見事。
「じゃあ、誕生日祝いに神の加護を唱えちゃうから、ひっしー、そこに立ってもらっていいかな。」
なんとも気怠そうな感じと初対面での愛称呼びに会場も映像からも笑いが溢れた。
幸せだ……堪らん。
このやり取りさえも会場から笑いをさらうのは、やはりプロフェッショナルだ。
後は指定の位置に移動すれば、最新技術によって俺は手品のように姿を消して世界の果てまで飛んでいく……という設定だ。
これで今日の仕事とサプライズプレゼントが終わると思うと、少し切ない。
非日常感が終わる瞬間てのは何故に儚いのだろうかと考えながら所定の位置に立つと、主役の声がマイクを通して会場に響き渡る。
その声が終わりかけた頃とほぼ同時にありとあらゆる方向から眩い光量が放たれ、【ぐうたら冒険者】でよく目にした魔法陣が浮かび上がってきた。
だが、次第にその光量の多さに俺はやがて目を閉じ、会場のどよめきを耳にしていた。
すると全身に軽く電流が走り抜け、思わず奇声を上げてしまうと、後方から役者達の声が聞こえた。
用意されていた台本に無かったアドリブだと勘違いしたのだろう。
だが、しかし……本音である。
圧倒的な光量に俺は目を開けることができずにいたが、打ち合わせ通りにその場に立ち続け我慢した。
★★★
やがて静寂から少し目を開けると、足下一面に広がる緑色と喧騒に塗れていた会場の光景が微塵もない景色がそこにあった。
「……。」
最新技術の恩恵とはこうも〝リアル〟なのかと感心すると、雄大な景色を吹き抜けてゆく風に束の間の感動を抱いた。
「……。ってんなわけあるかい!ヤバい、ヤバい、ヤバい!ここ完全に異世界だろ!?おい!誰か!誰か居ないか!?」
すると、脳内で何処からともなく声がした。
『ただの屍すらない。可哀想に。』
「お前がおるやないかい!この状況説明してくれ!」
静寂。
風の音だけが聞こえる。
「おい!声の人!アンタだよ、アンタ!」
しばし待つが、うんもすんも応答しない。
「さっきの魔法陣といい、脳内にした声といい、来てもうた……異世界……てことは何か!?魔法か!?剣と魔法か!?ひゃっほーぃ!!」
人生において赤色が象徴的な配管工並みに叫んだのはいつぶりだろうか。
「しかし、あれだな……見渡す限り山脈に平野しか無いとなると異世界ファンタジーと言えど、不安でタジタジになるわ。」
脳内で微かに笑い声がした。
「お?やっぱ居たな。すまんね、声さん。親父ギャグだ。」
「失笑ですよ。」
「失笑かい。」
それからは、俺は声の主からこの世界についての知識を学ぶが、情報量が多すぎて敵わんので『始まりの本』と云う銘打った書物を生成してもらいあてがってもらう事にした。
それから、元いた世界の道具や服など数点だけでは話にならないので、旅立ちの道具一式も貰う。
声の主曰く、俺が今いる場所は大陸の中心に位置する大陸一の小国セキトバらしく、主要な都市や街道からかなり離れているらしいのだが、そこは旅立ちの道具一式に入っていた大陸地図を拡げて確認してみたが、地図が馬鹿みたいに大きい。
「声さん、声さん。これ、かなり不便!」
「しょうがないですね。ではこうしましょう。地図の端っこで構いませんので噛み千切って下さい。」
「こうか?」
俺は馬鹿広い地図の四隅の一角を噛み千切ってみたら声の主は爆笑していた。
「何やってんですかぁ。」
何って、そうやれと言うたん、アンタやないか。
俺の純粋無垢な心は、声の主に弄ばれたのだ。
「すみません。まさか本当にやるとは思いもしませんでしたので。」
ほんのり呆れもあったが、最早笑い飛ばした方が良いと判断してからは、すんなりと声の主と意思疎通が出来るようになり、あれやこれや効率良く情報をまとめて、記憶する。
そして明かされた真実に俺は絶望した。
この世界では異世界転生はそう珍しく無いらしいが、異世界転移は禁忌とされているようだ。
だが、何かしらの技術的問題か、極度の不運さか判断がつかぬまま神界でも今回の転移について揉めているらしい。
「なぁ、とりあえずどうしたらいいかな?」
「そうですね……神々の答えが出るまでこの世界を楽しむのはどうでしょうか。勿論、怪我や死も有りますが。先ほどから此方を殺気満々に眺めている魔物が居りますし、闘いのコツを教えますので手解きがてらに倒してみましょう。」
☆☆☆
人生の中で、死ぬかと思った経験なんて有りふれた事だったが、今回は次元が違った。
格と呼ばれる制度は有する能力の高さや積み上げた実績で七段階に区分される。
俺は当然一番下のランクでFランクから始まるのだが、つい先程まで死闘を交わしていた大きな体格の猪は何気にDランクで、格上も格上。
相手に不足無しと腹を括って挑んでみたもののFランカーの俺が二階級格上の相手を倒した事実を冒険者ギルドは疑った。
その為、俺は今、冒険者ギルド内の諮問室に身を寄せてはギルドの長らに色々問い詰められている。
「ここまで色々と調べさてせて貰ったが……お前さんの話で転移者だと言うのは理解出来たが、なんせ過去、是迄の転生者や転移者なら馬鹿げた能力と技能を持つものだが……よくもまぁ、こんなポンコツ能力で【暴れ猪】を討伐出来たものだな。それも、転移直後の戦闘なんて自体異例だ。こんなん幾ら義務とは言え詳細を報告したら王宮は大騒ぎだぞ、全く……。」
元来、この世界に呼ばれた転生者や転移者というのは何らかの異常能力を有するらしく、それが証明となり、大概は冒険者や騎士など多岐に渡る活躍を約束されるらしいのだが、その類いの期待感はギルドには無いのは肌身で感じ取れる。
「そうですね……ただでさえこの国における転生者・転移者の管理を任されている立場とはいえ報告してしまうと投矢さんは十中八九、詐称や虚偽の罪で幽閉されるか、あるいは……。」
ギルドマスターもその側近、副長と呼ばれる彼らも心配はしてくれているのだが、その表情は重々しい。
「なんか他に無いのか?すんごい魔法使えます!とか、加護有ります!とか、とんでもない物作れます!とかなんかあるだろ!?……このままじゃお前さん、間違い無く極刑確定だぞ?」
冗談じゃない。
大体は異世界転移なんて異能を頼りに運命を切り拓いてゆく心躍る展開のはずだろ。
なんで俺に限っていきなり物語の終幕を目の前にしなきゃならんのだ。
「そうですか……。」
脳内に響く声の主に此方が散々呼び掛けてはみるが、何処へ行ったのやら返事が無い。
「……なら、もう一回その、【暴れ猪】とやらを狩らせていただけないでしょうか?皆さんの眼前でやってのけさえすれば何よりもの証拠になると思いますが如何でしょうか?」
明らかにギルドマスターらの落胆ぶりが伺い知れる。
「……いいか、投矢よく聞け。この世界じゃ転生者はともかく転移者ってのは神殿にて召喚されてきた決まりだ。それに、今となっては転移は禁忌ときてる。それが平野のド真ん中で起きたと知られれば魔物扱いとして見做すのが必定。つまりお前さんは今、得体のしれない魔物として認識されても仕方ない立場なんだ。仮にお前さんの狩りを見知った所で魔物が魔物を仕留めるだけでなく、下位の魔物が上位の魔物を屠ったなんて事実はこの国、いや、世界からどう思われるか、聡明なお前さんなら解るだろう?ましてや、まだ洗礼を終えていない子供なんだぞ……。」
は?
子供?
いや、俺は40過ぎたおっさんだぞ?
「鏡観てみろ。」
ギルド長から手渡された鏡を覗き込むと肌に張りがあって、見た目も遠い昔に憶えのある風貌をしている。
「なんじゃこりゃ!」
騒ぎたいのはこちらの方だと言わんばかりに呆れてものが言えないギルド職員らも突っ立ったままで様子を伺っている。
途方に暮れるしかない……のか?
声の主に言われるがまま馬鹿正直に従ってしまった己の短絡さが悔やまれる。
頭が回らない。
そういやこっちに来てから何も口にしていないし喉も渇いている。
「ギルド長……なんか食べ物か飲み物有りません?」
そういや、声の主が言ってたっけ。
魔力の根源、魔素を使用したら必ず飲食を摂らないと魔素の回復はおろか衰弱の飢えで死ぬって。
「与えてやりたいのは山々なんだが……理解してくれ。」
おいおい。
このままじゃ俺は始まりの街で終焉を迎えるぞ。
ぼんやりとしだした脳内で転移直後の声の主との会話が流れる様に走り抜ける。
すると、一つだけ不意に、とある言葉が蘇るとそれを呟く。
「能力開示……。」
ギルド職員らが一斉に飛び跳ねるように驚くと俺はそれを遠のく意識の中垣間見た。
☆☆☆
「あ、目が覚めましたか?寝起き早々に申し訳ありませんが、食事を御用意しましたので、どうぞ口になさって下さい。」
副ギルド長のライラがそう言うと、寝ぼけをかましつつも俺は誘われる様に視線をそこに向け、食事にようやくありつけた。
「先程は大変失礼致しました。」
傍らの椅子に腰掛ける彼女がそう呟いた後、経緯を教えて貰った。
俺は諮問中に卒倒したが、どうやら直前の能力開示が転移者としての強力な証明になったらしく、ギルドは急ぎ手厚く迎え入れてくれたようで、ギルド長は早々に王宮へ異例の転移者として報告に向かい俺は人語を操る魔物から人として見做された事にひとまず安堵する。
「それで今後の動向なのですが、投矢様は監視対象として暫く当ギルドで身柄の保証をさせて頂きます。何分、転移の謎が残っておりますので王宮も投矢様の存在に危惧されておりまして……。」
是迄の話通りなら当然だ。
突如として振って湧いた人とはいえ、誰でも警戒するのは当たり前だし、脳内に響く声とか常人からすりゃただの気狂いにしか思えないだろう。
それでも、俺は生きていかなきゃなんないし、今後の活路を見出して行くには一人じゃ荷が重すぎて考えるだけでも疲れる。
何より、気になる事なんざ山程あるし……。
「異世界の食事って味も良いんだな。元いた世界を思い出すよ。」
「えぇ、古来より伝わる製法が数々の転生・転移者によって伝えられていますので……日本から来られた方も結構いらっしゃるんですよ。」
異世界転系にえらく寛容なのはそういう意味かと感心するしかない。
心の中で顔も名前も知らない彼等に俺は感謝する。
「ところで話は変わるけど俺の能力開示を観てから対応が変化したんだよね?なんで急に?」
俺がそう聞くとライラは首を横に振ったが、憶測だとこの世界における神々の不干渉により、能力が正しく表示されていないのでは無いかと論点は着地する。
しかし俺が開示すれば正規な表示がされているのか、ライラに促されてしかとそれを観る。
名前に種族に能力に技能に称号までもが表示されるのだが……。
「俺の能力ってなんかバランス悪くない?」
「えぇ。破茶滅茶ですよ。」
筋力、体力、敏捷は最高格のSそれ以外軒並み最低格のFで過去是迄のどの異世界人よりも極端らしい。
「つまり……能……筋?」
「えぇ。そう言わざるを得ないです……が、これならば【暴れ猪】を投石だけで屠った謎は説明がつくとギルド長は仰っていましたから心配はないかと!」
技能欄には3つの言葉。
風属性加護と打撃狂い。
何より気になる投擲馬鹿という名前に心当たりしかない。
俺は幼い頃から野球をこよなく愛している。
白球を追いかけた日々は未だ鮮明に憶えているし、それなりに自負もあった。
「あの、よろしいでしょうか投矢様。」
ライラの声に俺は顔を向けると彼女はこの世界の理をまた一つ教えてくれる。
レベルシステム。
どんな英傑も豪傑も始まりは技能レベル1らしいのだが俺は既にレベル7の表示がそこにある。
それは既に能力が天井に到達している事実に他ならない。
「つまり……これが俺の異常能力ってわけだ。」
「えぇ。だからこそ王宮としては未知な事象ゆえに警戒せざるを得ません。詰まるところ人語を操る魔物……という公式見解です。ですが、我々ギルドは投矢様を人として接する事をお約束致します。その能力をこの世界にどうかお役立て頂けませんか?」
ライラの表情が少しばかりの強張りを孕んでいるのは間違いなくて、きっと彼女も心の底では不安なのだろう。
「大丈夫、安心してくれ。俺は元いた世界に帰りたいし、聞いた話じゃ帰れるらしいじゃないか。ならばやる事は一つ。迷惑かけるつもりは無いから。」
ライラの表情が和らいだ。
だが、異例の転移者の帰還方法は従来の方法では無理だと既に確定していた。
俺が眠る間に王宮や神殿から来た者達の努力は無になっていたようで……それでも俺は諦める訳にはいかない。
必ず何か方法は有るはずと俺の予感がそう言っている。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪




