表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

14話 エピローグ+α③

 帰り道。

 椿は不意にとある十字路で足を止め、わたしの制服の裾をくいと引っ張ってきた。

 振り返って頭に疑問符を浮かべてみると、


「なぁ、寄り道してもええ?」


「まだ話し足りない感じすか?」


「まーなー。ここらへん思い出の場所あんねやんか。やから久々に行って思い出に浸りたいねん。そんな逸れた道にあるわけちゃうからさ。ええ?」


「全然いいよ」


 外はまだ橙色の光がわたしたちを照らしてくれているような時間で、夜ご飯にも早いので寄り道を快諾。


「ありがとう、深喩ちゃん」


 そんなわけでわたしたちは、本当なら前へ進むところ左に曲がり、そして歩いて5分もしないうちに右方に公園を発見した。

 公園と言ってもそれは名ばかりで、ウチの教室くらいの面積に4分の1くらいを占める大きさの防災倉庫と申し訳程度にベンチ、それから木がまばらに何本か植えられているというだけ。

 何の感情が起こっていないわたしに対して椿は、


「うっわ、なっつ! よう来たわー、ここ。変わらなすぎやろ! ふいに昔のことが頭に蘇ってきて涙ちょちょぎれるわぁ……」


「へぇー、椿みたいなお嬢様にこんな寂れた場所で遊んでいた幼年期があるとはね。てっきり大きい家に付いてる大きな庭で大きい犬と駆けずり回ってたものかと」


「大きい家も大きな庭も大きい犬も持っとうけど、中学生が放課後友達とたむろする言うたらやっぱこういうこぢんまりとした公園が定石やん?」


「あぁ、中学生か。そうだったね。じゃあここで麗衣と……」


 自分が言ったくせに、麗衣という名前が出てきてなぜだか喉がきゅっと締まるように苦しくなった。


「……遊んだりしてたの?」


「そーやでぇ? なに、天下の狼代麗衣の中学時代と遊んでたうちがそんなに羨ましいん?」


「いや、そういうわけでは……」


「照れんでええよ。それは人間の本能や。羨ましがるのも無理ないって」


「違うってば……」


「ははっ、深喩ちゃんも麗衣のことがほんま好きやなぁ」


 椿は本当にわたしの話を聞かない。

 いや、聞いてるけど面白がって変に解釈してるだけだ。

 椿は昔からこうやって人に小石を投げて遊ぶのが好きだったんだろうなぁ、なんて想像してみたりする。


「……あ、一個思い出したことあるわ。この倉庫に背中合わせて立ってくれへん?」


 中学の頃にやってた遊びか何かを再現してくれるのかと思ってわたしは素直に椿に従って、


「えー、こう?」


「そうそう」


 と頭をぴったりと倉庫にくっつけた瞬間──わたしの唇はいやに熱を増し、湿り気を帯びるようになっていて、


「つば……き? な……に……?」


 左右の視界が椿の長い髪で遮られていた。

 わたしに一体何が起こったのか、目の前で起きた光景をまったく自分の中に落とし込むことができず、継ぐ言葉も何も出てこなかった。


「なにって……キスやろ」


「そんなの分かって……って、あっ、んっ」


 椿は言葉を遮ってわたしの唇を貪り始めた。

 それはわたしの反応を楽しむように、一拍置いたり、はたまた連続でしてみたりとなんともいやらしく、わたしに喋る隙を与えない。

 さらに、椿は気づかぬ間にわたしの頭に手を回していて、というか両腕で抱き込むようになっている。

 その密閉された空間内は椿のいい匂いで充満してるせいで、呼吸するたび、息が詰まりそうになる……。

 抵抗しなきゃいけないのに、身体が快楽を受けるモードになっていて言うことを聞いてくれない。

 あぁ、気持ちいい……。

 椿とも友達だからキスなんか絶対にしちゃダメなのに……。

 しかもここは外だし、誰かに見られるかもしれないのに……。

 色んな感情が頭の中で錯綜しておかしくなりそう……。

 

「……っふう。見様見真似でやってみてんけど案外いけるもんやな……」


 ようやく動きを止めると、椿はわたしとおでこをくっつけてそんなことを言った。

 抗議とか疑問の言葉とか、いっぱい口にするべきことはあるのに、それらを構成する単語は集まったと思ったらすぐに霧散していって、形にならない。


「……ごめんな。実は、深喩ちゃんの話、全部知っててん、うち」


「え……?」


「さっき、喫茶店で言うてた話、アレ翼くんやなくてアンタの話やろ? 翼くんのこととして話してたんやろ? でもまあ、翼くんも深喩ちゃんの奪い合いに参戦してきてるってのは知らんかったけど」


「……」


「昨日な、麗衣が大泣きしながら電話してきてん。初めて大親友の麗衣の泣き声聞いたから、あん時はほんまに動揺したわ。……ほんで、麗衣が深喩ちゃんのことを好きだとか、昨日あったこととか、その他諸々の事情ぜーんぶ聞かされたわ」


「全部……」


「アンタ、豊浦さんとデキてはるん?」


「デキてないっ! それより、それよりもさ!」


「あー、分かってる分かってる、分かってるよ。深喩ちゃんの思ってる疑問な。アレやろ、かの麗衣様がどんな泣き方してたかやろ? 麗衣はな──」


「そんなことじゃない! なんで……なんで、わたしにキスしたの?! からかいにしては限度が過ぎる! しかも麗衣のことも知ってたのに……っ! ホントに意味分かんない!」


 脈絡なくキスしてきたのにもひどく混乱したのに、椿は麗衣がわたしのことを好きなのだと知ったうえでわたしにキスしてきたという……。

 椿と麗衣は親友同士なのに、なんでこんな自分から仲を引き裂くような真似するんだよ……。


「……そーやなぁ。ここからは自分語りになってまうけど堪忍したってや? うち、昔から人をオモロいこととからかうのとか好きやってんか。やからオモロい事件とかあったら第三者の立場から色々言ったるのがはちゃめちゃに楽しかってん。そのせいで麗衣には野次馬根性の権化とか皮肉られる始末。……正味、そんなん言われても全然気にせーへんかってん。うちって、誰に言われても関係ねぇ、みたいなそういう感じの人間やし。でもな、ふと気づいてしまったんや。うち、第三者の脇役のモブとして外から石投げてるだけでええんかって。折角、目の前でオモロいこと起こってんのにうちこんなんしててええんかって。いや、よくない、よくないよ。ずっと全ての第三者として生きるなんてオモロないやん。うちかてオモロいことしたいねん。その渦中に入っていきたいねん。……ほんならオモロい事件が舞い込んできた。乗らないわけないやんけ、こんなん」


「おかしい、おかしいよ……。そんな自分の都合でトラブルに首を突っ込んで、増してや状況を引っ掻き回すなんて……。絶対におかしいよ!」


「ふふっ、おかしいな、確かに。でもあくまでうちは深喩ちゃんを困らせて反応を楽しみたいだけ。あ、もちろん、ここでキスしたこと、うちは秘密にするつもりやし、深喩ちゃんも喋らんやろ? なら状況は変わらんやん。麗衣は大親友やし、別に敵対する気はないねん。要はな、深喩ちゃんの4人目の恋人候補としてこっーそりちょっかいかけたいだけやねん」


「何を言ってるのかさっぱり……」


「じゃあこうしたら分かるんちゃう?」


「な、なにする気……?」


 椿はわたしの太ももに膝をねじ込んできて、そのせいで身体が弛緩すると同時に次の快楽に向けて身構えるように固まってしまった。

 

「待っ……」


 またもや制止の言葉を口にするのは遮られ、その代わりに、わたしの中にぬるりと異物が入り込んできた。

 

「んっ」


 わたしが身動きを取れないのをいいことに椿の舌は口の中で動き回り、熱から唾液から何から何まで吸い上げられそうな勢いで……。

 そうしてひとしきりわたしを弄んだところで椿は顔だけを離し、わたしをじっとりと見つめながら、


「……好きやで、深喩ちゃん」


 と、いつもの椿にはまったくもってふさわしくない声量で言ってきた。

 また、わたしを見つめるその目はいつかの誰かのそれとよく似ていて、椿の言葉だというのにいくらかの信頼を持たせた。


「これから……ウチ、こぉへん?」


「ウチってなんでよ……」


「皆まで言わせんといて? 深喩ちゃん、豊浦さんとか翼くんと色々凄いことシてんやろ? ならうちもそういうのやらんと同じ土俵に立たれへんやん? ……ダメ?」


 椿はわたしの両手を握り、そのまま自分の胸元へ引き寄せる。

 そこからは椿の体温だけじゃなくて、忙しない鼓動さえ伝わってきて。


「ダメ……じゃないけど……」


 あぁ、わたしってホントに……チョロい。

最後まで読んでくださってありがとうございます。評価やリアクションをぽちっとしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もう終わり?!続き気にしすぎる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ