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第7話:闇の監査官、ベルベット

領地の再生において、最も厄介なのは「見えない金」の流れだ。

 表の街道を整えても、山を越え、夜陰に乗じて動く「裏の物流」――密輸と情報漏洩を放置すれば、健全な市場は育たない。


「エリシア様、ご報告を。物流警備保障(PMC)の網を抜けて、未申告の物資が領外へ流出している形跡があります。推定損失、週に金貨50枚相当」

 カイルムが、厳しい表情で一枚の監視報告書を差し出した。


「追跡は?」

「プロの仕業です。足跡も、魔力の残滓も残っていません」


 私は、手元にある「全領土熱量消費グラフ」を眺めた。

「足跡は消せても、人間が活動した『結果』は消せません。カイルム。……この第4区画、廃坑の奥。ここだけ、夜間の気温低下が計算値より0.4度高い。人が集まり、熱を発している証拠です」


 私は、セラフィナを伴い、夜の廃坑へと向かった。

 そこには、ノアール領の闇を仕切るギルド『沈黙の秤』の拠点があった。


 暗がりの中から、何十もの毒矢が私たちに向けられる。

 だが、その奥から現れた女の冷ややかな声が、場を制した。


「……公爵令嬢が、こんな掃き溜めに何の用かしら? ここは数字と理屈が通じる場所じゃないわよ」


 現れたのは、深紅のドレスを纏い、紫の煙管をくゆらせる妖艶な美女――ベルベット。

 彼女は、かつて王都で「最も恐ろしい帳簿係」と呼ばれ、不遇な理由で裏社会に身を落とした情報のプロだ。


「ベルベット。あなたのギルドの『裏帳簿』、拝見しに来ました」

 私がそう告げると、彼女はくすくすと肩を揺らした。


「裏帳簿? あるわけないじゃない。私たちはただの、日の当たらない場所で生きる鼠よ」


「では、この数字は何かしら?」

 私は、持ち込んだ端末から、彼女たちの拠点の『仕入れ明細』を空間に投影した。


「あなたが過去一ヶ月で購入した食料、ランプ用の油、そして衣服のサイズ。……逆算すれば、ここに潜伏している人員は142名。しかし、あなたが周辺で略奪したとされる金額では、あと12名の給与が払えない計算になります。……その差額、どこから得ていますか?」


「…………」

 ベルベットの目が、鋭く細められる。


「結論を言いましょう。あなたは隣国の『情報機関』から、ノアール領の偵察を請け負い、その報酬でギルドを維持している。ですが、その報酬……。彼ら、2割ほど中抜きしていますね? 私の計算によれば、あなたは実労働に見合わない『低賃金』で使われています」


「……何が、言いたいわけ?」


転職ヘッドハンティングの提案です。ベルベット。……その安い裏切りを今すぐやめて、私の下で**『領地監査官』**として働きなさい。あなたの仕事は、領内の全不正を暴き、その没収額の3パーセントをインセンティブとして受け取ること」


 私は、懐から白紙の契約書を取り出した。

「裏社会のコネクションを、私の『情報網インフラ』に書き換えなさい。そうすれば、あなたは二度と、中抜きをするような無能なクライアントに頭を下げる必要はなくなります」


「お嬢様、ちょっと強引すぎない……?」

 後ろでセラフィナが呆れているが、ベルベットは煙管の煙を吐き出し、私の目をじっと見つめた。


「……私の裏帳簿を、たった一ヶ月の食料購入量から導き出したの? ……あはは、狂ってるわ。このお嬢様、本当に狂ってる」


 ベルベットは、持っていた煙管を床に落とし、私の前に跪いた。

「いいわよ。隣国のケチな役人に情報を売るのも飽きていたところだわ。……私のスキル、高く買ってくれるんでしょうね?」


「ええ。あなたの『情報の精度』が、私の『統治の利益』に直結する限り、上限なしの報酬を約束します」


 その瞬間、ノアール領の「裏」と「表」が、私という中心点で統合された。

 

> **【ノアール領・組織図更新】**

> - 行政・財務:セラフィナ・マーロウ

> - 治安・物流:カイルム・ゼノス

> - 監査・諜報:ベルベット(NEW)


「さて、ベルベット。最初の仕事です。……王都で私の名前を騙り、ノアールの偽装国債を売り抜こうとしている不逞な商人がいますね? その者の資産状況と、関係者のリストを明朝までに。……資産の凍結と回収は、カイルムが担当します」


「喜んで。……ふふ、お嬢様。あなたと仕事をするのは、この世で一番スリルがあって、一番『コスパ』が良さそうだわ」


 こうして、私のチームは完成した。

 一方、王都では――。

 インフレが加速し、紙幣が紙屑と化したことで、市民の怒りが頂点に達していた。

 だが、その裏で、王太子ジュリアンはまだ気づいていない。

 自分たちのすべての通信が、すでにベルベットを通じて私の「監査対象」になっていることに。

第7話をお読みいただき、ありがとうございます。


表のセラフィナ、裏のベルベット。

二人の有能な女性に支えられ、エリシアの「経済支配」は盤石なものとなりました。

有能な者が適正な報酬を得る。この当たり前のことができない王国は、

もはやエリシアにとって「狩り場」に過ぎません。


次回、第8話。

ついにエリシアが世界に向けて**『タックスヘイブン宣言』**を放ちます。

重税に苦しむ全世界の商人が、ノアール領に押し寄せる大転換点。


物語がいよいよ「国家間経済戦」へと発展します。

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