第17話:魔法技術の「特許権」とロイヤリティ
ガルティア帝国が、禁じ手に打って出た。
ノアール領の独自技術である『高純度魔石精錬法』をスパイによって盗み出し、それを軍事転用した新型魔導砲『インペリアル・バスター』を量産。国境付近に配備したのだ。
「お嬢様、事態は深刻よ。帝国の模倣品は質こそ落ちるけれど、数が揃っている。……私たちの技術的優位性が、力ずくで踏みにじられようとしているわ」
セラフィナが、焦燥の色を隠せずに報告する。
「『盗まれた』のではありません。……『ライセンス市場を開拓させた』のです」
私は、カイルムが磨き上げた眼鏡をかけ直し、机の上に一枚の認定証を置いた。
それは、大陸全土の商工ギルドが連名で発行した**『大陸統一特許証:第001号』**。
「セラフィナ。……私は三ヶ月前、海洋連合や周辺諸国のギルドに対し、多額の寄付と引き換えに『知的財産保護法』を採択させました。……今や大陸の全商人は、私の許可なく模倣技術を流通させることを禁じられています」
「……でも、帝国はそんな法、無視するでしょう?」
「ええ。ですが、彼らが兵器を作るための『部品』や『触媒』を売っているのは、そのギルドに属する商人たちです」
翌日。国境線にて。
帝国の将軍が、ずらりと並んだ新型魔導砲を背景に、私を嘲笑った。
「エリシア! 貴様の独占は終わりだ! この魔導砲があれば、ノアールの障壁など紙細工に等しい。……今さら『返せ』と言っても遅いぞ!」
「『返せ』などとは申しません。……ただ、使用料を請求しに来ました」
私は、拡声器で淡々と告げた。
「将軍。……その魔導砲に使用されている術式、および精錬された魔石の結晶構造は、私が所有する特許の侵害にあたります。……先ほど、大陸商工ギルドの執行官を通じて、貴軍の全兵器に対する『使用差し止め命令』および『資産差し押さえ』が受理されました」
「……はあ!? 戦場で何を寝ぼけたことを!」
「寝ぼけているのは貴方です。……その砲を起動するための『導力触媒』。……実は、ノアール製以外の触媒には、私が意図的に混入させた『特定の不純物』に反応して自壊する術式が組み込まれています。……模倣品で無理に起動すれば、十秒以内に暴発しますよ?」
将軍の顔が引き攣る。
私はさらに、手元にある「請求書」のホログラムを敵陣の空中に投影した。
【知的財産権侵害に伴う賠償請求】
基本ライセンス料: 砲一門につき金貨1,000枚。
無断使用による違約金: 通常料金の500%。
監査費用: 将軍、あなたの滞在費を含む実費。
※未払いの場合: 帝国が保有する『他国の全預金口座』を、特許侵害の担保として凍結します。
「……現在、貴軍が保有する魔導砲は120門。……合計違約金は金貨60万枚です。……これ、帝国の現在の軍事予算で払えますか?」
「……っ、撃て! 構わん、そんなハッタリなど無視して撃て!」
将軍が絶叫し、兵士たちが点火レバーを引く。
だが、放たれたのは破壊の光ではなく、無残な破裂音と、砲身から吹き出す黒煙だった。
「……申し上げましたよね? 『不純物』に反応すると。……ライセンス(許可)のない技術は、ただの危険物です」
私は、呆然とする将軍を見据え、無慈悲に宣告した。
「将軍。……これより、侵害品の『回収・廃棄コスト』も貴国の債務に加算されます。……あ、もし『正規ライセンス』をご希望なら、分割払いも受け付けておりますが……金利は年25%ほど頂戴します」
武力という暴力が、知的財産という「法と計算」の前に膝を折った瞬間だった。
「技術を盗めば勝てる」という前時代の思考に対し、
「技術を使わせることで借金漬けにする」という現代的な罠を仕掛けた回でした。
剣が折れるよりも、使った瞬間に「借金が増える」と言われる方が、
兵士にとってはよほど恐ろしい絶望です。
次回、第18話。
ついに大陸の「情報」そのものを独占するため、
エリシアが『魔導通信インフラ』の敷設を開始します。
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