第3話 祝福なき末子
光の神イリアスが加護する世界では、すべてが光の名のもとに裁かれていた。
人間は祝福を受け、神の血を継ぐ魔法使いたちに守られている。さらに各地には冒険者たちが集い、魔族から人々を護る盾となっていた。
光は正義であり、加護なき者は淘汰される。
それが、この世界の理だった。
タナトス大陸南端。黒曜石の塔を戴く魔王城。
そこに生まれた末子は、他の兄姉とは少し違っていた。
イーリャ。
魔王の血を引きながら、母は人間だった。
だが彼は母の顔を知らない。生まれてすぐに亡くなったからだ。残されたのは、首にかけられた小さな銀の首飾りだけ。
そしてーー彼は、なかなか大きくならなかった。
兄二人はすでに父を超える身体を誇り、姉は凛とした魔力をまとっている。だがイーリャだけは、年齢よりも幼い姿のまま、時が止まったかのように小さかった。
侍医は首を傾げ、側近たちは囁いた。
「半魔ゆえか……」
だが、魔王はその言葉を許さなかった。
「成長が、力の証ではない」
低く、静かな声で言い切る。
長兄、ヴァルドは、不器用に慰めてくれ、キースは剣の相手をしてくれた。姉のエリンは傷を癒やしてくれる。
誰ひとりとして、イーリャを欠けた存在として扱わなかった。
それでも、ときどき思う。
兄たちの背中は遠い。
自分の手は小さい。
「……僕は、ちゃんと大きくなるのかなあ~?」
ある夜、そう呟いた。
エリンは何も答えず、ただ抱きしめた。
「あなたはあなたよ」
それだけで、胸の奥が少しあたたかくなる。
イーリャは知らない。
自分の内側で、黒と光の力がぶつかりあっているいることを。
どちらかが強くなれば、均衡は崩れる。
そのとき世界は、どうなってしまうのか……
けれど今はまだ、家族の笑い声が城に満ちている。
小さな末子は、父と兄姉に囲まれながら、ゆっくりと息をしていた。
光の加護も、闇の威光も届かない場所で。
それでも、イーリャは、東の方向の空を見上げてしまう。そこは、光の神殿のある銀の森のある方角だとは知らずに……母の生まれ故郷を懐かしむように、そちらの方向を見上げてしまうのだった。
食卓では、家族で談笑していた。
それを面白くないと思っているものもいる。
冷たい視線が、イーリヤを見つめていた。
「光の血など、敵だ……いずれ牙をむく」
老将ゼルクドは呟く。
「ワシが王と呼ぶ方は、キース殿下のみ……」




