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第2話、 光を抱く闇の王子の誕生

 光の神殿の巫女、レイシアが、魔王城に足を踏み入れた十月後、その日空が割れた。

 光の神イリアスの神殿から、純白の柱が天を貫く。夜の半分を昼に変えた。

 それは祝福ではない。断罪だった。

 ーー魔王の末子が、生まれる。

 神託が下った瞬間、人間の国々は震えた。王は祈り、冒険者たちは剣を取り、神殿は金を鳴らす。

 そして魔王城では沈黙が落ちた。


 生まれてはならない子。

 神の血を引く人間の女と、魔王との間にできた存在。


 禁忌、裏切り、世界の歪み。


 玉座の間で、魔王は動かない。

 巨体を揺らすこともなく、怒号も上げず、ただ遠くを見つめていた。


「……守る」

 

 その瞬間、城を包む結界が幾重にも重なる。


 外ではすでに光の軍勢が動き始めていた。


 そして、産声があがったが、あまりにも小さかった。

 泣き声というより、息のようなかすれた音。


 赤子は、まるでこの世界に遠慮するかのように震えていた。

 黒い髪。淡く金を宿す瞳。

 そして、魔族の証である小さな角。


 人間でもない。

 魔族でもない。

 珍しい半魔の赤ん坊だ。


 侍女が息を呑む。


「……生きられません」


 赤子の体はあまりに小さく、魔力も不安定だった。


 神の光と魔の血が、内側で衝突している。

 その時だった。


 空が裂け、神殿の光が一直線に魔王城へと降り注ぐ。


 ーー排除せよ。

 声が、世界そのものから響いた。

 城壁が崩れ、塔が砕ける。

 魔族たちが次々と吹き飛ばされた。

 赤子を抱いた侍女が倒れ、床に血が広がった。

 

 その血の中で、赤子は目を開いた。

 光でも闇でもない、透明な瞳。

 その瞳が、降り注ぐ銀色の光をを見上げた瞬間ーー

 世界が、静止した。

 光が、止まった。

 砕けた石が宙に浮いたまま、落ちない。

 時間が、凍りついている。

 魔王だけが動けた。


「……お前がやったのか」


 赤子は泣かない。

 ただ、じっと父を見る。


 その小さな手が、魔王の指を掴んだ。

 次の瞬間、神の光が消えた。


 空は閉じ、神殿の柱は霧散する。

 世界が、息を呑んだ。

 神の断罪をーー

 生まれたばかりの赤子が、退けたのだ。


 沈黙の中、魔王は初めて笑った。


「イーリャ」


 それが名前だった。


「お前は、世界を壊すか?」

 

 赤子は瞬きをする。


「……それとも、守るか?」


 遠く、神殿の奥で、光の神イリアスは神剣の姿のまま一つの考えに及んだ。


『ーー誤算。

あれは、滅ぼすべき歪みではない……あれは、世界の均衡そのものだ』


 神は、再び沈黙した。

 神殿の魔族討伐がなくなった冒険者たちは、勝手に打倒魔族のために剣をを握った。

 魔族の一部の者は、希望を抱いた。

 そして、レイシアは、イーリャを生んだことで命の炎が尽きてしまった。

 

 イーリャはーー

 誰よりも小さな体のまま、十年以上たっても、十歳ほどの身体から成長しなかった。

 だがその瞳だけは、世界のすべてを見ているように、静かに光っていた。





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