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第24話 居場所の音

 噂は、火より早かった。

 まだ朝露が残るうちに、酒場から市場へと広がっていった。


「目が金色に光ったらしい」


「片手で魔物の顎を砕いたって」


「血の匂いが違ったって話だ」

 

「一瞬で、ルシアの精気を抜き取ったようにも見えたぜ!」

 

 翌朝、ギルドの空気は変わっていた。

 視線。

 ひそひそ声。

 イーリャが扉をくぐった瞬間、それらが一斉に止む。

 そして、また動き出す。


「……本当なのか?」


 誰かが問う。

 答える声はない。

 だが沈黙が、肯定のように重い。

 ラドが前に立つ。


「イリアは、助けたんだ!」


「だから何だ」

 

 年上の冒険者が吐き捨てる。


「魔族というのが、問題なのだろう!!」


 ざわり、と空気が揺れる。


「魔族……?」


「半魔らしいって? ギルドマスターと神官さんの話を聞いちまったんだ」


 言葉が刃になる。

 イーリャは、動けない。

 隠していたものが、名前を持つ。


「違う……」


 違わない。

だが、それだけではない。


 事実だから。


 ギルドマスターが奥から出てきた。

 重い足取り。


「イリア」


 その声は、苦い。


「神官さんの言ったことは本当なのか?」


 違うと言いたい。


 だが守りきれなかった。


「神殿から、監査官が来ている時だからなあ~」


 その名に、場が静まる。


「半魔を匿うのかと言われてしまったよ」


 匿う……

 

イーリャとラドは、顔を見合わせた。


「感情論はよせ」


 誰かが返す。


「もしまた、魔力が暴走して精気を奪われたら、誰が責任取るんだ!」


 視線が刺さる。

 恐れ。

 疑い。

 距離。


 昨日までの笑い声が、遠くなった。

 イーリャは、拳を握る。

 怒りはない。

 ただ、理解してしまった。

 自分は『違う』のだと……

 二階の回廊。

 白銀の法衣が静かに立つ。

 監査官。


「判断は急がなくていい」

 

 低く告げる。


「だが、人間と魔族は一緒にいられぬ」


 それは命令ではない。

 だが逆らえぬ流れ。

 ギルドマスターが目を閉じる。


「……すまん」


 その一言で、決まった。

 追放ではないかもしれない。

 だが、イーリャは確実にギルドに居場所をなくしたのだった。

 

 イーリャは、深く頭を下げた。


「お世話になりました」


 声は震えていない。

 外へ出る。

 石畳が冷たい。

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 居場所の音。

 ラドが隣に立つ。


「後悔はありませんか? 殿下」 


「ありません」


 即答だった。


「守れましたから」


 それでも、止められなかった魔力の暴走。そして、ルシアの時間を奪ってしまった事実は消えない。

 彼女の寿命を何年奪ってしまったのだろう……

 

 胸の奥に、ぽっかりと穴がある。

 振り返らない。

 振り返れば、戻りたくなる。


 選んだのは帰ること。

 孤立。

 試練は、次の段階へ進む。

 王都の空は青かった。

 だがイーリャの足元には、長い影が伸びていた。


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