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第22話 弱点という名の灯り

 夕暮れのギルドは、赤い光に染まっていた。

 依頼帰りの冒険者たちが笑い、酒を酌み交わす。

 その喧騒から少し離れた廊下で、イーリャは呼び止められた。


「少年」

 

 振り返る。

 白銀の法衣。

 光の神殿の監査官。

 その瞳は、静かに銀色に澄んでいる。


「少し、話がしたい」


 拒める声ではない。

 中庭へ出た。

 噴水の水音だけが響く。


「今日の北の丘の件、聞いています」


 イーリャの胸がわずかに跳ねる。


「仲間に庇われたそうですね?」


「……はい」


「怒りがわきませんでしたか?」


「え?」


「侮辱された。石も投げられた……あなたの魔力を解放すれば、容易にねじ伏せられたはずだ」


 事実だった。

 ほんの少し、本気を出せば。

 だがイーリャは首を振る。


「ルシアが、前に出てくれたから」


「だから抑えられた?」


「はい」


 監査官は、しばらく黙ったまま噴水を見つめる。


「友情は、美しいものです」


 意外な言葉。


「ですがーー」


 視線が向く。

 光のように鋭い。


「弱点にもなる」


 イーリャの指先が、わずかに冷える。


「守りたい者がいる者は、選択を誤る。判断が鈍る。脅せば従う」


 淡々とした分析。


「もし敵が、彼女を人質に取れば?」


 息が詰まる。

 想像してしまう。


「あなたは、力を解放するでしょう」


 その声は優しい。

 だが、逃げ道はない。


「その瞬間、あなたは彼女の友人ではなくなるだろう」


 魔か、人か。

 どちらかへ傾く。


「あなたは強い。だが未熟です」


 言葉が静かに落ちる。


「情に流される強さは、折れやすい」


 沈黙。

 夜風が、法衣を揺らす。


「では……」


 イーリャは、小さく問う。


「友達を作らなければ、強くなれますか?」


 監査官の目が、わずかに揺れた。


「孤独は、強さを研ぎ澄ます」


「でも」


 イーリャは拳を握る。


「今日、ぼくは守られました」


 胸の奥が、まだ温かい。


「弱点でもいいです」


 まっすぐに見上げる。


「守りたいです」


 静かな対峙。


 やがてティルグレイは、目を細める。


「……答えは急がなくていい」


 踵を返す。


「だが、覚えておきなさい」


 背を向けたまま。


「光は、影を生む」


 友情という灯もまた、影を濃くする。

 イーリャは一人、噴水の前に残された。

 弱点。

 その言葉は重い。

 けれど。

 北の丘で見た背中を思い出していた。



 




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