第20話 友達になりたい
監査官が滞在しているせいか、ギルドの空気はどこか固い。
けれど依頼は減らない。
今日も掲示板の前は人であふれていた。
イーリャは、少し離れた場所からそれを見ていた。
笑い声。
軽口。
肩を叩き合う音。
人間の輪。
「……いいな」
ぽつりと、こぼれた。
ラドが隣で眉をひそめる。
「何がだ?」
「友達、です」
「いるだろう」
「ラドは、仲間ですぅ~」
少し考えて、首を振る。
「ボクも、同じくらいの人間の友達、ほしいです」
ラドは、何も言わなかった。
その時。
「おい、怪力くん」
声が飛ぶ。
振り向くと、赤毛で短髪の少女が腕を組んで立っていた。
腰には短剣。革鎧。年は、イーリャよりも少し幼く見えた。
「こないだのサーベルタイガー、ほんとに一人で仕留めたの?」
「え、えっと……」
「すごかったって聞いた!!」
まっすぐな目。
警戒ではない。
純粋な興味の眼差しだった。
「私はルシア・セレン。見習い斥候なんだ。ルゥって呼んで」
手が差し出される。
一瞬、イーリャは迷った。
自分は半魔。
知られたら――
けれど。
その手は、ただの人間の手だった。
温かい。
「……イリアです」
そっと握る。
「今度、薬草採取一緒に行かない? 足手まといにならないでよ」
挑発めいた言い方。
だが口元は笑っている。
「なりません」
「言ったね?」
ルシアは、にっと笑った。
近くで見ていた少年二人も近づいてくる。
「ルゥの新しい盾か?」
「怪力なら安心だな」
「ち、違います」
イーリャは慌てる。
けれど、胸の奥が少しあたたかい。
輪の中に、入っている。
それだけで、こんなにあたたかい。
「じゃあ明日、北の丘な!」
「遅れたら置いてくから!」
軽い約束。
けれど、イーリャには大きかった。
皆が去ったあと。
「……いいのか?」
ラドが低く言う。
「何がですか?」
「深入りすれば、守るものが増える」
イーリャは少し考えた。
「守りたい、です」
迷いのない答えだった。
「友達って、そういうものでしょう?」
ラドは、視線を逸らす。
二階の廊下。
白銀の法衣が、静かにその様子を見ていた。
「情を選ぶか」
小さな呟き。
少年は、力より先に『繋がり』を求めた。
光は、秩序を好む。だが、情けは境界を越える。
イーリャは、まだ知らない。
明日の約束が、ただの薬草採取では終わらないことを。
それでも。
胸は、軽かった。
「……友達……」
小さく繰り返した。
その響きは、確かに希望だった。




