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第18話 三賢人

 東方の銀の森の最奥、光の神殿。

 天井は高く、柱は空へ届くように伸びていた。

 中央には、白い円卓。

 三つの席。

 光の神に仕える、三賢人の座。

 そこには、諸国の国王でさえ許可なく踏み入れられない。


「報告を」


 澄んだ声が響いた。

 黒衣の男、ティルグレイが一歩進む。

 ゆっくりとフードを外した。

 整った顔。

 感情の揺らぎをほとんど見せない銀色の瞳、長く伸びた銀髪


「対象ーー魔族と人間の混血。名はイーリャ」


 円卓の空気が、わずかに冷える。

神の愛称とされる名前だった。


「確認された能力は?」


「封印の術を書き換えました」


「破壊ではなく?」


「はい」


 短い沈黙が続いた。

 対面の席に座る賢人が、指先で卓を叩く。


「人間用の術を、逆流制御したのか?」


「上書きして、制御をはずしたのです」


 低い声が漏れた。


「偶然ではないな……」


 最年少三賢人のティルグレイは続ける。


「未成熟。しかし制御能力は高い。情に厚く、衝動的な破壊傾向はなし」


「危険度は?」


「測定不能です」


 その言葉に、空気が重くなる。

 最奥の席。

 光に包まれた影が問う。


『排除するつもりか?』


 即答する者はなかった。

 ティルグレイは、わずかに目を伏せる。


「排除は早計です」


「理由は?」


「立ち位置がまだ、定まっていません」


 魔族と人。

 本来、交わらぬ血。


「敵にも、味方にもなり得ます」


「だからこそ、価値があります」


 第二席が静かに笑う。


「制御できるのか?」


「見極めます」


 言葉は淡々としている。

 だがその奥には、強い意志があった。

 最奥の光が告げる。


『見届けよ』


 決定は、一言。


「御意」


 ティルグレイは、頭を垂れる。

 神殿を出る。

 夜風が石段を吹き抜けた。


「どう動くか……」


 小さく呟く。

 月の下、神殿の灯りが広がる。

 

 その一角。

 冒険者ギルドでは。


「神殿から監査が来るらしいぞ」

 そんな噂が広がっていた。


「三賢人の一人だって!?」


 ざわり、と空気が揺れる。

 イーリャは首を傾げた。


「すごい人ですか?」


「すごいどころじゃねぇ」


 誰かが苦笑する。


「国の命運を決める席だ」


 ラドの手が、わずかに止まる。


(神殿が動くのか……?)


 夜。

 ギルドの屋根の上。

 黒衣が静かに立つ。

 視線は、灯りのついた一室へ。

 そこに、イーリャがいる。


ティルグレイは、なにも言わなかった。


 試すだけでは足りない。

 

「次は、直接見る」


 月が雲に隠れる。

 闇が、静かに街を覆った。


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