第17話 仕組まれた依頼
合同依頼は、森の奥に出た《サーベルタイガー》の討伐だった。
「Cランク相当だ。新人には荷が重いが……」
Sランクの中堅剣士のガルドが、イーリャを見る。
「怪力なら問題ない、だろ?」
軽口のようで、試す目の他の者。
参加は五人だった。
前衛二人、後衛二人、そしてイーリャ。
ラドは後衛に回っている。
「無理はするな」
小声で言う。
「はい」
森は静かだった。
静かすぎた。
鳥の声がない。
風も、止まっている。
(……変だ)
イーリャの背筋に、微かな違和感が走る。
やがて、開けた岩場に出た。
そこに、いた。
しなやかな体躯。
サーベルのような牙。
赤く光る目。
《サーベルタイガー》。
「散開!」
ガルドが叫ぶ。
戦闘は、始まった。
剣が弾かれる。
矢がタイガーの身体に弾かれる。
ガルドが吹き飛ばされ、岩に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
(強い)
タイガーが唸り、咆哮をあげた。
衝撃が走る。
イーリャは踏みとどまった。
倒せない相手ではない。
だが、そのとき。
がきん!!
足元で、何かが光った。
魔法陣だ。
光の鎖が、絡みついた。
(冷たい……人間用の封印?)
「何だこれは!?」
ガルドが叫ぶ。
ラドの顔色が変わる。
「結界だーー狙いは!」
イーリャだ!
タイガーが、まるで合図を受けたように、一直線に突進してくる。
(罠!?)
討伐依頼ではない。
これはーー試し?
あるいは、捕獲……?
鎖が魔力を吸う。
人間用の封印術。
魔族の力を、抑える構造を知っている者がいる。
サーベルタイガーの影の向こう。
岩陰に、黒衣が揺れた。
イーリャは、息を吸う。
(壊せば、終わる)
だが壊せば、人間ではないと露見する。
一瞬の選択。
タイガーの爪が迫った。
「イリヤ!」
ラドが叫ぶ。
その瞬間。
イーリャは、ほんの少しだけ、本気を出した。
鎖に魔力を流す。
破壊ではなくーー上書き。
鎖の上に自分の魔力を重ねた。
破壊ではなく、命令を書き換えたのだ。
ぱきん。
光の鎖が、霧のように消えた。
タイガーの牙を、横へ逸らす。
衝撃が岩を砕く。
イーリャは踏み込み、タイガーの腹へ掌を当てた。
「ごめんなさい……」
どん。
低い衝撃。
タイガーは数歩よろめき、そのまま崩れた。
沈黙。
ガルドが、呆然とする。
「……今の、何だ?」
「うまく、あたりました」
息を整えながら、イーリャは言った。
誰も、笑わない。
ラドの視線は、岩陰へ向いている。
だが、そこに黒衣はない。
風だけが、残る。
討伐は成功。
だが帰路、ガルドがぽつりと言った。
「妙たったな……あの魔法陣」
イーリャの胸が、わずかに重くなる。
ーー見られている。
試されている。
森の奥でーー
黒衣の男は、静かに呟いた。
「封印を、解いたか……」
破壊ではなく、魔法の無効。
「やはり、ただの怪力だけではない……」
口元が歪む。
森に、再び鳥の声が戻る。
だがその奥で、罠はまだ終わっていなかった。




