女神の過ち
『女神~~、本当にあの男の子を《魔族》に転生させちゃったのニャ~~?』
神獣ラルカは、女神イグニスのもとへ駆け込んだ。
真っ白な長毛のネコ型神獣である。
ここは天界。
すべてが銀色に輝く、静謐な空間。
その中心で、女神はゆるやかに振り返った。
金の髪が揺れ、澄んだ青い瞳がラルカを映す。
『種族保存のためよ。今、地上へ送ったところ』
鈴の鳴るような声だった。
『転生者を地上に蹴り落とすのは、ボクの役目なのにニャ~』
ラルカは尻尾をぶんと振る。
『あの子は、地球世界の普通の人間ニャ。親の愛情には飢えていたけど……それだけの子ニャア』
この空間は、光の神イリアス・ロイルが創った特別な領域である。
分身であるイグニスを守るために。
ーーそう。
女神イグニスも、かつては人間だった。
男の冒険者。
仲間に夜這いされそうになり、驚きのあまり昇天。
その魂は、アルデバラン王国を救った『光の欠片』に吸い込まれた。
その日、王都には巨大隕石が落ちると予言されていた。
神殿には祈りが満ち、イリアスの力が最高潮に達していた。
そして神は告げた。
『危機は去った。これより《女神》がこの地を守る』
『だからって、どうして女になる必要があったのさ! ワタシは男だったのに!』
『イリアス様のご神託だからニャ……』
無理もない。
イグニスは美しすぎた。
黄金の髪、深い蒼の瞳。
整いすぎた顔立ち。八頭身の完璧な体躯。
そして超一流の魔法。
未熟だった女神は、人々の喜びを願い、惜しみなく力を振るった。
だがそれは、各国の妬みを生み、
女神を巡る争いへと変わっていった。
人の争いを見たくない――
そう願ったイグニスのために、イリアスはこの天界を築いた。
以来、彼女は転生者の管理という任務を与えられている。
転生先も、特典も、自由に選べる特別権限付きで。
ラルカは遠い目をする。
『最初の娘は精霊にして、すぐ死なせちゃったニャ……』
『本人の希望で人間に戻したわよ~』
『竜にした子もいたニャ』
『交通事故だったのよ。頑丈な身体が欲しいって言うから』
『天変地異起こして大陸壊れかけたけどニャ?』
『……いろいろあったわね』
女神は額に汗をにじませた。
ラルカはため息をつく。
『で、なんで魔族ニャ?』
『ディン族が、残り三千匹なの』
ラルカは固まった。
魔族は光の神の世界では『闇の眷族』。
人間にとっての天敵。
滅びれば平和になるはずの存在。
それを、増やす?
『だからって、魔族を増やす必要は……』
女神は微笑む。
『大丈夫よ。人間とのハーフにしたから』




