悪役令嬢の見た夢ー彼女のついた嘘
以前こちらに上げた話を書き直したものです。小説を書き慣れていないので読みづらかったらすみません。
王子様と平凡な少女が結ばれてハッピーエンド、とてもありふれた物語だわ。
でもそんなの、ぶち壊したくならない?都合がよすぎるもの。
というわけでぶち壊したの。
悪役令嬢として。
私はね、前世悪役令嬢が主人公の物語が好きだったの。そういう恋人たちの幸せの犠牲になった女が、恋人たちを不幸に落とす事で幸福を取り戻すストーリーが。だって、大抵の悪役令嬢は、元々王子の婚約者だったのに、ヒロインのせいで婚約破棄されて悪女の烙印を押されて不幸になる。悪いのはどっちよ。だからね、嫌いだったの。乙女ゲーム。それがテンプレだっていうじゃない?ひどいわよね、そんな恋愛脳なヒロインと王子のしわ寄せが来るなんて。前世の娘が好きだったわ、乙女ゲーム。そんなバカなものにハマるんじゃないっていったんだけどね、旦那が勝手に買い与えてしまって。ハマってたのよね娘が。それで、私その乙女ゲームの悪役令嬢に転生したってわけ。ストーリーの被害者として。悪役令嬢もののテンプレ通りだったわ。魔法のある貴族学園に入学して、私は王子の婚約者で、ヒロインは平民の特待生の少女。嫌よね、分不相応な野望を持った女って。王子に近づいて色目使って。
王子は「ただの友人だ」って言ってたわ。だけどね、そんなの嘘よ。分かりやすすぎるわ。そんなのに騙されると思ったのかしら?
私がヒロインをいじめてるって言ったの、王子。私は一般常識しか注意してないわ。貴族には気軽に声をかけては駄目とか、男性とみだりに話さないとかね。だってそれがこの世界でのルールだもの。教えてあげたんだから、むしろ感謝して欲しいわ。だけど、あっちがそう来るならしょうがないでしょ?私はみんなの前で、ヒロインが王子をたぶらかした事を言ったわ。そうしたらその子、学園から消えちゃったの。知らないわ。その後どうなったかなんか。
なのに。今。
「君は、ミラをはめたね」
なぜ王子が私を責めるのかしら。
王都の外れの離宮に呼ばれたの。貴族学園を卒業してから三年、そろそろ王子と結婚かと思ったのよ。だけど違った。寝室に連れられて、寝台に知らない女がいた。ううん、知ってた。だってその女は、ミラ、この乙女ゲームのヒロインだった女。
「彼女を牢獄に放り込んだのは君の家の手の者だった。彼女は行方不明になってからずっと、牢獄罪人たちに慰み物にされてた。命じたのは君だね。カミラ」
カミラは私の名前だ。
「なんの話ですの?」
「とぼけても無駄だよ、内通者がいたんだ、証拠は揃ってる」
「は…?」
誰が?誰が言ったっていうの?
そのとき、声がした。
「…いこだ」
かぼそい声。だけどはっきり聞こえた。
「あいりはよいこだ…ねんねしな…」
その声は寝台から、ミラからだった。
「今も昔も大好きで、ママの大事なあいりちゃん…」
その声が、過去と重なった。
『ママ、もっと歌ってよ』
「あ…あ…」
ちがう、あの歌は。だって、違う。
「あいり…?」
ミラがその歌を知っていた。なら、ミラは。
「わたしの…むすめ…」
私は確信した。あれは、私が娘に歌って聞かせた替え歌だ。
だけど、それがなんだっていうの?
「私は悪くないわ」
「この期に及んでなにを…!」
「この子は、転生しても男を誘惑するような女だった、だから、私は悪くない」
そうよ、だってこの子、生まれた時から変だった。私に全然似てなかった。むしろ…。
「そもそも、王子、あなたが私を罰せれるのかしら、私の家は王家の重鎮。私に手を出すのは平民をうちの家より大事って言うようなものよ」
「…!」
やっぱりバカ王子ね。そんなことも気付かないなんて。顔だけは乙女ゲームのキャラだったからよかったけど…。ヒロインに騙されるようじゃ、たかが知れているわ。
「婚約破棄したいならどうぞ、平民を優先するような王子様と結婚なんてしたくないもの」
ここでの会話は公式のものではない。だから残らないし、私がこんな口を聞いても問題はない。
「さようなら、王子様」
さあ、別の結婚相手を探さないと。他の攻略対象たちでもいい。彼らは美しいし、優秀だ。私の考えを理解する者もいるだろう。だが。
「全員結婚した…?」
どういうこと?
私と王子の婚約が白紙になったことが正式に発表されてすぐだった。私は攻略対象たちとの見合いを打診しようとしていた。だがみんな、婚約を正式に発表したり、結婚してしまった。
「どうして…。」
こうなると、大した男はいないし、家格に釣り合う男もいない。父が連れてきたのは、家格は釣り合うが、二回りも上の、冴えない男!こんな男と結ばれろっていうの!?だけど父親に逆らう事はできない。私はこいつと結婚させられて、子供を産まされてしまった。だけど、三人目を産んで間もなくだった。
革命が起きたのだ。きっかけはひとつの投書だった。貴族によって残酷な、不当な目に会わされ死んた人間がいる。それはミラのことだった。この時代既に新聞があったから、ミラがどんな目にあったか、国民が知ることとなり、それは貴族に不満を抱いていた民衆を刺激するには十分だったのだ。
貴族たちは処刑された。私も捕まって…牢屋に入れられて…。そう、そのときに一緒の牢に入れられた、貴族の女たちに責められたの。あんたのせいよって。あんたがそんなことしたからこうなったのって。私だけのせいじゃないわ。あんたたちだって、自分より地位の低い女たちをいびって楽しんでいたのを私は知っている。
「あなたを好きだった人間なんていないわ」
黙れ
「あなたは王子をバカにしてたけど、王子だって、あなたに出会う前はもっと明るかったわ、あなたが王子をおかしくしたのよ。」
「どうしてみんなすぐ結婚したかわかる?あなたと結婚させられるのが分かったからよ、みんなあなたが嫌いなの」
黙れ黙れ黙れ!バカな事を言うな!
「カミラ・エヴァーストーンを極刑に処す」
気付いたら処刑台にいた。民衆たちに罵られながら。
石も投げられたわ。
「おまえがミラを貶めた女か!」
「人の心はないのか!」
なんで私がこんな目に会うの?悪役令嬢だから?ストーリーを覆せなかった?元のゲームのストーリーはどうだったかしら…。色々と考えたわ。
ガシャン。
だけど
『まま、だいすき!』
なんで最後にあの子の声を思い出したのかしら。
目覚めたら、ベッドの上だった。見慣れた天井。私の家だ。
「夢を見ていた気がするわ…」
部屋から出る。仏壇に向かう。そこには、娘の写真があった。
「どうして死んだの?あいり…」
あいりは自殺だった。私が帰ってきた時には、風呂で手首を切っていて…。間に合わなかった。
遺書には、人生に絶望したからって。
まだ中学生だった。
旦那には私のせいだって言われたわ。私があいりを愛さなかったからだって。何を言っているのかと思ったわ。私はちゃんとあいりを愛していたわ。
その時、廊下をドタドタと走る音がして、ドアが開いた。
「ねえ、ユウカはどこ?あの子は本当に…」
「母さん、姉さんはもういないわ」
仏壇には写真が二つ。その二つはよく似ていた。姉のユウカの写真と、娘のあいりの写真。二人は生き写しだった。
「ユウカは本当に出来がよかった、それに美しくて…」
母は続けて言う。
「母さん、姉さんはもういいから部屋に戻って」
「あー…」
じょわわ、と母が漏らした。母は姉が亡くなってからすっかりボケてしまっていた。
「ユウカ…」
私の名前は決して呼ばない。それは子供の頃からずっとそうだった。私は姉とちがって美しくなく、優秀でもなかった。母は姉ばかり愛した。
それが苦しくて早く結婚した。母の知人の紹介の見合いで、母に言われた通りの人と。
なのに。生まれた子は姉にそっくりだったのだ。
「あいりは本当に美人だなあ、ママに似なくてよかったな」
旦那がそう言うたびに苦しかった。だけど、愛そうとしたのよ。
「そんな風に笑って、男の気を引きたいんでしょう。胸が大きくなれば、男の子にじろじろ見られるようになるでしょうね」
だから、何度も矯正してあげた。恋に憧れればそんな風に愛されるわけないと教えてあげた。だって私はそうだったもの。旦那が乙女ゲームを買ったりしてて、あまり上手くはいかなかったけど…。あの子が同級生の男の子に告白されたと知ったときは、電話で断らせたわ。だってかわいそうでしょう?あの子と付き合う男の子が。
だけど亡くなった。教えてあげたのに。愛してあげたのに。
母の小便を処理しながら考える。だけど答えは出ない。
娘の遺品整理もしなければ…。夫は娘が自殺してから帰ってこないから、一人でやらなくてはいけない。
娘の机の中を開けると、ゲームソフトが出てきた。そういえば、娘がこのゲームについて話してきた事があったわね。私が悪役令嬢ものが好きだと言ったら、興味ないか聞いてきたんだわ。悪役令嬢ものとちがってバカなストーリーばかりだから断ったけど。
ふと、私はそのゲームをやってみることにした。
ヒロインの名前はミラ。ピンクの髪の美少女。なんだか印象があいりに似ていた。ゲームをするのは初めてだった。
何度かバッドエンドに行ったが、ようやくハッピーエンドを迎えた。王子と平凡な少女が結ばれる、平凡なハッピーエンド。だけど、どの展開でも、どの場面でも、悪役令嬢なんて出てこなかった。乙女ゲームには悪役令嬢なんて、存在しなかったのだ。
目から涙が一筋流れた。なぜか涙が止まらなかった。
その乙女ゲームに悪役令嬢がいるというのは、彼女の妄想、夢でしかなかった。
なぜ泣いてしまったのか、彼女には王子が現れなかったからなのか、娘にあったはずのそうした幸せを奪ったのが自分だと悟ったからなのか、彼女には分からなかった。




