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第9話 名を記す場所


探索者ギルド本部の受付フロアは、朝から人であふれていた。


新規登録。

ランク更新。

装備の申請。


ダンジョンが日常になった今、

ここは戦場よりも現代らしい場所かもしれない。


「……ここに並ぶの、何回目だ?」


ライムは、小さく息を吐いた。


「今日は“正式”だからね」


雨宮かなえが、横で端末を操作しながら言う。


「仮協力者扱いは、これで終わり」


「気持ちは?」


「……正直、落ち着かない」


それは嘘ではなかった。


異世界では、

名を記すとは、覚悟を示すことだった。


 



 


受付カウンター。


若い職員が、丁寧に頭を下げる。


「探索者登録ですね。

 お名前をお願いします」


「ライム」


「年齢は?」


「……二十、前後」


少し濁した言い方に、

職員は首を傾げたが、深くは突っ込まなかった。


「出身地は?」


一瞬、迷う。


だが――。


「不明、で」


職員は、端末に入力し、

一度だけ視線を上げた。


「問題ありません」


その言葉に、

胸の奥が、わずかに緩む。


 



 


「登録完了です」


カードが、差し出される。


探索者証。


名前、顔写真、

そして――ランク欄。


「……Eランク?」


思わず、声が出た。


「初期登録は全員Eです」


職員は、事務的に説明する。


「実績次第で、昇格します」


佐野すすむが、後ろで笑った。


「気にすんな。

 中身がAだろうがSだろうが、最初はEだ」


「……そういうものか」


ライムは、カードを握る。


冷たい感触。


だが、確かな重み。


 



 


「さっそく、仕事がある」


雨宮が、端末を見せる。


「市街地近郊ダンジョン。

 低ランク向けだけど、

 新人が多くて不安定」


「引率、ってこと?」


「補助役」


「……了解」


 



 


ダンジョン内部。


初心者探索者たちが、緊張した面持ちで立っている。


「初めまして……」


「よろしくお願いします!」


視線が、ライムに集まる。


その中に、期待と不安が混じっているのが、はっきりわかった。


「……無理はしない」


ライムは、自然と口にしていた。


「危なかったら、すぐ下がれ」


「え?」


「俺が、前に出る」


その言葉に、

空気が少しだけ和らいだ。


 



 


戦闘は、教科書通りだった。


小型魔物。

数は多いが、連携は甘い。


「右、来ます!」


新人の声。


「下がれ!」


ライムは、脚に魔力を流す。


雷が、内部で静かに走る。


「――《ライトスパーク》」


過剰にならない放電。


魔物が、動きを止める。


「今だ」


新人たちが、次々と攻撃を重ねる。


 



 


だが。


一体だけ、

明らかに動きの違う魔物がいた。


速い。

反応が鋭い。


「……あれは」


異世界で見た、

“混ざった”個体。


「全員、下がれ!」


叫ぶと同時に、

魔物が跳んだ。


 



 


近い。


だが、怖くはない。


「――来い」


拳に、雷を集める。


直接放電。


※接触雷:対象に触れた瞬間、内部へ雷を流す技法


魔物は、悲鳴を上げて弾かれた。


床に落ち、動かない。


「……倒した?」


新人が、恐る恐る聞く。


「問題ない」


ライムは、うなずいた。


 



 


帰還後。


新人探索者たちは、何度も頭を下げた。


「ありがとうございました!」


「助かりました……!」


ライムは、少し困ったように笑う。


「仕事だ」


その言葉が、

不思議と自然だった。


 



 


ギルドに戻ると、

端末に通知が届いていた。


【ランク昇格審査対象】


「……早くないか?」


「妥当だよ」


雨宮が言う。


「今日の対応、

 完全に“守る側”だった」


 



 


夜。


自室。


探索者証を、机に置く。


名前。

写真。

ランク。


異世界では、

ここまで認められることはなかった。


「……ここは」


小さく、呟く。


「俺の、居場所だな」


 


視界に、光が浮かぶ。


 


【ステータス更新】


名前:ライム

レベル:9


魔力:低

耐久:低

敏捷:安定


スキル

・雷魔法(初級)

・身体強化(微):安定

・接触雷:習熟


 


雷魔法士ライムは、

この日――


探索者として、

正式に“現代社会の一員”になった。


そして、

その背中を見て、

守られた誰かが、

次の探索者へと育っていく。


物語は、

確かに前へ進んでいた。


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