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第4話 雷は、数字で測られる


探索者ギルド湾岸支部の地下には、一般の探索者が立ち入れない区画がある。


通称――測定室。


分厚い防壁に囲まれたその空間は、ダンジョン内部よりも無機質だった。

白い壁、規則的に並ぶ機材、そして床に刻まれた複雑な魔力感知紋様。


「緊張してる?」


隣で端末を操作しながら、百瀬くるみが言った。


「少しな」


正直な答えだった。


異世界では、強さは戦場で測られるものだった。

生き残ったか、倒したか。

それだけだ。


だが、ここでは違う。


「ここでは、強さは“数値”になる」


雨宮かなえが、静かに告げる。


「それは評価でもあり、

 同時に制限にもなる」


制限。

その言葉に、ライムは小さく息を吐いた。


 



 


「まずは魔力総量から測るわ」


くるみが、円筒状の装置を指差す。


「中に立って。

 何もしなくていい」


言われるままに立つと、装置が低く唸りを上げた。

光が走り、身体をなぞる感覚。


数秒後、端末に数値が表示される。


「……低いわね」


くるみは、あっさり言った。


「探索者全体の平均より、やや下」


「そうか」


異世界でも、ライムは魔力量が多い方ではなかった。

それ自体は、想定内だ。


「でも――」


くるみは、指を止めない。


「出力効率が、異常にいい」


「効率?」


「同じ魔力で、

 他の探索者より高い威力を出してる」


くるみは画面を拡大する。


「これ、雷魔法の発動ログ。

 ほとんどロスがない」


※ロス:エネルギーが無駄に失われること


「無駄がない……」


それは、異世界で身につけた癖だった。

無駄撃ちは死に直結する。


「次、雷魔法そのものを見せて」


 



 


模擬魔物が、測定室の中央に投影される。

実体はないが、防御力や耐久力は再現されているらしい。


「出力は自由。

 ただし、破壊しすぎないで」


「……わかった」


ライムは深く息を吸う。


「――雷よ」


細い閃光が走る。

模擬魔物の表層が、焼け焦げた。


「貫通率、予想以上」


くるみが即座に記録する。


「装甲想定をほぼ無視。

 これ、対人戦だと危険ね」


「……俺は、人には向けない」


そう言うと、雨宮が視線を向けてきた。


「その意志が、ずっと変わらないといいわね」


「変えない」


ライムは、迷わず答えた。


 



 


測定は続く。


連続発動。

距離。

精度。


数字が、積み重なっていく。


「レベルの割に、完成度が高い」


くるみは、珍しく感心したように言った。


「普通、レベル3だと、

 魔法は暴発しがちなのに」


「制御は、慣れている」


異世界では、幼い頃から雷を扱ってきた。

魔法は、生活の一部だった。


「ただし――」


くるみは、真顔になる。


「身体能力が、圧倒的に足りない」


「……自覚はある」


「耐久も敏捷も低い。

 一撃もらったら、終わり」


それは、事実だった。


「でもね」


くるみは、端末を閉じる。


「伸び代は、かなり大きい」


「伸び代?」


「雷魔法を、攻撃だけに使ってないでしょ」


ライムは、少しだけ目を見開いた。


「魔力の流れ、

 無意識に身体にも回してる」


「微弱だけど、

 筋肉の反応が上がってる」


※身体強化:魔力で身体能力を一時的に高める技術


「意識すれば、

 雷を“纏う”こともできるかもしれない」


その言葉に、胸がわずかに高鳴った。


 



 


測定終了後。


小さな会議室で、結果がまとめられた。


「結論を言うわ」


雨宮が言う。


「ライムは、

 現代ダンジョンに適応できるタイプ」


「派手さはない。

 でも、実戦向き」


「後衛向きだけど、

 成長すれば役割は広がる」


評価としては、悪くない。

だが――。


「問題は、異世界由来って点」


雨宮の声が低くなる。


「上は、慎重よ」


「……そうだろうな」


「だから」


雨宮は、はっきり言った。


「当面は、私の専属同行。

 単独行動は禁止」


監視。

それでも、排除ではない。


「受け入れる」


ライムは、短く答えた。


 



 


部屋を出る直前。


視界に、光が浮かんだ。


 


【ステータス更新】


名前:ライム

レベル:4


魔力:低

耐久:低

敏捷:低


スキル

・雷魔法(初級)

 ※精度:安定

 ※出力効率:向上


 


レベルが、上がっている。


「……測っただけで?」


「測定も、経験になる」


くるみが言った。


「自分の力を理解するのも、成長よ」


その言葉は、妙に納得できた。


 



 


廊下を歩きながら、ライムは考える。


異世界では、力は感覚だった。

ここでは、数字だ。


だが――。


数字は、嘘をつかない。

弱さも、強さも、はっきり示す。


「……悪くない」


雨宮が横で言った。


「何がだ?」


「あなたの目」


雨宮は、前を見たまま続ける。


「数字を見て、

 逃げない人の目をしてる」


ライムは、静かにうなずいた。


雷は、数字で測られる。

だが――。


雷を振るう理由までは、

誰にも測れない。


そう、彼は思った。



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