表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

第30話 境界を越える意思


夜のダンジョンは、

昼よりも静かだ。


 


音が消える分、

世界の歪みが

はっきりと感じられる。


 



 


「……ここだな」


 


ライムは、

湾岸区画・第七ダンジョンの入口を見上げた。


 


第二十五話で異変が起きた場所。

一度は沈静化したはずの境界。


 


だが――

完全には、閉じていない。


 



 


「再調査は、

 私たちだけで行います」


 


ギルドマスターは、

そう判断した。


 


「一般探索者を

 巻き込む段階ではない」


 



 


メンバーは最小限。


 


ライム。

雨宮かなえ。

百瀬くるみ。

佐野すすむ。

久世ひまわり。

そして――マリル。


 



 


「……来る前から、

 胸がざわついています」


 


マリルは、

小さく言った。


 



 


「異世界の気配?」


 



 


「ええ。

 それも……

 はっきりした“意思”を」


 



 


ダンジョン内部。


 


深層。


 


空気は、

粘つくように重い。


 



 


壁に刻まれた紋様が、

ゆっくりと脈打っている。


 



 


「……生きてるみたいだな」


 


佐野が、

苦々しく呟く。


 



 


「近い」


 


ライムが、

足を止めた。


 



 


その瞬間。


 


空間が、

音もなく裂けた。


 



 


“向こう側”が、

見える。


 



 


赤い空。

歪んだ大地。

そして――

巨大な影。


 



 


「……異世界」


 


ひまわりが、

息を呑む。


 



 


だが、

ドラグではない。


 



 


影は、

人の形をしていた。


 



 


「……誰だ」


 


ライムが、

低く問う。


 



 


返事は、

直接頭に響いた。


 



 


――雷を纏う者よ。


 



 


――境界を破り、

 世界を渡った存在よ。


 



 


「……意思疎通が、

 できる?」


 


くるみが、

驚愕する。


 



 


――我らは、

 観測する者。


 


――名は、

 まだ要らぬ。


 



 


「目的は何だ」


 


ライムは、

一歩前に出た。


 



 


――均衡だ。


 


――世界は、

 閉じすぎている。


 



 


「閉じている……?」


 



 


――文明が進み、

 魔力を拒絶しながら

 ダンジョンだけを

 利用している。


 


――それは、

 歪みだ。


 



 


マリルの顔色が、

変わる。


 



 


「……異世界側から

 見れば」


 


「現代は、

 “奪っている”

 ように見える……」


 



 


――雷の者。


 


――お前は、

 こちらの世界を

 救った。


 


――だが、

 こちらを

 見捨てたわけでは

 あるまい。


 



 


ライムは、

拳を握った。


 



 


「……選んだんだ」


 


「俺は、

 ここで生きる」


 



 


――それでも、

 繋がりは残る。


 


――境界は、

 完全には

 閉じられぬ。


 



 


「だから、

 侵食するのか」


 



 


――調整だ。


 


――均衡を

 取り戻すための。


 



 


「それで、

 人が死ぬ」


 


ライムの雷が、

わずかに走る。


 



 


――必要な犠牲だ。


 



 


その瞬間。


 


雷が、

炸裂した。


 



 


「――ふざけるな」


 


雷は、

攻撃ではない。


 


空間を

縫い止めるための一撃。


 



 


境界が、

悲鳴を上げる。


 



 


――雷の者。


 


――お前は、

 選ばれた。


 



 


「違う」


 


ライムは、

はっきり言った。


 



 


「俺は、

 選んだんだ」


 



 


「この世界を、

 守るって」


 



 


マリルが、

一歩前に出る。


 



 


「命は、

 均衡のための

 道具ではありません」


 



 


光が、

空間を満たす。


 



 


歪みが、

後退する。


 



 


――……理解した。


 


――雷の者よ。


 


――お前は、

 境界そのものに

 なるつもりか。


 



 


「そうだ」


 


ライムは、

即答した。


 



 


「侵すなら、

 俺が止める」


 


「繋ぐなら、

 俺が選別する」


 



 


境界が、

閉じていく。


 



 


最後に、

声だけが残った。


 



 


――ならば、

 次は

 “交渉”では

 済まぬ。


 



 


――覚悟せよ。


 



 


歪みは、

完全に消えた。


 



 


静寂。


 



 


「……完全に、

 敵ですね」


 


かなえが、

苦笑する。


 



 


「でも」


 


ひまわりが、

前を見る。


 


「もう、

 逃げ場は

 ありません」


 



 


「逃げない」


 


ライムは、

雷を収めた。


 



 


「ここは、

 俺の世界だ」


 



 


地上。


 


夜風が、

肌を撫でる。


 



 


「第三章、

 って感じだな」


 


佐野が、

空を見上げる。


 



 


雷が、

遠くで鳴った。


 


それは、

破壊の予兆ではない。


 


宣言だ。


 



 


異世界と現代。


 


二つの世界の

狭間に立つ者が、

ここにいる。


 



 


雷魔法士ライム。


 


彼はもう、

異邦人ではない。


 


世界を守る意思を

持つ者として――

現代に立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ