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第27話 聖女の居場所


朝のギルドは、

いつもより静かだった。


 


リドムが去った翌日。

それだけで、

空気の密度が変わる。


 



 


「……やっぱり、

 いないな」


 


ライムは、

無意識にそう呟いていた。


 


封印区画。

昨日まで、

賢者が立っていた場所。


 


今は、

何もない。


 



 


「当たり前ですよ」


 


背後から、

穏やかな声。


 



 


振り返ると、

マリルが立っていた。


 


白い服ではない。

探索者用の、

簡素なジャケット。


 



 


「その格好……」


 


「借り物です」


 


マリルは、

少し照れたように笑う。


 


「でも、

 不思議と落ち着きます」


 



 


探索者ギルドの会議室。


 


幹部数名と、

ライム、マリル。


 



 


「結論から言います」


 


ギルドマスターが、

資料を閉じる。


 



 


「マリルさんを、

 探索者ギルド所属の

 特殊支援職として迎えたい」


 



 


「……私が?」


 


マリルは、

目を見開いた。


 



 


「聖女、

 という扱いではありません」


 


「癒し系スキルを持つ

 一人の探索者です」


 



 


「現代社会では、

 肩書きより

 契約が重要ですからね」


 



 


マリルは、

視線を落とした。


 



 


「……私は」


 


「癒すことしか、

 できません」


 



 


「それで十分だ」


 


ライムが、

はっきり言った。


 



 


「救われた命が、

 一つでもあれば」


 


「それは、

 世界を守ることと

 同じだ」


 



 


マリルの肩が、

わずかに震えた。


 



 


「……選んで、

 いいんですか」


 


「私が、

 ここにいることを」


 



 


「選ばなきゃ、

 始まらない」


 


ライムは、

そう答えた。


 



 


登録手続きは、

想像以上に事務的だった。


 


書類。

指紋。

魔力署名。


 



 


「これで、

 正式に探索者です」


 


職員が、

マリルにカードを渡す。


 



 


カード表示。


 


――――――――

名前:マリル

レベル:1

職能:回復支援ヒール

特性:高位神聖魔力

――――――――


 



 


「……数字で、

 表されるんですね」


 


「現代だと、

 だいたい何でも」


 


ライムは、

苦笑した。


 



 


初任務は、

小規模ダンジョン。


 


ギルドの判断だった。


 



 


「安全確認と、

 新人の慣らし」


 


「危険度は、

 最低クラスです」


 



 


それでも、

マリルの手は

少し震えていた。


 



 


「大丈夫だ」


 


ライムが、

前に立つ。


 


「俺がいる」


 



 


ダンジョン内部。


 


魔物は、

弱い。


 


だが――

油断はできない。


 



 


不意の攻撃。


 


ひまわりが、

かすり傷を負う。


 



 


「ひまわり!」


 



 


「……っ!」


 


マリルが、

駆け寄る。


 



 


詠唱は、

短い。


 


だが、

祈りは込められている。


 



 


淡い光。


 


傷が、

ふさがる。


 



 


「……痛く、

 ない」


 


ひまわりが、

驚いたように言う。


 



 


「よかった……」


 


マリルの声は、

かすれていた。


 



 


戦闘終了。


 


ダンジョンを出ると、

空が広がっていた。


 



 


「……怖かったです」


 


マリルが、

正直に言う。


 



 


「でも」


 


「誰かの役に

 立てたって……

 思えました」


 



 


「それが、

 居場所だ」


 


ライムは、

そう答えた。


 



 


夕暮れ。


 


二人で、

帰路につく。


 



 


「リドムは……」


 


マリルが、

空を見上げる。


 



 


「向こうで、

 ちゃんとやってる」


 


ライムは、

根拠なく、

だが確信を持って言った。


 



 


「賢者だから、

 じゃない」


 


「友だからだ」


 



 


マリルは、

微笑んだ。


 



 


「……私も」


 


「ここで、

 生きます」


 



 


雷は、

鳴らない。


 


だが、

確かに光っている。


 


それは、

戦いの雷ではない。


 


選択の雷だ。


 



 


世界は、

今日も続く。


 


そして――

彼らも、

ここで生きていく。


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