第25話 世界は、まだ繋がっている
異変は、前触れなく起きた。
それは警報でも、
爆発でもない。
ただ――
世界が、わずかに軋んだ。
◆
「……来たな」
探索者ギルド本部。
観測室で、ライムは立ち上がった。
雷属性の感知が、
細く、だが確実に震えている。
◆
「ダンジョン反応、
急上昇!」
オペレーターの声が響く。
「新規発生じゃない……
既存ダンジョンの、
深層が――
拡張しています!」
◆
「場所は?」
「湾岸区画・第七ダンジョン!」
◆
「……嫌な場所だな」
佐野すすむが、
苦い顔をする。
「地下水脈の上だ」
◆
「行く」
ライムは、
迷わなかった。
◆
ダンジョン内部。
壁が、
“呼吸”しているように脈打つ。
魔力の流れが、
歪んでいた。
◆
「これは……
単なる魔物増殖じゃない」
リドムが、
低く言う。
◆
「境界が、
薄くなっています」
マリルが、
胸元に手を当てる。
「……向こう側の“気配”が」
◆
魔物出現。
だが、
動きが違う。
統率されている。
◆
「来るぞ!」
佐野の声。
◆
「前衛、下がる!」
ライムが叫ぶ。
雷が、
走る。
◆
だが――
破壊しない。
雷は、
“線”となって走り、
魔物の動きを止める。
◆
「今です!」
マリルが、
両手を広げる。
光が、
穏やかに広がる。
◆
傷ついた仲間の呼吸が、
即座に整う。
◆
「……この連携、
やっぱり反則だな」
佐野が、
息を整えながら笑う。
◆
「まだ終わらない」
リドムが、
杖を構える。
◆
彼の魔法は、
大規模ではない。
だが――
“理解”に基づいている。
◆
「世界に問う」
「ここは、
境界ではない」
◆
術式が、
静かに展開する。
空間が、
一瞬だけ揺らぎ――
落ち着く。
◆
「……抑えた?」
ひまわりが、
不安げに尋ねる。
◆
「一時的に、
な」
リドムは、
額の汗を拭う。
「だが……
もう一度来る」
◆
地上。
ダンジョン入口は、
沈黙していた。
◆
「被害は最小限です」
ギルド職員が、
報告する。
◆
「……原因は?」
◆
「おそらく……」
リドムが、
ゆっくり言う。
「世界が、
完全には閉じていない」
◆
「ドラグ討伐で、
大穴は塞がった」
「だが、
縫い目は残った」
◆
「……つまり」
かなえが、
息を飲む。
◆
「異世界と現代は、
まだ繋がっている」
◆
夜。
ギルド屋上。
風が、
強い。
◆
「帰還の準備、
進んでるのか」
ライムが、
リドムに聞く。
◆
「ああ」
リドムは、
頷いた。
「境界が安定している
“今”しか、
使えない」
◆
「……一度きり、
だったな」
◆
「賢者は、
覚悟を決める役目だ」
◆
沈黙。
遠くで、
雷が鳴る。
◆
「……怖くないのか」
ライムの声は、
低かった。
◆
「怖いさ」
リドムは、
即答した。
「だがな」
「お前が守った世界は、
ここにある」
「私が戻るべき世界も、
向こうにある」
◆
マリルが、
静かに二人のもとへ来る。
◆
「……私、
約束します」
「この世界で、
必要な時だけ、
癒します」
◆
「それでいい」
ライムは、
微笑んだ。
◆
境界は、
まだ繋がっている。
だがそれは、
破滅の兆しではない。
選択の余地が、
残っているという証だ。
◆
次に雷が鳴る時。
それは――
別れの合図か、
未来の始まりか。
その答えは、
もうすぐ出る。




