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第25話 世界は、まだ繋がっている


異変は、前触れなく起きた。


 


それは警報でも、

爆発でもない。


 


ただ――

世界が、わずかに軋んだ。


 



 


「……来たな」


 


探索者ギルド本部。

観測室で、ライムは立ち上がった。


 


雷属性の感知が、

細く、だが確実に震えている。


 



 


「ダンジョン反応、

 急上昇!」


 


オペレーターの声が響く。


 


「新規発生じゃない……

 既存ダンジョンの、

 深層が――

 拡張しています!」


 



 


「場所は?」


 


「湾岸区画・第七ダンジョン!」


 



 


「……嫌な場所だな」


 


佐野すすむが、

苦い顔をする。


 


「地下水脈の上だ」


 



 


「行く」


 


ライムは、

迷わなかった。


 



 


ダンジョン内部。


 


壁が、

“呼吸”しているように脈打つ。


 


魔力の流れが、

歪んでいた。


 



 


「これは……

 単なる魔物増殖じゃない」


 


リドムが、

低く言う。


 



 


「境界が、

 薄くなっています」


 


マリルが、

胸元に手を当てる。


 


「……向こう側の“気配”が」


 



 


魔物出現。


 


だが、

動きが違う。


 


統率されている。


 



 


「来るぞ!」


 


佐野の声。


 



 


「前衛、下がる!」


 


ライムが叫ぶ。


 


雷が、

走る。


 



 


だが――

破壊しない。


 


雷は、

“線”となって走り、

魔物の動きを止める。


 



 


「今です!」


 


マリルが、

両手を広げる。


 


光が、

穏やかに広がる。


 



 


傷ついた仲間の呼吸が、

即座に整う。


 



 


「……この連携、

 やっぱり反則だな」


 


佐野が、

息を整えながら笑う。


 



 


「まだ終わらない」


 


リドムが、

杖を構える。


 



 


彼の魔法は、

大規模ではない。


 


だが――

“理解”に基づいている。


 



 


「世界に問う」


 


「ここは、

 境界ではない」


 



 


術式が、

静かに展開する。


 


空間が、

一瞬だけ揺らぎ――

落ち着く。


 



 


「……抑えた?」


 


ひまわりが、

不安げに尋ねる。


 



 


「一時的に、

 な」


 


リドムは、

額の汗を拭う。


 


「だが……

 もう一度来る」


 



 


地上。


 


ダンジョン入口は、

沈黙していた。


 



 


「被害は最小限です」


 


ギルド職員が、

報告する。


 



 


「……原因は?」


 



 


「おそらく……」


 


リドムが、

ゆっくり言う。


 


「世界が、

 完全には閉じていない」


 



 


「ドラグ討伐で、

 大穴は塞がった」


 


「だが、

 縫い目は残った」


 



 


「……つまり」


 


かなえが、

息を飲む。


 



 


「異世界と現代は、

 まだ繋がっている」


 



 


夜。


 


ギルド屋上。


 


風が、

強い。


 



 


「帰還の準備、

 進んでるのか」


 


ライムが、

リドムに聞く。


 



 


「ああ」


 


リドムは、

頷いた。


 


「境界が安定している

 “今”しか、

 使えない」


 



 


「……一度きり、

 だったな」


 



 


「賢者は、

 覚悟を決める役目だ」


 



 


沈黙。


 


遠くで、

雷が鳴る。


 



 


「……怖くないのか」


 


ライムの声は、

低かった。


 



 


「怖いさ」


 


リドムは、

即答した。


 


「だがな」


 


「お前が守った世界は、

 ここにある」


 


「私が戻るべき世界も、

 向こうにある」


 



 


マリルが、

静かに二人のもとへ来る。


 



 


「……私、

 約束します」


 


「この世界で、

 必要な時だけ、

 癒します」


 



 


「それでいい」


 


ライムは、

微笑んだ。


 



 


境界は、

まだ繋がっている。


 


だがそれは、

破滅の兆しではない。


 


選択の余地が、

残っているという証だ。


 



 


次に雷が鳴る時。


 


それは――

別れの合図か、

未来の始まりか。


 


その答えは、

もうすぐ出る。


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