第22話 異世界人、現代に立つ
「……音が、止まらない」
賢者リドムは、硬直したまま天井を見上げていた。
正確には、
天井から伸びる蛍光灯と、
絶え間なく低く響く空調の音。
「これが……
お前の言っていた“文明”か」
◆
ダンジョンから回収された三人は、
探索者ギルド本部の医療区画に通されていた。
白いカーテン。
金属製のベッド。
消毒薬の匂い。
◆
「落ち着いてください」
医療スタッフが、
やや緊張した様子で声をかける。
「ここは安全です」
◆
「……安全、ですか」
マリルは、
小さく胸の前で手を組んだ。
白を基調とした聖衣は、
すでに簡易的なガウンに替えられている。
◆
「魔力が……
薄いですね」
その一言に、
医療スタッフが言葉を詰まらせた。
◆
ライムが、
すぐにフォローに入る。
「この世界は、
魔力が希薄なんだ」
「だから……
最初は、
疲れると思う」
◆
マリルは、
ゆっくりと頷いた。
「……それでも」
「空気が、
とても穏やかです」
◆
リドムは、
端末を指差す。
「それは……
魔道具か?」
◆
「スマートフォン」
ライムは、
苦笑した。
「通話と、
情報収集用」
◆
「……魔導書より、
危険な匂いがするな」
◆
数時間後。
ギルド幹部と、
政府関係者が集められた会議室。
◆
「結論から言います」
スーツ姿の男が、
淡々と口を開く。
「お二人は、
現代日本における
“特定保護対象”となります」
◆
「つまり?」
リドムが、
腕を組む。
◆
「強制送還も、
拘束も行いません」
「ただし、
無断行動は控えていただく」
◆
「……妥当だな」
リドムは、
即答した。
「我々は、
侵略者ではない」
◆
マリルは、
不安げにライムを見る。
◆
「大丈夫だ」
ライムは、
静かに言った。
「俺が、
保証する」
◆
その一言で、
空気が変わった。
◆
会議後。
仮住まいとして用意された、
ギルド近くのマンション。
◆
「……箱だな」
リドムが、
玄関で呟く。
「箱だけど、
住める」
ライムが言う。
◆
「……この扉、
鍵が小さすぎないか?」
◆
「慣れろ」
◆
リビング。
テレビがついている。
映像が動いた瞬間、
マリルが小さく息を呑んだ。
◆
「……幻術?」
◆
「映像技術」
◆
「……すごい」
その声は、
純粋な驚きだった。
◆
夜。
簡単な食事。
コンビニ弁当。
◆
「……これは?」
「唐揚げ」
◆
マリルは、
恐る恐る口に入れ――
目を見開いた。
◆
「……美味しい……」
◆
「聖女も、
普通に食べるんだな」
リドムが、
冗談めかして言う。
◆
「はい」
マリルは、
小さく笑った。
「……今日は、
誰のためにも
祈らなくていい日ですから」
◆
その言葉に、
ライムの胸が、
少しだけ痛んだ。
◆
夜更け。
ベランダ。
◆
「……ありがとう、
ライム」
リドムが、
夜風に向かって言う。
「俺たちを、
ここに迎えてくれて」
◆
「当然だ」
「俺は、
ここで生きてる」
「だから、
迎えられる」
◆
雷は、
鳴らなかった。
だが――
確かに、
世界は繋がっていた。




