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第20話 第二の故郷


春の気配が、街に満ちていた。


 


ダンジョン発生から五年。

魔族ドラグ討伐から、三か月。


 


世界は、静かに前へ進んでいる。


 



 


探索者ギルド本部の受付で、

ライムは一枚の書類に署名していた。


 


「……これで正式登録、完了です」


受付職員が、

少し緊張した声で告げる。


 



 


探索者登録証。


 


そこに刻まれた名前は、

異世界由来のまま――

だが、

この世界の制度に組み込まれていた。


 



 


「探索者名:ライム

 ランク:A

 特記事項:雷魔法適性・極」


 



 


「……ようこそ」


職員は、

小さく微笑んだ。


 


「現代日本へ」


 



 


「ありがとう」


ライムは、

そう答えた。


 



 


ギルドの外。


 


かなえ、くるみ、ひまわり、佐野が、

並んで待っていた。


 



 


「おめでとう」


かなえが、

肩を叩く。


 


「これで、

 完全に仲間ね」


 



 


「……ああ」


 


その一言が、

胸に落ちる。


 



 


英雄として迎えられることは、

なかった。


 


だが――

それでよかった。


 



 


その日の午後。


 


地方都市ダンジョンの定期探索。


 


新人探索者の育成任務も、

同時に行われる。


 



 


「ライムさん!」


新人の一人が、

駆け寄ってくる。


 


「この前、教えてもらった

 立ち回り、

 すごく助かりました!」


 



 


「……そうか」


ライムは、

少し照れたように答えた。


 



 


戦闘。


 


魔物は中型。


連携が重要な相手。


 



 


「前に出すぎるな」


 


「右から来るぞ」


 


声を張り、

仲間を導く。


 



 


雷は――

必要な時だけ、

短く落とす。


 



 


一瞬の閃光。


 


魔物が、

崩れ落ちる。


 



 


「……すごい」


新人が、

息をのむ。


 



 


「でも」


ライムは、

続けた。


 


「俺一人じゃ、

 意味はない」


 


「連携して、

 全員で帰る」


 



 


探索は、

無事に終了した。


 



 


地上。


 


空は、

高く澄んでいる。


 



 


「昔のライムなら」


くるみが、

ぽつりと言った。


 


「もっと、

 前に出てたよね」


 



 


「そうだな」


ライムは、

笑った。


 


「守るものが、

 増えた」


 



 


夜。


 


自宅のベランダ。


 


遠くの街灯が、

柔らかく瞬く。


 



 


異世界で過ごした日々。


 


命を賭け、

仲間を失い、

世界の終わりを見た。


 



 


だが、

その全てが――

今につながっている。


 



 


「……リドム」


 


友の名を、

そっと呼ぶ。


 


彼が送ってくれたこの世界で、

ライムは生きている。


 



 


雷を呼ぶ。


 


小さな光が、

指先に灯る。


 



 


荒々しさは、

もうない。


 


だが、

確かな力がある。


 



 


視界に、

静かに文字が浮かぶ。


 


【ステータス】


名前:ライム

レベル:20

称号:世界守護者

状態:完全安定


 



 


「……これでいい」


 


強くなることが、

目的じゃない。


 


生きることが、

目的だ。


 



 


翌朝。


 


ニュースでは、

新たなダンジョン発生が報じられていた。


 


だが、

人々は慌てていない。


 


探索者がいる。


 


そして――

世界は、

守られている。


 



 


ライムは、

靴を履く。


 



 


「行ってくる」


 


誰に言うでもなく、

そう呟く。


 



 


この世界は、

彼を拒まなかった。


 


彼もまた、

この世界を選んだ。


 



 


雷魔法士ライム。


 


異世界から来た男は、

現代に根を下ろし、

探索者として生きる。


 



 


ここは、

彼の第二の故郷。


 


そして――

彼が守るべき、

日常の世界だった。




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