第20話 第二の故郷
春の気配が、街に満ちていた。
ダンジョン発生から五年。
魔族ドラグ討伐から、三か月。
世界は、静かに前へ進んでいる。
◆
探索者ギルド本部の受付で、
ライムは一枚の書類に署名していた。
「……これで正式登録、完了です」
受付職員が、
少し緊張した声で告げる。
◆
探索者登録証。
そこに刻まれた名前は、
異世界由来のまま――
だが、
この世界の制度に組み込まれていた。
◆
「探索者名:ライム
ランク:A
特記事項:雷魔法適性・極」
◆
「……ようこそ」
職員は、
小さく微笑んだ。
「現代日本へ」
◆
「ありがとう」
ライムは、
そう答えた。
◆
ギルドの外。
かなえ、くるみ、ひまわり、佐野が、
並んで待っていた。
◆
「おめでとう」
かなえが、
肩を叩く。
「これで、
完全に仲間ね」
◆
「……ああ」
その一言が、
胸に落ちる。
◆
英雄として迎えられることは、
なかった。
だが――
それでよかった。
◆
その日の午後。
地方都市ダンジョンの定期探索。
新人探索者の育成任務も、
同時に行われる。
◆
「ライムさん!」
新人の一人が、
駆け寄ってくる。
「この前、教えてもらった
立ち回り、
すごく助かりました!」
◆
「……そうか」
ライムは、
少し照れたように答えた。
◆
戦闘。
魔物は中型。
連携が重要な相手。
◆
「前に出すぎるな」
「右から来るぞ」
声を張り、
仲間を導く。
◆
雷は――
必要な時だけ、
短く落とす。
◆
一瞬の閃光。
魔物が、
崩れ落ちる。
◆
「……すごい」
新人が、
息をのむ。
◆
「でも」
ライムは、
続けた。
「俺一人じゃ、
意味はない」
「連携して、
全員で帰る」
◆
探索は、
無事に終了した。
◆
地上。
空は、
高く澄んでいる。
◆
「昔のライムなら」
くるみが、
ぽつりと言った。
「もっと、
前に出てたよね」
◆
「そうだな」
ライムは、
笑った。
「守るものが、
増えた」
◆
夜。
自宅のベランダ。
遠くの街灯が、
柔らかく瞬く。
◆
異世界で過ごした日々。
命を賭け、
仲間を失い、
世界の終わりを見た。
◆
だが、
その全てが――
今につながっている。
◆
「……リドム」
友の名を、
そっと呼ぶ。
彼が送ってくれたこの世界で、
ライムは生きている。
◆
雷を呼ぶ。
小さな光が、
指先に灯る。
◆
荒々しさは、
もうない。
だが、
確かな力がある。
◆
視界に、
静かに文字が浮かぶ。
【ステータス】
名前:ライム
レベル:20
称号:世界守護者
状態:完全安定
◆
「……これでいい」
強くなることが、
目的じゃない。
生きることが、
目的だ。
◆
翌朝。
ニュースでは、
新たなダンジョン発生が報じられていた。
だが、
人々は慌てていない。
探索者がいる。
そして――
世界は、
守られている。
◆
ライムは、
靴を履く。
◆
「行ってくる」
誰に言うでもなく、
そう呟く。
◆
この世界は、
彼を拒まなかった。
彼もまた、
この世界を選んだ。
◆
雷魔法士ライム。
異世界から来た男は、
現代に根を下ろし、
探索者として生きる。
◆
ここは、
彼の第二の故郷。
そして――
彼が守るべき、
日常の世界だった。




