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第19話 世界に残った雷


世界は、すぐには変わらなかった。


 


朝になれば人々は仕事へ向かい、

夕方には電車が混み、

夜になれば街は灯りに包まれる。


 


魔族ドラグが滅びたことを、

知っている者は多い。


だが――

それを「実感」している者は、

まだ少なかった。


 



 


「……静かだな」


 


探索者ギルド本部の屋上。

柵にもたれながら、

ライムは街を見下ろしていた。


 


「嵐の後、ってやつよ」


雨宮かなえが、隣に立つ。


 


「世界が滅びかけたなんて、

 普通は実感できない」


 



 


「それでいい」


ライムは、

そう答えた。


 


「日常が、

 続いてるなら」


 



 


彼の身体は、

まだ完全ではない。


雷装・完全展開の反動は、

確実に残っていた。


 


だが、

命に別状はない。


 


それだけで、

十分だった。


 



 


数日後。


 


ギルドの掲示板に、

新しい依頼が張り出された。


 


【依頼】

地方都市ダンジョン・定期巡回

ランク:B

特記事項:新人探索者同行あり


 



 


「……普通の依頼だな」


佐野すすむが、

腕を組んで言う。


 


「逆に、

 落ち着くでしょ」


ひまわりが、

柔らかく笑った。


 



 


「ライム、

 行ける?」


くるみが、

様子をうかがう。


 



 


「問題ない」


ライムは、

短く答えた。


 


ドラグを倒したからといって、

探索者をやめるつもりはなかった。


 



 


現地のダンジョンは、

穏やかだった。


 


魔力濃度は、

安定。


 


魔物の出現頻度も、

通常通り。


 



 


「……本当に、

 終わったんだな」


佐野が、

しみじみと呟く。


 



 


新人探索者たちは、

緊張した面持ちでついてくる。


 


その視線が、

時折ライムに向けられる。


 



 


「……見られてるな」


 


「そりゃそうよ」


くるみが、

小声で言う。


 


「世界を守った雷、

 本人だもん」


 



 


「やめてくれ」


ライムは、

苦笑した。


 



 


魔物出現。


小型。


数も少ない。


 



 


「前に出るな」


ライムは、

新人に指示を出す。


 


「連携を、

 覚えろ」


 



 


雷は、

使わない。


 


あえて、

剣を振るう。


 



 


「……え?」


新人が、

驚いた声を上げる。


 



 


「力だけが、

 探索者じゃない」


ライムは、

淡々と言った。


 


「生き残ることが、

 一番大事だ」


 



 


戦闘は、

無事に終わった。


 



 


地上。


 


「ありがとうございました!」


新人探索者たちが、

深く頭を下げる。


 



 


「……いい目だ」


佐野が、

小さく笑った。


 



 


帰りの車内。


 


ひまわりが、

ふと聞いた。


 


「ライムさんは……

 これから、どうするんですか?」


 



 


少しだけ、

沈黙。


 



 


「探索者として、

 生きる」


 


「この世界で」


 



 


異世界へ戻る方法は、

もう失われた。


 


だが、

後悔はない。


 



 


「……それだけ?」


くるみが、

首を傾げる。


 



 


ライムは、

窓の外を見る。


 


夕焼けに染まる街。


 



 


「守るって、

 大げさなことじゃない」


 


「誰かが、

 無事に家に帰れる」


 


「それで、

 十分だ」


 



 


その夜。


 


自室で、

ライムは装備を整えていた。


 


雷を呼ぶと、

以前よりも――

静かに、応えてくれる。


 



 


「……馴染んだな」


 


力が、

世界に拒まれていない。


 



 


視界に、

光が浮かぶ。


 


【ステータス】


名前:ライム

レベル:20(固定)


称号:世界守護者

状態:安定


 



 


レベルは、

もう急には上がらない。


 


だが、

それでいい。


 



 


ベランダに出る。


 


夜風が、

心地いい。


 



 


「……ここが、

 俺の世界だ」


 


遠くで、

雷が鳴った。


 


だが、

嵐の前触れではない。


 


ただの、

自然な音。


 



 


雷魔法士ライムは、

この世界に残った。


 


英雄としてではなく、

神としてでもなく。


 


一人の探索者として。


 


そして――

世界は、

その雷を必要とする限り、

彼を迎え入れ続けるだろう。



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