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第15話 選び取った居場所


書類は、想像していたよりも分厚かった。


 


探索者ギルド本部。

個室の机に置かれたファイルを前に、

ライムは静かに息を吐く。


「……多いな」


 


「正式登録だからね」


雨宮かなえが、

事務的な口調で言った。


「身元、能力、

緊急時の対応区分」


「それから――」


 


一瞬、言葉を区切る。


「世界規模事案への関与同意書」


 



 


「断ることも、できる」


雨宮は、はっきり言った。


「義務じゃない」


「ただし――」


 


「ドラグが関わる以上、

あなたは中心になる」


 



 


ライムは、

ファイルを閉じなかった。


 


異世界で生きていた頃、

書類など、存在しなかった。


力が、すべてだった。


 



 


だが、

この世界では違う。


 


守るためには、

責任が必要だ。


 



 


「……質問いいか」


 


「どうぞ」


 


「俺は――

この世界の人間じゃない」


「それでも、

探索者になれるのか?」


 



 


雨宮は、

一瞬だけ目を伏せた。


 


「法的には、

例外中の例外」


「前例もない」


 



 


「でもね」


彼女は、

まっすぐに言った。


 


「あなたはもう、

この世界を救っている」


「それを否定する法律は、

今のところ存在しない」


 



 


静寂。


 


ライムは、

ペンを取った。


 



 


名前を書く。


 


――ライム。


 


出身欄。


 


しばし、

ペンが止まる。


 



 


「……“異世界”って、

書いていいのか?」


 


「正直でいいわ」


 



 


ライムは、

小さく笑った。


 


異世界。


逃げた場所。


だが、

捨てたわけじゃない。


 



 


最後の署名欄。


 


【あなたは、この世界を

“守る側”として生きる意思がありますか】


 



 


迷いは、

なかった。


 



 


――はい。


 



 


ペンを置いた瞬間、

不思議と胸が軽くなった。


 



 


「これで――」


雨宮が、

ファイルを閉じる。


 


「あなたは、

正式な探索者よ」


 



 


廊下に出ると、

全員が待っていた。


 


「終わったか?」


佐野が、

腕を組んで聞く。


 


「ああ」


 


「そっか」


ひまわりが、

柔らかく笑う。


 


「じゃあ、

これからも一緒だね」


 



 


「逃げないって、

言ってたもんな」


くるみが、

からかうように言う。


 



 


ライムは、

一人一人の顔を見る。


 


異世界では、

ここまでの関係を

築けなかった。


 



 


「……よろしく頼む」


 


その言葉に、

誰も笑わなかった。


それが、

答えだった。


 



 


夜。


 


ライムは、

自室のベランダに立っていた。


 


街の灯り。

遠くを走る電車の音。


 



 


異世界の夜は、

もっと静かだった。


 



 


「……戻れるのか?」


ふと、

そんな考えが浮かぶ。


 


だが、

もう答えは出ている。


 



 


「戻らない」


 


ここには、

守るべきものがある。


 



 


スマートフォンが、

震えた。


 


雨宮からの通知。


 


【最終深層攻略、

明日未明開始】


 



 


「来たな……」


 


ライムは、

雷を呼び出す。


 


小さな火花が、

指先で跳ねた。


 



 


視界に、

光が浮かぶ。


 


【ステータス】


名前:ライム

レベル:15


称号:雷の探索者(正式)

称号効果:

・対魔族戦闘時、集中力微増

・味方士気上昇(小)


 



 


「称号、

効果付きか……」


 


この世界は、

力を数値で示す。


 


だが――

覚悟は、数値じゃない。


 



 


遠くで、

雷鳴が響いた。


 


空は、

まだ晴れている。


 



 


「待ってろよ、ドラグ」


 


雷魔法士ライムは、

もう逃げない。


 


異世界の因縁も。

この世界の未来も。


 


すべてを背負って――

明日、深層へ向かう。


 


それは、

雷が選び取った居場所を

守るための戦いだ。


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