第14話 深層が呼ぶ名
異変は、同時多発的に起きた。
日本各地のダンジョンで、
ほぼ同じ報告が上がったのだ。
――深層魔力、異常上昇。
◆
探索者ギルド本部。
大型モニターに、
日本地図が映し出される。
赤い警告表示が、
次々と点灯していく。
「……五十のうち、
二十六」
雨宮かなえの声が、
低く沈んだ。
「半数以上が、
同時に不安定化」
◆
「偶然じゃないな」
佐野すすむが、
腕を組む。
「誰かが、
意図的にやってる」
◆
ライムは、
その光景を黙って見つめていた。
胸の奥が、
重くざわつく。
――来た。
◆
「……原因は、
ドラグだ」
その名を口にした瞬間、
場の空気が、凍る。
◆
「異世界で、
俺を追い詰めた魔族」
「ダンジョンを通して、
この世界に干渉してる」
◆
ひまわりが、
息をのむ。
「……じゃあ、
これ全部……」
◆
「前触れだ」
ライムは、
断言した。
「本命は、
もっと深いところにいる」
◆
緊急対策会議は、
即座に打ち切られた。
結論は一つ。
深層調査班の派遣。
◆
向かったのは、
都内最大規模のダンジョン。
通称――
旧湾岸深層坑。
◆
「ここ、
前より空気が重い」
くるみが、
魔力計を見つめる。
「数値、
通常の一・五倍」
◆
「無理はしない」
雨宮が、
全員に目を向ける。
「異変を確認したら、
即撤退」
◆
だが――
深層に進むにつれ、
空間は歪み始めた。
壁が、
脈打つように動いている。
◆
「……生きてるみたいだ」
佐野が、
吐き捨てるように言う。
◆
魔物出現。
今までとは、
明らかに違う。
◆
「……魔族寄りだ」
ライムは、
即座に判断した。
「思考がある」
◆
戦闘。
連携は、
完璧だった。
だが――
敵が、しぶとい。
◆
「くそっ……!」
佐野の盾に、
深い亀裂が入る。
「これ以上は――」
◆
「下がれ!」
ライムが、前に出た。
雷を、
静かに集める。
◆
「――《雷装・深化》」
雷装の上位応用。
※雷を皮膚の内側にまで巡らせ、
反応速度と魔力制御を極限まで高める技
◆
世界が、
スローモーションになる。
◆
魔物の動きが、
手に取るように見えた。
◆
「……遅い」
一歩。
二歩。
雷が、
閃いた。
◆
魔物は、
抵抗する間もなく、
消滅した。
◆
だが――
安堵は、なかった。
◆
深層最奥。
そこにあったのは――
巨大な“門”。
◆
異世界で見たものと、
同じ構造。
だが、
完全ではない。
◆
「……途中まで、
開いてる」
雨宮の声が、震える。
◆
門の向こうから、
声が響いた。
『雷の子よ』
◆
全員が、
息を呑む。
◆
『よくぞ、
ここまで来た』
◆
ライムは、
一歩前に出た。
「……ドラグ」
◆
『ほう。
覚えていたか』
◆
異世界で聞いた、
低く、粘つく声。
間違いない。
◆
「お前が、
この世界を狙っている理由は?」
◆
『理由?』
ドラグが、
嗤う。
『世界など、
どこでもよい』
『雷よ』
『お前が、
ここにいることが、
気に食わぬだけだ』
◆
「……俺を、
追ってきたのか」
◆
『逃げたと思ったか?』
『違う』
『お前は――
ここで根を張った』
◆
ドラグの声が、
低くなる。
『ならば、
ここを――
戦場にする』
◆
門が、
大きく脈打つ。
◆
「撤退だ!」
雨宮が、叫ぶ。
「今は、
まだ早い!」
◆
全員が、
即座に動く。
だが――
ライムだけが、
一瞬、立ち止まった。
◆
「……俺は」
◆
異世界では、
逃げた。
命を守るために。
だが――
今は違う。
◆
「次は、
逃げない」
◆
雷が、
小さく鳴った。
◆
地上。
夜の街。
人々は、
何も知らずに眠っている。
◆
ライムは、
空を見上げた。
◆
「……必ず、
終わらせる」
視界に、
光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:14
魔力:大幅向上
耐久:向上
敏捷:大幅向上
スキル
・雷魔法(中級)
・雷装
・雷装・深化
・接触雷
・ライトスパーク・バースト
雷は、
もはや逃走のための力ではない。
守るために――
敵と向き合うためにある。
そして深層で、
魔族ドラグは、
確信していた。
この雷は、
必ず自分の前に立つ、と。




