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第12話 守るための最前線


出動要請が入ったのは、夜明け前だった。


「神奈川南部・臨海第四ダンジョン。

 深層反応、急上昇」


探索者ギルド本部の作戦室で、

淡々と報告が読み上げられる。


「現地周辺は、住宅地」


その一言で、

場の空気が変わった。


 



 


「一般人への被害は?」


雨宮かなえが、即座に問う。


「現時点ではなし。

 ですが、境界の不安定化が進行中」


「最悪、溢れる可能性あり」


溢れる――

ダンジョンブレイク。


魔物が、

現実世界へ流れ出す現象だ。


 



 


「対魔族対応班、出動」


雨宮の声は、迷いがなかった。


「ライム、前線判断を任せる」


「……了解」


その言葉が、

当たり前のように出てきたことに、

ライム自身が少し驚く。


 



 


現地。


薄暗い港湾エリアの一角に、

ダンジョンの入口が口を開けている。


周囲は、規制線。


遠巻きに集まる人々の視線が、

突き刺さるようだった。


「……見られてるな」


佐野すすむが、低く言う。


「仕方ねぇ」


「守るってのは、

 そういうことだ」


 



 


内部に入った瞬間、

魔力の密度が跳ね上がった。


「……深い」


ひまわりが、息を呑む。


「ここ、

 本来ならAランク案件だ」


 



 


進むにつれ、

壁に赤黒い紋様が増えていく。


異世界で見たものと、

同じ――。


「ドラグの干渉が、

 かなり進んでる」


ライムは、拳を握った。


「急ぐ」


 



 


第一接触。


中型魔物三体。

通常個体より、明らかに強化されている。


「前衛、抑えて!」


佐野が盾を構える。


「ライム!」


「……任せろ」


 



 


雷を、脚へ。


身体強化。


一歩で、距離を詰める。


「――接触雷」


拳が触れた瞬間、

内部で雷が炸裂する。


魔物が、

声もなく崩れ落ちた。


「早っ……」


ひまわりが、目を見開く。


 



 


「次、来る!」


くるみの声。


天井が、割れた。


落下してくる影。


「っ!」


佐野が、間に入る。


だが――。


衝撃が、重い。


「……っ、硬ぇな!」


 



 


「佐野、下がれ!」


ライムが叫ぶ。


自分が、前に出る。


雷を、集める。


「――《ライトスパーク・バースト》」


圧縮された雷が、

一直線に走る。


轟音。


影が、粉砕された。


 



 


静寂。


だが、

嫌な予感は消えない。


「……まだ、終わってない」


ライムの声が、低くなる。


 



 


深層。


空間が、

大きく歪んでいた。


まるで、

向こう側から押し広げられているように。


「門……」


雨宮が、唇を噛む。


「完全に開いたら、

 この辺一帯が戦場になる」


 



 


「止められるか?」


佐野が、ライムを見る。


「……やるしかない」


ライムは、前に出た。


一人、

歪みの中心へ。


 



 


空間の奥で、

何かが蠢く。


魔族の配下。


ドラグほどではない。

だが、

確実に“意思”を持つ存在。


 


『雷の使い手……』


声が、

直接頭に響く。


『我らの進軍を、

 邪魔するな』


 



 


「断る」


ライムは、即答した。


「ここは、

 俺たちの世界だ」


 



 


雷が、

全身を駆け巡る。


今までで、

一番、静かな集中。


「――《雷装》」


※雷魔法を全身に巡らせ、

 反応速度と攻防を底上げする応用技


 



 


一瞬で、距離を詰める。


衝突。


雷と魔力が、

激しくぶつかる。


「……っ!」


重い。


だが――

押し負けない。


 



 


「今だ!」


背後から、

くるみとひまわりの攻撃が重なる。


佐野が、

盾で突き飛ばす。


 



 


「――終わりだ」


ライムは、

最後の雷を叩き込んだ。


閃光。


爆音。


配下は、

悲鳴と共に消滅した。


 



 


歪みが、

ゆっくりと閉じていく。


ダンジョンが、

静かさを取り戻す。


 



 


地上。


夜明けの光が、

港を照らしていた。


「……終わったな」


佐野が、深く息を吐く。


 



 


規制線の向こう。


人々が、

こちらを見ている。


不安。

恐怖。

そして――希望。


 



 


その視線の中心に、

ライムが立っていることを、

彼自身も感じていた。


 



 


ギルドに戻った後。


雨宮が、

正式に告げる。


「今回の件、

 政府にも報告が上がる」


「あなたの存在も、

 隠せない」


 



 


「……そうか」


ライムは、

静かにうなずいた。


「構わない」


 



 


夜。


部屋の窓から、

街の灯りを見る。


「……守れた」


小さく、

だが確かな実感。


 


視界に、光が浮かぶ。


 


【ステータス更新】


名前:ライム

レベル:12


魔力:向上

耐久:やや向上

敏捷:安定


スキル

・雷魔法(初級)

・身体強化(微):安定

・接触雷:習熟

・ライトスパーク・バースト

・雷装:習得


 


雷魔法士ライムは、

この日――


初めて、

“多くの人の日常”を守った。


それは、

誰かに命じられたからではない。


この世界を、

自分の居場所だと選んだからだ。


そして――

深層の向こうで、

魔族ドラグは、

確信していた。


雷の使い手は、

もはや――

無視できない存在になった、と。


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