第12話 守るための最前線
出動要請が入ったのは、夜明け前だった。
「神奈川南部・臨海第四ダンジョン。
深層反応、急上昇」
探索者ギルド本部の作戦室で、
淡々と報告が読み上げられる。
「現地周辺は、住宅地」
その一言で、
場の空気が変わった。
◆
「一般人への被害は?」
雨宮かなえが、即座に問う。
「現時点ではなし。
ですが、境界の不安定化が進行中」
「最悪、溢れる可能性あり」
溢れる――
ダンジョンブレイク。
魔物が、
現実世界へ流れ出す現象だ。
◆
「対魔族対応班、出動」
雨宮の声は、迷いがなかった。
「ライム、前線判断を任せる」
「……了解」
その言葉が、
当たり前のように出てきたことに、
ライム自身が少し驚く。
◆
現地。
薄暗い港湾エリアの一角に、
ダンジョンの入口が口を開けている。
周囲は、規制線。
遠巻きに集まる人々の視線が、
突き刺さるようだった。
「……見られてるな」
佐野すすむが、低く言う。
「仕方ねぇ」
「守るってのは、
そういうことだ」
◆
内部に入った瞬間、
魔力の密度が跳ね上がった。
「……深い」
ひまわりが、息を呑む。
「ここ、
本来ならAランク案件だ」
◆
進むにつれ、
壁に赤黒い紋様が増えていく。
異世界で見たものと、
同じ――。
「ドラグの干渉が、
かなり進んでる」
ライムは、拳を握った。
「急ぐ」
◆
第一接触。
中型魔物三体。
通常個体より、明らかに強化されている。
「前衛、抑えて!」
佐野が盾を構える。
「ライム!」
「……任せろ」
◆
雷を、脚へ。
身体強化。
一歩で、距離を詰める。
「――接触雷」
拳が触れた瞬間、
内部で雷が炸裂する。
魔物が、
声もなく崩れ落ちた。
「早っ……」
ひまわりが、目を見開く。
◆
「次、来る!」
くるみの声。
天井が、割れた。
落下してくる影。
「っ!」
佐野が、間に入る。
だが――。
衝撃が、重い。
「……っ、硬ぇな!」
◆
「佐野、下がれ!」
ライムが叫ぶ。
自分が、前に出る。
雷を、集める。
「――《ライトスパーク・バースト》」
圧縮された雷が、
一直線に走る。
轟音。
影が、粉砕された。
◆
静寂。
だが、
嫌な予感は消えない。
「……まだ、終わってない」
ライムの声が、低くなる。
◆
深層。
空間が、
大きく歪んでいた。
まるで、
向こう側から押し広げられているように。
「門……」
雨宮が、唇を噛む。
「完全に開いたら、
この辺一帯が戦場になる」
◆
「止められるか?」
佐野が、ライムを見る。
「……やるしかない」
ライムは、前に出た。
一人、
歪みの中心へ。
◆
空間の奥で、
何かが蠢く。
魔族の配下。
ドラグほどではない。
だが、
確実に“意思”を持つ存在。
『雷の使い手……』
声が、
直接頭に響く。
『我らの進軍を、
邪魔するな』
◆
「断る」
ライムは、即答した。
「ここは、
俺たちの世界だ」
◆
雷が、
全身を駆け巡る。
今までで、
一番、静かな集中。
「――《雷装》」
※雷魔法を全身に巡らせ、
反応速度と攻防を底上げする応用技
◆
一瞬で、距離を詰める。
衝突。
雷と魔力が、
激しくぶつかる。
「……っ!」
重い。
だが――
押し負けない。
◆
「今だ!」
背後から、
くるみとひまわりの攻撃が重なる。
佐野が、
盾で突き飛ばす。
◆
「――終わりだ」
ライムは、
最後の雷を叩き込んだ。
閃光。
爆音。
配下は、
悲鳴と共に消滅した。
◆
歪みが、
ゆっくりと閉じていく。
ダンジョンが、
静かさを取り戻す。
◆
地上。
夜明けの光が、
港を照らしていた。
「……終わったな」
佐野が、深く息を吐く。
◆
規制線の向こう。
人々が、
こちらを見ている。
不安。
恐怖。
そして――希望。
◆
その視線の中心に、
ライムが立っていることを、
彼自身も感じていた。
◆
ギルドに戻った後。
雨宮が、
正式に告げる。
「今回の件、
政府にも報告が上がる」
「あなたの存在も、
隠せない」
◆
「……そうか」
ライムは、
静かにうなずいた。
「構わない」
◆
夜。
部屋の窓から、
街の灯りを見る。
「……守れた」
小さく、
だが確かな実感。
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:12
魔力:向上
耐久:やや向上
敏捷:安定
スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
・ライトスパーク・バースト
・雷装:習得
雷魔法士ライムは、
この日――
初めて、
“多くの人の日常”を守った。
それは、
誰かに命じられたからではない。
この世界を、
自分の居場所だと選んだからだ。
そして――
深層の向こうで、
魔族ドラグは、
確信していた。
雷の使い手は、
もはや――
無視できない存在になった、と。




