第11話 世界からの宣戦
その異変は、同時に起きた。
日本各地。
稼働中のダンジョン――五十のうち、七つ。
深層域で、魔力波形が一斉に跳ね上がった。
◆
探索者ギルド本部。
警報が、止まらない。
「湾岸第五、反応急上昇!」
「関西第二、未確認ゲート発生!」
「北部山岳ダンジョン、通信断!」
指示が飛び交い、
職員たちが端末を叩く。
「……同時多発?」
雨宮かなえは、モニターを睨みつけた。
「偶然じゃない」
◆
その中心で、
ライムは静かに立っていた。
胸の奥が、
ざわつくどころか――冷えている。
「来たな」
誰に言うでもなく、
そう呟いた。
「ライム?」
百瀬くるみが、顔を見る。
「……異世界側が、
本気で繋げにきてる」
◆
モニターが切り替わる。
映し出されたのは、
湾岸第五ダンジョンの深層映像。
黒い空間。
歪む壁。
そして――。
「……!」
ひまわりが、息を呑んだ。
映像の中心に、
人型の影が立っている。
完全ではない。
だが、圧倒的。
「――ドラグ」
ライムの喉から、
低い声が漏れた。
◆
影が、こちらを見た。
カメラ越しにも、
“視線”がわかる。
次の瞬間。
音声が、割り込んだ。
『久しいな、雷の使い手』
ノイズ混じりだが、
はっきりとした言葉。
会議室が、凍りつく。
◆
『世界を越えて逃げたかと思えば……
今度は、守る側とは』
『随分と、
人間に馴染んだものだ』
ライムは、一歩前に出た。
「……何の用だ」
◆
『用?』
ドラグは、笑った。
『宣言だ』
『境界は、すでに脆い』
『ダンジョンは門となり、
やがて――』
『この世界は、
我らの戦場になる』
◆
「ふざけるな」
ライムの声は、低く、静かだった。
「ここは、
お前たちの世界じゃない」
◆
『そう言うと思った』
ドラグは、
愉快そうに肩を揺らす。
『ならば、止めてみろ』
『雷魔法士ライム』
名を呼ばれ、
空気が、震えた。
◆
「……宣戦布告、ってことか」
佐野すすむが、歯を食いしばる。
「随分、
わかりやすい野郎だ」
雨宮は、即座に判断を下す。
「全ダンジョン、
深層探索を一時停止!」
「対魔族対応班を編成!」
◆
映像が、乱れる。
ドラグの姿が、
霧のように薄れていく。
最後に、
こちらを見下ろして言った。
『再会は、深層で』
そして――
通信は、途切れた。
◆
沈黙。
重い空気。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
◆
「……ライム」
雨宮が、静かに呼ぶ。
「あなたは」
「異世界と現代を、
両方知っている」
「協力してほしい」
◆
ライムは、少しだけ目を閉じた。
異世界。
戦場。
仲間の死。
そして――
今の世界。
守りたい日常。
◆
「……条件がある」
目を開き、言った。
「俺は、
“道具”にはならない」
「命令じゃなく、
判断に関わらせてほしい」
◆
雨宮は、
一瞬も迷わなかった。
「了解」
「あなたを、
対魔族対応班の中核に置く」
◆
くるみが、
半ば冗談めかして言う。
「これってさ……」
「世界を守る側、
確定ってやつ?」
◆
ライムは、苦笑した。
「……大げさだ」
だが。
その言葉を、
誰も否定しなかった。
◆
夜。
一人、屋上。
風が、冷たい。
街の灯りが、
遠くまで続いている。
◆
「……また、戦争か」
呟きに、
答える者はいない。
だが――。
「今度は、
逃げない」
雷が、
指先で小さく弾けた。
◆
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:11
魔力:やや向上
耐久:低
敏捷:安定
スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
・ライトスパーク・バースト
◆
雷魔法士ライムは、
この日――
個人の探索者から、
“世界の防衛線”へと踏み込んだ。
そして宣戦は、
もう取り消せない。
現代と異世界は、
確かに――
同じ戦場になった。




