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第11話 世界からの宣戦


その異変は、同時に起きた。


日本各地。

稼働中のダンジョン――五十のうち、七つ。


深層域で、魔力波形が一斉に跳ね上がった。


 



 


探索者ギルド本部。


警報が、止まらない。


「湾岸第五、反応急上昇!」


「関西第二、未確認ゲート発生!」


「北部山岳ダンジョン、通信断!」


指示が飛び交い、

職員たちが端末を叩く。


「……同時多発?」


雨宮かなえは、モニターを睨みつけた。


「偶然じゃない」


 



 


その中心で、

ライムは静かに立っていた。


胸の奥が、

ざわつくどころか――冷えている。


「来たな」


誰に言うでもなく、

そう呟いた。


「ライム?」


百瀬くるみが、顔を見る。


「……異世界側が、

 本気で繋げにきてる」


 



 


モニターが切り替わる。


映し出されたのは、

湾岸第五ダンジョンの深層映像。


黒い空間。

歪む壁。


そして――。


 


「……!」


ひまわりが、息を呑んだ。


映像の中心に、

人型の影が立っている。


完全ではない。

だが、圧倒的。


「――ドラグ」


ライムの喉から、

低い声が漏れた。


 



 


影が、こちらを見た。


カメラ越しにも、

“視線”がわかる。


次の瞬間。


音声が、割り込んだ。


 


『久しいな、雷の使い手』


 


ノイズ混じりだが、

はっきりとした言葉。


会議室が、凍りつく。


 



 


『世界を越えて逃げたかと思えば……

 今度は、守る側とは』


『随分と、

 人間に馴染んだものだ』


ライムは、一歩前に出た。


「……何の用だ」


 



 


『用?』


ドラグは、笑った。


『宣言だ』


『境界は、すでに脆い』


『ダンジョンは門となり、

 やがて――』


 


『この世界は、

 我らの戦場になる』


 



 


「ふざけるな」


ライムの声は、低く、静かだった。


「ここは、

 お前たちの世界じゃない」


 



 


『そう言うと思った』


ドラグは、

愉快そうに肩を揺らす。


『ならば、止めてみろ』


『雷魔法士ライム』


 


名を呼ばれ、

空気が、震えた。


 



 


「……宣戦布告、ってことか」


佐野すすむが、歯を食いしばる。


「随分、

 わかりやすい野郎だ」


雨宮は、即座に判断を下す。


「全ダンジョン、

 深層探索を一時停止!」


「対魔族対応班を編成!」


 



 


映像が、乱れる。


ドラグの姿が、

霧のように薄れていく。


最後に、

こちらを見下ろして言った。


 


『再会は、深層で』


 


そして――

通信は、途切れた。


 



 


沈黙。


重い空気。


誰も、すぐには言葉を発せなかった。


 



 


「……ライム」


雨宮が、静かに呼ぶ。


「あなたは」


「異世界と現代を、

 両方知っている」


「協力してほしい」


 



 


ライムは、少しだけ目を閉じた。


異世界。

戦場。

仲間の死。


そして――

今の世界。


守りたい日常。


 



 


「……条件がある」


目を開き、言った。


「俺は、

 “道具”にはならない」


「命令じゃなく、

 判断に関わらせてほしい」


 



 


雨宮は、

一瞬も迷わなかった。


「了解」


「あなたを、

 対魔族対応班の中核に置く」


 



 


くるみが、

半ば冗談めかして言う。


「これってさ……」


「世界を守る側、

 確定ってやつ?」


 



 


ライムは、苦笑した。


「……大げさだ」


だが。


その言葉を、

誰も否定しなかった。


 



 


夜。


一人、屋上。


風が、冷たい。


街の灯りが、

遠くまで続いている。


 



 


「……また、戦争か」


呟きに、

答える者はいない。


だが――。


 


「今度は、

 逃げない」


 


雷が、

指先で小さく弾けた。


 



 


視界に、光が浮かぶ。


 


【ステータス更新】


名前:ライム

レベル:11


魔力:やや向上

耐久:低

敏捷:安定


スキル

・雷魔法(初級)

・身体強化(微):安定

・接触雷:習熟

・ライトスパーク・バースト


 



 


雷魔法士ライムは、

この日――


個人の探索者から、

“世界の防衛線”へと踏み込んだ。


そして宣戦は、

もう取り消せない。


現代と異世界は、

確かに――

同じ戦場になった。


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