第10話 雷が試される日
探索者ギルド本部・訓練区画。
普段は一般探索者が使う模擬戦場だが、
今日は一段階、空気が張り詰めていた。
「ランク昇格審査、開始まで五分」
アナウンスが響く。
ライムは、深く息を吸った。
「……思ったより、早いな」
「妥当だよ」
隣で、雨宮かなえが静かに言う。
「現場での判断力。
新人保護。
異常事態への対応」
「全部、基準を超えてる」
「それでも……」
「不安?」
ライムは、正直にうなずいた。
「試験、ってのは苦手だ」
異世界では、
評価は戦場で決まった。
生き残ったか、死んだか。
それだけだった。
◆
審査官は三名。
全員がAランク以上の探索者だった。
「今回の昇格対象は、
雷魔法士・ライム」
「目標ランクは――D」
ざわめきが起こる。
EからD。
だが、異例の早さだ。
「内容は実戦形式」
「模擬ダンジョン内での単独行動」
「制限時間、四十分」
◆
スタートの合図と同時に、
模擬ダンジョンの扉が閉まる。
「単独……か」
ライムは、周囲を見回した。
地形は、地下施設型。
視界は悪く、音が反響する。
「……落ち着け」
雷を、内側に留める。
◆
最初の魔物は、
標準的な獣型。
「――《ライトスパーク》」
無駄のない一撃。
撃破。
「よし」
だが、次からが違った。
◆
通路の先。
魔力が、歪んでいる。
「……来る」
出現したのは、
異常個体。
反応速度が、明らかに速い。
「やっぱり、混ざってる」
ドラグの影。
直接の姿ではない。
だが、その影響が、
確実に現代へ滲み出ている。
◆
魔物が跳ぶ。
速い。
だが――。
「遅い」
脚に魔力を流す。
※身体強化(微):反応と踏み込みの補助
世界が、一拍だけ遅れる。
ライムは、側面へ回り込んだ。
「――接触雷」
拳が、魔物に触れた瞬間、
雷が内部で弾ける。
魔物は、痙攣し、崩れ落ちた。
◆
「……問題は」
ライムは、奥を見る。
「ここから、だな」
ダンジョンが、震えた。
模擬のはずの壁に、
赤黒い紋様が浮かぶ。
「まさか……」
◆
警報。
外の審査室が、ざわつく。
「異常魔力反応!?」
「模擬ダンジョンに、
外部干渉!?」
雨宮が、即座に立ち上がる。
「ドラグ……!」
◆
内部。
空間が、歪む。
異世界の深層で見た、
“門”に近い形。
「……来るなら」
ライムは、拳を握る。
「ここで、止める」
◆
出現したのは、
魔族の端末とも言える存在。
完全体ではない。
だが、
新人探索者なら即死の強さ。
「……なるほど」
怖さより、
怒りが先に来た。
「俺の世界も、
この世界も――」
「壊させない」
◆
雷を、解放する。
これまでとは違う。
一点集中。
「――《ライトスパーク・バースト》」
※魔力を一点に圧縮し、瞬間的に放出する応用雷魔法
轟音。
閃光。
空間が、焼き切れる。
◆
沈黙。
門は、崩れ、
魔物は、消滅した。
ライムは、膝をつく。
「……っ」
魔力消費が、重い。
だが――。
「生きてる」
◆
扉が、開いた。
審査官と、雨宮たちが駆け寄る。
「無事か!」
「……ああ」
佐野が、周囲を見回し、
低く笑った。
「とんでもねぇな」
◆
審査結果は、即日出た。
「ライム」
審査官が、正式に告げる。
「ランクD昇格、承認」
「加えて――」
一拍、置く。
「異常事態対処功績として、
特別記録に残す」
◆
ギルド内。
視線が、変わっていた。
好奇。
尊敬。
そして――期待。
「……目立つな」
くるみが、肩をすくめる。
「いいじゃん」
ひまわりが、笑う。
「守ってくれる人が、
増えるってことです」
◆
夜。
ライムは、一人、街を歩いていた。
ネオン。
人の声。
平和な日常。
「……守れたな」
小さく、そう呟く。
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:10
魔力:低
耐久:低
敏捷:安定
スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
・ライトスパーク・バースト:習得
雷魔法士ライムは、
この日――
“試される側”から、
“任される側”へと立場を変えた。
そして、遠く異世界の深層で、
魔族ドラグは、
確かに気づいていた。
雷を操る存在が、
再び立ち上がったことに。




