いつもより早起きをした日[日常文芸?]
私は夜型人間だ。次の日が仕事で早く寝ようと考えていても、夜中になるほど目が冴えて寝られなくなる。
というか、寝たくない。だから、スマホで本を読んだり動画を見たりしていると、ますます目が冴える悪循環だ。
今もそれで、スマホ片手に布団でゴロゴロして。たまに見る無料の占いを読んでいた。
明日の恋愛運、星五。いつもより早起きをすると出会いがあるでしょう。だって。
占いなんて信じたりはしないけど、いい事が書かれていると、やっぱり少しだけ心が動く。
早く寝ないと朝が辛いことは分かっているから、渋々スマホを充電器に繋げて目を閉じた。
私は夜型人間だけど、目を閉じると直ぐに熟睡できる人間でもある。
それで、六時間ほど寝ることができたら、目覚ましの音で叩き起されても、スッキリ目覚めることができるのだ。
で、今日は早めに寝たお陰もあって、いつもより一時間早めに目が覚めた。
出社時間まで余裕があるから、いつもみたいにバタバタせずに、のんびり支度した。
それでも、いつもより三十分早く準備が終わってしまったから、スマホでもいじって時間を潰そうかとも思ったんだけど。
せっかく急がなくていいんだから、散歩しながら出社しようかと思い立った。
だから、アパートの玄関を開けて外に出ようとしたんだけど、扉を開けた瞬間、ゴンッていう鈍い音が響いて、その後、男性の声にならない「いっづ……ダッ!」みたいな叫びが聞こえて。
私は慌てて扉の内側にこもってしまったのだ。
だって! 外側に開いたら男の人を扉で轢いちゃうし!
でも、外の人がどうなってるのか気になったから、覗き穴から恐る恐る外を見た。
私のせいで怪我をしてるかもしれなかった人は、額を押さえてうずくまっている。
ちょっとよれたスーツを着てて、見るからにこれから仕事に行きますみたいな姿をしていた。
うわ、頭を強打させてしまったのかも。
じわりと冷や汗が浮かんだ。これは、病院に連れて行った方がいい案件だ。
私は扉を物凄く小さく開けて、男性の目線まで屈んで「だ、大丈夫ですか……病院、連れて行かせて頂きます……」必死の形相でそう訴えたのだ。
そしたら、ちらりと私を見た男性が、かっと目を見開いて、小さな悲鳴を漏らして腰を抜かしたのである。
「……いや、結構で……す? あ、立てね」
その声が凄く聞き心地よくて、一瞬呆然としてしまう。
だけど、本気で腰を抜かしてるように見える男性に、私は慎重に扉を開けて外に出る。
「大丈夫ですか? 本当にすみません」
彼に手を差し出すと
「あ、どうも……やべ、遅刻する!」
条件反射みたいに私の手を取った男性は、立ち上がって腕時計に視線を向けて、立てなかったのが嘘のように、足早に階段の方へ歩き出す。
何度か私に頭を下げて。頭を下げるのは私の方なのでは。このアパートに、あんな人住んでたんだ。知らなかった。
というか、私もそろそろ出社しないと。
ぼんやりしている場合ではない。忘れ物がないか確認して、さっきの男性がうずくまっていた場所に、袋に入ったお弁当が落ちているのを見つけた。
……え? あの人の忘れ物では?
急いで追いかければ、間に合うかも。
私はその袋を拾って、全速力で駆け出した。
朝なのか昼なのか分からないけど、食べようとしていたお弁当がないと辛いだろうから。私なら内心、滂沱の涙を流す。




