表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

第1話:婚約破棄は突然に。そして、追放も。

私は舞踏会で、笑顔のまま婚約を破棄された。


帝都アルディナ。王宮にて開かれた春の社交舞踏会。

音楽と笑い声が満ちる会場で、私は、誰よりも美しく装って立っていた。


けれど、壇上に呼び出された次の瞬間、すべてが終わった。


「クラリッサ・フォン・エルディン。

 貴女との婚約を――この場をもって破棄する!」


突如、王太子ジュリアンの声が響いた。


ざわめきが走る会場。

何人かの令嬢が口元を手で押さえ、貴族たちは戸惑いの表情を浮かべる。


「どういう、ことですか……?」


「貴女が聖女リリーを執拗にいじめたという証言があった。

 魔力干渉による精神不調、目撃証言も多数。弁明は不要だ」


「……冤罪ではなく?」


「貴族の娘としての品位を疑われては困る。即刻、爵位を剥奪し、帝国から追放とする」


私は、まるで台本通りに進む茶番劇のような出来事に、しばし呆然とする。


その傍ら、彼の“新しい婚約者”として立つのは、平民出身の少女リリー。

彼女は涙ぐみながら、舞台の中心で“私の残虐さ”を語ってみせた。


「クラリッサ様が……私の祈りを踏みにじって、魔力を乱されて……」


(祈りって、何?)


私が彼女に話しかけたのは、実際にはほんの数回。

誤解どころか、故意の捏造。


「くだらない」


私はそう呟き、王太子を真っすぐに見つめた。


「王太子殿下。あなたの指には、まだ私との婚約指輪がございますわ。

 ……式すらまだですのに、“破棄”というのは、少々順序が逆ではなくて?」


ジュリアンの顔が、わずかに引きつった。


「さようでございますか。では、改めて――この婚約、破棄いたします」


私は、手袋をはずし、指輪を自らの手で外した。

そして、王太子の足元にそれを落とす。


カツン、と音がした。


「愚か者たちの小芝居に、つきあう義理はございません。

 追放でも罰でも、お好きになさって。

 ただ――」


私はドレスの裾を翻し、観衆の中心で最後の一言を投げた。


「私を失ったことが、どれほど愚かだったか。

 やがて、帝国そのものが思い知ることでしょう」




翌朝、私は屋敷を明け渡され、護衛もつかず馬車に乗せられた。

表向きは“穏便な処分”。

実際には、「帝国の恥」として追い出されたも同然。


(……これが、私に与えられた結末)


誰も見送らない街道。

冷たい風が、私の頬をなでた。


だが――


私はこの追放を、“終わり”とは呼ばない。

むしろこれは、“物語の序章”にすぎない。


クラリッサ・フォン・エルディン。

かつて“悪役令嬢”と呼ばれたこの私が、

やがて“隣国の国母”として、再び帝国を見下ろす日が来る。


それを、あの方たちはまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ