餞別
私はトラックドライバー、日本海に面する某漁港で海産物を大型トラックに載せ東京の海産物加工会社まで定期的に運んでいる。
って言っても、東京の海産物加工会社はある反社グループのダミー会社。
それで分かるだろうけど某漁港で大型トラックに載せられる積み荷は海産物だけで無く、漁港の遥か沖合で大陸から来た船から受け取った荷も積まれている。
飲むと気持ち良くなるお薬。
なんで分かるかって言うと、荷抜きしてるから。キャハ
1袋に1000錠くらい入っている袋を何時もだいたい100袋くらい受け取って海産物の間に隠すんだけど、その受け取った1000錠入りの袋の1袋1袋から2〜3錠ずつ抜き取るって訳。キャハハ
此のお薬飲むとね、嫌な事なんてみんな忘れて気持ち良くなるんだ。キャハハハ
運送会社の社長に怒鳴り付けられた事も会社の同僚の嫌味も忘れられるし、毎晩毎晩スマホにいい加減帰って来て結婚しなさいってメールしてくる母親の事も忘れられるんだよ。キャハハハハ
でもね、何時も何時もお薬飲んでるとだんだん効き目が落ちて来ちゃって、飲むお薬の量がドンドン増えて行っちゃう。
だからチマチマ1袋から2〜3錠ずつ抜き取るなんて面倒な事しないで、1袋丸々と荷抜きしたの。
そうしたら今日海産物加工会社に着いたら襟首掴まれて、反社グループのボスの前に連れて来られた。
へー反社グループのボスって女の人なんだ、って思ってたらその人から声を掛けられる。
「心音って言ったか? お前荷抜きしてるだろう。
1袋から2〜3錠ずつチマチマ抜き取っていたのを見逃してやってたら、今度は1袋丸ごとかい」
『……バレテーラ……』
「此れはもう見逃す訳にはいかない、此れからどうなるか分かっているね?」
私は返事を返す代わりに、ポケットに入れていたさっき荷抜きした袋の中から錠剤を取り出し、口に放り込みポリポリと噛む。
私の襟首を掴んでいた男が怒鳴る。
「あ! 此奴、今日も荷抜きしてやがった」
男はそう言いながら私のポケットから袋を取り出そうとした。
「駄目! 駄目! 此れ私のー!」
ポケットに手を突っ込む男に抵抗してたらボスから声が掛かる。
「冥土の土産に持たせてやれ」
その一言で男はポケットから手を抜いた。
「ありがと……」
礼を言ってからポケットから錠剤を数十錠取り出し口に放り込む。
ボリボリボリボリ
ボスから餞別に貰えた錠剤をポリポリボリボリしてキャハハハハハ状態の私は、キャハハハハハハ状態のまま足に重しを付けられ東京湾の沖合の真っ暗な海に放り込まれた……。