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短編(コメディ)

もんぺっ!

作者: 裏道昇
掲載日:2025/03/14

さらにもう一本。今度はコメディになります。

読んで頂けると嬉しいです。


 モンスターペアレント。通称モンペ。

 俺たち教師に理不尽な要求をしてくる奴らだ。


「はぁ……」


 この高校に赴任して五年。

 ついに学級を受け持つことになってしまった。


 今日はこれから三者面談の予定になっている。

 教師側の席に着くのは今日が初めてだった。


 困ったことに……俺の学級には問題児が多い。

 だが、それ以上に問題のある親が多いらしいのだ!


「はあぁ……」

 まだ誰もいない教室で、溜息を吐いてしまう。


 駄目だ駄目だ。

 早く切り替えないと――。


 そう考えていると、扉がノックされた。




 一人目、山本賢太郎。

 簡単に言うなら、学校一の不良である。


 刈り上げた頭に大きなガタイ。

 見上げる度に、まるで岩のようだと思う。


 あちこちに痣や傷があって、包帯を巻いていた。

 他校の生徒と問題を起こしたという噂は本当だったらしい。


 対して、一緒に入って来た母親は随分と小柄だった。

 ただ、眼鏡の向こうに見える小さな瞳は落ち着きなく動いている。


「じゃあ、まずは成績についてから……」

 二人が席に着いたことを確かめて、俺は予定通りに切り出した。


「あの、その前に一つ良いですか?」

「……はい」


 早速と出鼻を挫いてくる。

 仕方ないので続きを促した。


「この子、虐められてるみたいで……」

 母親が言った。


 ……嘘だろ?


「えっと、どうしてそう思うんですか?」

 いやいや、ひょっとしたら本当かも知れない。


「だって、この間も他校の生徒の親がやってきて……。

 この子にカツアゲされたなんて言うんですよ!」


「…………」


 ちらりと横を見る。床に置いた賢太郎の鞄から財布が見えた。

 明らかに趣味ではない高級ブランドだった。きっと奪った金で買ったのだろう。


「財布ごと奪われたって!

 なんて酷い言いがかりを言うの!?」


 ……財布ごとかぁ。

 賢太郎は我関せずと横を向いていた。


「さらには殴られたなんて!

 この子がそんなことをするはずがないんですよっ!」


「……ええ、そうですね」


 賢太郎の拳を見る。

 指の辺りに包帯をぐるぐると巻いていた……まるで何かを殴ったように。


「あの生徒はたまたま転んだに決まっています!

 その拍子に財布を落したんです! ちょうど拳を痛めていたこの子を……」


 状況証拠を全部無視するじゃん。

 で、どうせコイツが偶然落ちていた財布を拾ったんだろ?


「まぁ、結局は憶測に過ぎませんからね……」


 うんうんと頷く。他校と揉めるなんてとんでもない。

 どうにか丸く収めて、収拾をつけないと。


「先生、この子の味方になってあげてくれませんか?」

「……もちろん、いつでも俺は味方だからな」


 賢太郎に向けて、俺はにこっと営業スマイルを返す。

 内心では逃げる気マンマンである。


 下手したら加害者に加担することになる。

 ……教師を辞めたくはないんだよ。


 おっと。

 憶測に過ぎないんだった。




 二人目、天城有希。

 悪い印象はない。男女の区別なく同級生と仲良くしている姿を覚えている。


 外見は特別目を引くわけではない。

 ただ、人懐っこい笑顔が人気らしい。典型的な良い子と言える。


 一緒に入って来たのは父親だった。

 ……一目見て、頑固親父だと思った。いや、第一印象だけど。


 何ていうか、阿吽の像を両方とも混ぜて赤く塗った感じ。

 これから俺が怒られそう。思わず謝っちゃいそうだ。


「有希さんはバスケ部のマネージャーとして大変活躍しているみたいです。

 顧問の先生や部員も感謝していましたよ」

 

 まずは無難なところから切り出した。ただ、嘘ではない。

 先生から言われたことがあるし、クラスメイトの部員も言っていたことだ。

 

「先生、俺はそんな話をしに来たんじゃねぇよ」

「……そうですか」


 学校での様子を切って捨てられる。

 三者面談ってそんな話じゃないのか。何しに来たんだよ。


「こいつ、どうやら彼氏が出来たみたいでさぁ……」

「そうだったのか、気付かなかったな」


 話が見えてきた。要するに親バカだろう。一人娘っぽいからなぁ。

 父親の血走った眼から顔を背けるように、俺は有希を見る。


 有希は恥ずかしそうに俯いていた。気持ちは分かる。辛いよな。

 でも、分かってほしい。俺も辛い寄りだ。


「俺はソイツを一目見たいんだよ!」

「お父さん、やめてっ!」

「……あの、冷静に」


 頑固親父が立ち上がる。だから三者面談なんだって。

 有希が必死に止めようとしていた。


「先生! コイツは相手が誰かって訊いても答えないんです。

 どうか分かったら伝えてもらいたい!」


 頑固親父はその場でがばっと頭を下げる。

 引き攣った苦笑いを浮かべるのが、俺の精一杯だった。


「お父さん」

 有希が頑固親父の腕を引く。


「放せ、そもそもお前が素直に教えれば……」

 しかし、頑固親父は振りほどいた。


「もし教えたら、お父さんはどうするの?」

「ちゃんとした奴なら何もしねーよ」


 前提条件がある時点で駄目だと思う。

 ここは嘘でも言い切れよ。


「だけど、もしもソイツがちゃらちゃらした男だったら、俺はもう……!

 そんな奴がコイツに手を出したりしたら――使い物にならなくしてやる」


 使い物にならなくするって何?

 そして頑固親父はもう一度頭を下げた。


「お願いします! 先生!」

「…………」


 やだよ。

 犯罪の片棒を担ぎたくないよ。


「……分かりました。僕の方でも注意しておきましょう。

 学校としても不順異性交遊なんて許せませんからね」


 俺は当たり障りのない台詞を吐いた。

 頼まれたことには答えない。方便ばっかり上手くなるなぁ。


「ありがとうございます、先生!」


 頑固親父は気を良くして去っていった。有希が後を追う。

 あの人、本当にこの話をするためだけに来たんだな。




 三人目、桜井幸弘。

 バスケ部のエースで成績優秀。女子からの人気が高い男子だ。


 母親はいかにも教育ママという感じ。

 しかし、幸弘の方は心底嫌そうにしていた。


「幸弘くんは文武両道で、クラスでも中心人物として活躍して――」

「そんなことありません! この子、一年生の頃より成績が落ちたんです!」


 ? そんなに落ちただろうか? 手元の資料に目を向けた。

 確かに少し落ちていたが、教師としては『変化なし』と判断する範囲だ。


「……確かに少し落ちているようですが、十分に優秀と呼べるレベルですよ」

 正直にそう言った。幸弘がほっとした顔を浮かべる。


「そうは言いますが、明らかに勉強時間が減ったんです。

 それにコソコソと連絡していて……きっと彼女が出来たんです」


 母親はきっと、幸弘を睨んだ。

 ……まーた色恋沙汰か。さっきと同じパターンかな。


「先生、協力してくださいよ。相手はサキだかアキだか……あれ、ユキ? 

 そんな感じの名前でバスケ部の人だと思うんですが」


 やっぱり……ん?

 バスケ部の関係者で『ユキ』?


 ――さっき面談した天城有希の彼氏じゃねーか!


「申しわないのですが、僕も生徒の交友関係までは把握していないので……」

「……む」


 言いながら母親から視線を逸らす。

 そして、さりげなく幸弘の姿を改めて見た。


 背が高く、細長いシルエット。髪は茶色で整髪剤を使っている。

 右耳にはピアスの痕。椅子に浅く座り、大きく背もたれに寄りかかっていた。


 あー、駄目だ。

 ちゃらちゃらしてるわ。


 哀れに思った俺は母親に対して、幸弘を褒めちぎった。

 この手の親はやはり満更ではないらしく、最後は満足した様子で席を立つ。


「ありがとうございました! 先生!」

 上手いこと逃げ切れたらしい。母親が先に教室を出て行った。


「……桜井」

「はい?」


 続いて退室しようとした幸弘に、つい声を掛けてしまった。

 母親はすでに出て行ったらしい。俺は近づくと、囁くように続けた。


「えっと……気を付けろよ」

「? 何に?」

「……夜道とか」

「?」


 幸弘は最後まで首を傾げて教室を出て行った。

 意味が分からないかも知れないけど、気を付けた方が良いんだって。


 ――俺だって良く分からないけれど。

 ――使い物にならなくなるかも知れないんだ。




 職員室に戻ると、俺は自分の席に座って天を仰いだ。

 ……今日の親は強烈だった。


「あー、疲れたぁ……」

「お疲れ様です、どうしたんですか?」


 目を閉じて、こめかみを揉んでいると隣の倉田先生が声を掛けてくれた。

 羨ましいことに、今年はクラスを受け持っていない女性の先生だ。


「今日は三者面談で……モンペばかり来ちゃって大変だったんですよ」

 そう言って、俺は両腕をだらりと下げた。


「? あれ? 何か落としましたよ……写真?」


 倉田先生が俺の横で何かを拾う。

 すぐに手渡してくれる。


「あ! ありがとうございます! 失くしたら大変だった」

 お礼を言って写真を受け取る。


 肌身離さず持っていたのに、危ない危ない。

 いつの間にか、倉田先生が少し冷めた目で俺を見ていた。


「……その写真って」

「娘ですよっ! 可愛いでしょう!? 小学校に上がったばかりでしてね!

 本当はずっと一緒にいたいんですけどねぇ……代わりに写真を」


 倉田先生が少し距離を取った。

 俺がぐいと詰める。


「……今度、三者面談があるんですよ。楽しみで楽しみで。

 小学校での様子を一つ残らず聞き出してやるんです」


 最後に「良かったですね」と言った後、倉田先生が自分の席へと戻っていった。もう少し話したかったのに……。


「あんたも大概だよ……」

 倉田先生が何か言った気がしたが、聞き取れなかった。


読んで頂きありがとうございます!

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