第一話 魔族でもいいのか? その3
オリハルコンにヒヒイロカネ――世界の神話を原典としたアニメやゲームでお馴染みの超金属だが、どうやらブルーノワールという異世界にはソイツが本当に存在しているようだ。
とまあ、そんな超金属のひとつとして種別されるのであろう希少金属――支配下にあるマーテル王国にちなんでマーテルニウムと名付けられたモノの原料となる鉱石が、最近になって俺が今いるエフェポスの町の北北東にそびえるかつて大量の金鉱石が採掘されたことでシルバーラッシュが起きたとか起きなかったとか、とにかく有名な銀鉱山として名を馳せてはいたが、現在は銀鉱石の枯渇により寂れていたサカール鉱山の深奥で採掘されるようになる。
しかし、件のサカール鉱山にたどり着くためには、理由は数多あるが特に有名な話だとフェンリル狼を筆頭とした高レベルな魔獣の巣窟らしい難所のカンリスの樹海を経由しなくちゃいないようだ。
まあ、あくまで最短でたどり着くならの話ではあるが――。
それはともかく、俺はマリウスに誘われるかたちで今いるエフェポスの町の町外れに建つログハウス風の小さな家の前にやって来る。
「さ、酒臭いっ!」
「確かに酒臭いなぁ。ハスワールの旦那、相当、飲んでるな、こりゃ」
ム、ムムム、俺の鼻腔を突き刺さる酒の臭気が襲いかかる。
ハスワールとかいう人物は、もしかしてアル中か!? と、とにかく、こんなキツい酒の臭いは初めてだ。ログハウスの中に足を踏み入れるのに躊躇するんだよなぁ、俺は下戸なので……。
「うう、なんて酒臭さだ! コイツはたまらん!」
「ん、誰かね? 私はそんなに酒臭いのか……お、おおお、エリス!? そんな馬鹿な……うおおおッッ!」
「そ、それはいいから抱きつくな! 酒臭いィィ……オ、オエエっ!」
む、ログハウスの奥にいた小太りのオッサンと目が合った途端、そんなオッサンの両目から滝のような涙が流れ出す――と同時にオッサンが抱きついてくる! うう、トンでもない酒の臭いだ………い、意識が遠退きそうになる!
「ム、ムムム、よーく見るとエリスとは少し違うな。頭の角とか、外見年齢なんかも……って、魔族か!」
「うう、抱きつく前に気づけよ、オッサン!」
「す、済まない。ちと酔いが回ってしまっていうるようだ。し、しかし、そっくりなのは確かなのだ。私の先頃、亡くなった娘のエリスに……」
外見こそそっくりでも、流石に何もかもがそっくり――瓜二つとはいかないはずだ。
俺はなんだかんだと魔族だし、そんな魔族の証とばかりに、一対の角が頭の左右から生えているしね。
「お、おお、そうだ! ここで出会ったのも何かの縁とばかりに提案したい。君――私の養女にならないか!? うん、どうやら魔族のようだが、私は一向に気にしないぞぅ!」
「ム、ムムム、いきなりの提案だ。迷うなぁ……」
ちょ、その提案はいきなりすぎる! 自分で言うのもなんだが、俺は細かいことが苦手ぬ大雑把なところがあるけど、そればかりは迷う――いや、困ると言った方が正しい。