序章
「君を間近で見ると心の底から思うよ。娘のエリスが病死したのは嘘だったのでは――とね」
「そう? そんなに似ているのか?」
「ああ、瓜二つさ! あの娘の父親である私が言うんだ間違いない!」
「なるほどね。んじゃ、俺は奥さんを慰めればお役御免ってヤツでいいのかな?」
「む、むう、出来れば養女に迎え入れたいと思っている。例え君が魔族であっても――」
ありのままに言うと、一種の慰み物ってヤツなんだろう。
だが、勘違いしないでほしい。
性的だったり、またはストレス発散用に暴力を振るうためだったりする慰み物ってわけではない。
愛娘を亡くし、今にも後追い自殺をする可能性があるとある貴婦人のそんな亡くなった娘の代役という慰み物である。
さて、名乗っておこう。俺の名前はダムナティオメモリアエ。
よく覚えていないが、『お前はダムナティオメモリアエだ! お前は何もかもが消失した存在として、この世界を彷徨歩くことになるだろう』ーーなんて言われた覚えがあるだよなぁ。
そんな俺は今、豪商のハスワールの許に身を寄せている。
前述した通り、とある貴婦人ーー豪商ハスワールの妻であるエレーヌを慰めるための代役として。
しかし、間違った判断だと後々、後悔することにならないだろうか?
何せ、俺は女夢魔とか女淫魔なんて呼ばれることもあるサキュバスとして、ブルーノワールという呼ばれるこの世界に異世界転生してきたものだというのに――。
「エリスお嬢様! いえ、違うか……そ、それにしも瓜二つです。旦那様はどこから……」
「ええと、なんだかよく分かりませんけど、しっかりとエリスお嬢様の代役を務めてくださいね!」
とまあ、そんな感じでハスワールの召し使い達も驚きを隠せないくらい俺の容姿とハスワールの亡くなった娘のエリスの容姿が似ているようだ。
(どこまでエリスになりきれるは分からん。だが、贅沢三昧な生活を送れるのは確かだ。さて、しばしハスワール邸を拠点に見聞を広めてみますか!)
俺は胸中でつぶやきながら、養父となったハスワールに伴われるかたちで彼の豪奢な屋敷の中へと足を踏み入れる。
さて、このようなかたちで豪商ハスワールの許に来ることとなった経緯を語っておくべきだろう。