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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第二章 魔女の言い分(ルビー)
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1.魔女との再会

 出発の朝、私とユウマが城のロータリーに行くとむすっとしたパルと疲れた表情のシャルルが立っていた。


「おはよう。何かあったの?」


 ユウマが声をかけるとシャルルは肩をすくめた。


「おはよ。パルが車壊しちゃった。代わりの車もあるけど、またパルが壊しそうだから馬車で行くことになったよ。」


 パルを見ると拗ねているのかこちらを見ようともしなかった。


「壊すって・・・壁にでもぶつけたの?」


「いや、ちょっと走っただけでいきなりエンジンが火を吹いた。あんなの直らないよ。」


 ユウマとシャルルが話しているうちに馬車がやってきて荷物が積み込まれていく。パルは何も言わずに馬車に入っていった。


「俺たちも行こうか。馬車だから時間かかるしね。」


 シャルルはそう言うとさっさと御者台に登った。ユウマも馬車に乗り込むと、パルは不機嫌そうに座席にふんぞり返っていた。


 ほどなく馬車は動き出したが、馬車の中には会話の一つもなかった。シャルルがいれば気を使って話しかけていただろうが、あいにくユウマもパルも人に気を使うタイプではない。もちろん私も。だから途中のネコの町に着くまで、細かい休憩で立ち止まる以外私の睡眠を妨げるものはなかった。


 旅は順調に進み、夕方ごろには宿で休めることになった。シャルルが一人で走り回って忙しそうだが、ユウマとパルはほとんど眠っていたので元気そうだ。パルなんか馬車が止まった途端に外に出て町のどこかへ消えてしまった。護衛なんてする気はさらさらないらしい。


 一方シャルルは宿の部屋で倒れこんでいた。


「ユウマごめん・・・一時間だけ寝かせて・・・」


 そう言ったかと思うと数分でシャルルは寝息をたて始めた。ユウマはそれを見ると私にこう言った。


「お腹空いたね。シャルルは放っておいて二人で出かけようか。」


「ダメ」


 私はこう言ったつもりだが、ユウマにはニャーとしか聞こえないはずだ。でも否定されたことは伝わったらしかった。


「ダメかー。僕はずっと寝てたからさすがにもう眠くないんだよね。暇だなー。」


 ユウマはそう言うと空いているベッドに寝転がった。


「・・・巫女ってどんな人だろうね。一緒に来るのを拒まれたらどうするんだろう・・・」


 心配しなくても巫女は私が人間に戻ってなる予定なので、ユウマを拒むことは消してない。問題は師匠が私を人間に戻せなかった場合だが・・・まあなんとかなるだろう。たぶん。


 ユウマは何か考え事をしているようだったが、いつの間にか寝息をたてていた。よく寝る子だ。成長期かもしれない。私も部屋に薄い防御魔法をかけた後、ユウマにくっついて眠った。ユウマのそばにいると私は何時間でも眠れる。


 次の日は朝方ふらっとかえってきたパルが御者をつとめた。どうやら黙って馬車に乗るのに飽きたらしい。道がわからないというので私はパルの横に座って案内することにした。といっても私が馬車でこの辺りに来たのは400年ぐらい前だった気がするが。


「東の方に続く一番大きい道でいいんじゃないかなー。この辺ってもう人あんまり住んでない筈だし。」


「山に入っていくけどいいのか?」


「たぶんね」


 昨日は快晴でシャルルは少し日焼けしていたが、今日は曇りで程よい気温だった。だが夜には雨が降りそうなのでそれまでに師匠のところまで行きたいものだ。


「パル昨夜はなにしてたの?」


 パルは面倒くさそうに私を見た。私だってそれほど興味はないけど、会話ぐらいしていないと暇すぎる。


「知らない人と飲んでた。世間知らずの金持ちだと思われてタカられたよ。」


 パルは真顔で言ったが私は噴き出した。世間知らず? パルが?


「それ普通に払ったの?」


「面白かったから払ったよ。そしたら一晩中連れまわされた。人間って何年たっても似たようなことしてるんだね。」


 パルは私を見ずに淡々と話した。たぶん楽しかったんだろうなと思う。これが分かるのは付き合いの長さだ。


「・・・そういえばルビーは車の仕組みってわかる? あれ乗りこなせたら面白そうなんだけど。」


「全くわかんにゃい。私はアレ狭いから好きじゃにゃいな。」


「そっか。まだ王都付近の金持ちにしか広まってないみたいだね。僕、車屋になろうかなー。でも長距離を早く走らせるには道の整備から始めないといけなさそうだし、ちょっと大変かなー。」


 私はパルの話を半分聞き流しながら、一緒に過ごした過去の月日を思った。あれから随分と時は経ち、私は一回死んだしパルも歳を取った。以前のパルならやりたいと思ったらすぐに行動に移していたはずだ。


「ねえパル。帰りはもう瞬間移動で帰ろっか? またこの道戻るのしんどくにゃい?」


「そうだね。後ろをついて来てる奴らには気の毒だけど、面倒くさいね。」


 王都からずっと馬車が二台後ろをついてきている。ネコの町にくるまでは多少離れていたが、道の周りに人家が減ってからは開き直ったのかすぐ後ろを走るようになった。直接話しかけてくる者はいないが、人から見ればどう考えても同行者だと思うだろう。


 街道沿いの小さな村で昼食をとり、しばらく走った後パルが唐突に言った。


「飽きた。」


 その途端、馬が猛スピードで走り出した。魔法で馬を興奮させながら治癒魔法をかけているようだ。馬車全体にも防御魔法がかけられたので大した揺れはないが、馬車とは思えないスピードだ。ユウマのお供で乗った自動車よりも早い。景色が飛ぶように流れていく。


「後ろの二人気付いてるかな。」


「あの二人は昼食べてからすぐ寝てるよ。面倒だし寝かせとこう。」


 登り道も馬は興奮状態で駆け抜けたので、私は思い出に浸る暇もなかった。確か以前この道を通った時は、私以外馬車から降りてゆっくりゆっくり登ったものだ。私って結構大事にされてるなと嬉しかった瞬間でもあった。たぶん最初の夫は紳士だったのだろう、妻という役割を履き違えていただけで。


 あっという間に道は下り坂になり、遠くに小さな村が見えてきた。


「あ、祠やっぱり潰れてるね。」


 パルの言葉に目を凝らすと、確かに潰れたがれきのような物が見えた。あれじゃ中に飛べない筈だ。


「そうだね・・・あと、にゃんか見られてる気がするね。」


「これが師匠ってやつ?」


「多分ね。私も会うのは・・・400年ぶりぐらいか。よく考えたら数年しか一緒にいにゃかったんだなー。」


「どんな人なの?」


「さあ?」


 師匠は自分のことを語らなかったし、私も別に聞かなかった。たぶんお互いそれどころじゃなかったんだと思う。私はまだ何も知らなかったし、師匠は死にかけだった。


 パルは徐々にスピードを落とし村に入った。数人の村人がこちらを見たが特に声をかけてくるわけでも近寄ってくる訳でもなかった。おかしな村だ。


 馬車は祠があった場所の前で止まった。横にあったはずの屋敷は今はすっかり小さな家に建て替えられている。私たちが馬車を降りると同時に家のドアが開いて、銀髪の美しい女が出てきた。


「師匠?ですか? 随分若返りましたね。」


「あんたに言われたくないよ。なんで猫なんだい?」


 女は呆れたように戸口にもたれかかった。なんだかいい女風だ。昔はいかにも死にそうなババアだったのにな。実際すぐ死んだし。


「まあいいじゃにゃいですか。話があるんです。お茶でも淹れてください。」


 私がそう言って近づくと師匠はため息をついて家の中に入っていった。馬車の中の二人は説明が面倒なのでまだ眠っていてもらうことにした。


「お邪魔します。」


 パルが礼儀正しく戸口のところで挨拶した。


「あ、師匠。こちらパル。私の元・二番目の夫で悪魔。」


「はいはい。マリア・ソドムだ。早く座って。」


 師匠は挨拶を聞き流しテーブルにお茶と山もりのクッキーを置いた。こんな普通のこともできる人だったのか。


「・・・師匠の名前初めて聞きました。私も今ルビー・ソドムって名乗ってるんですよ。そういえば師匠もソドム家に嫁いだことあったんでしたっけ?」


「どうでもいいよ。何しに来たんだい?」


 師匠は座ってお茶を啜りながら言った。世間話は不可らしい。


「私を猫から人間に戻してください。」


「自分で出来るだろう?」


「にゃんかできないんですよ。人間から猫へはできたんですけどね。」


「・・・たぶん猫になったことで使える魔力が減ったんですよ。」


 ぼそっとパルが補足してくれた。


「可愛いからずっとそのままでいたら? 猫の方が人間より可愛いじゃないか。」


「猫のままじゃ人間と結婚できないでしょう!?」 


 私がむくれて言うと師匠は苦笑した。


「若いねぇ・・・馬車に乗ってる男のどっちかかい?」


「そうですよ。だから早く戻してください。」


「急かされるとやる気がなくなるなー。」


 師匠は明後日の方を向いてクッキーを齧りだした。この魔女め。


「・・・わかりました、要望をどうぞ。何が欲しいんですか!?」


 私はやけくそで叫んだ。元々すんなりいう事を聞いてくれるとは思ってなかった。


「そうだねぇ・・・私の恋人でも探してもらおうかねぇ・・・」


「キモッ」


 うっかりそう言うと師匠は舌打ちして立ち上がった。


「あー、嘘です!冗談です。恋人ですか? パルとかどうですか!?」


「僕を巻き込まないで・・・」


 パルは嫌そうな顔をして椅子を後ろに引いた。このままじゃ二人共に逃げられる。


「っていうか、師匠だって私に紹介された男をすんなり好きににゃったりしないでしょ? もうちょっと実現可能な案をお願いします。」 


「実現可能だったら自分で実現してるよ。」


 師匠は椅子に座りなおして素っ気なく言った。我々クラスの悪魔になるとできないことなんてほぼなくなるから仕方ないんだけど。


「・・・意地悪しないでください。私だって結構時間かけてここまできたんですよ。300年以上かけてやっとまともに結ばれそうなんです。」


「それは楽しそうだねぇ。」


 師匠は心底感心したように言った。


「その300年を話してくれたらお前を人間に戻してやるよ。」



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