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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
最終章

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8.やっぱりヒロインは幸せに暮らしました。(ミカ)

 月日は経ち、朝晩はめっきり冷え込むようになった。冬が始まろうとしている。


 おじいさんは膝が痛むらしく農園にくる頻度が減ってきた。代わりに私が訪ねて行って食事の作り置きなどをしている。近所の人に私はどうやら孫娘だと思われているらしい。もう親戚みたいなものだと思っているので特に否定はしていない。


 一時期荒れていた町も今ではすっかり落ち着き、元通りの漁が行われている。魚の値段が上がらなくて本当によかった。放火の犯人はまだ見つかっていないらしいが、焼けた場所はすでに新しい建物が建てられ始めた。


 私と言えば特にスライムに会う事もなくごく普通に暮らしている。一度神にならないかというおかしな勧誘を受けたが、断ったらそれっきりになった。もっとしつこくされるかと思っていたので拍子抜けだ。


 でもいきなり神はないよね・・・聖女を通り越して神はない。絶対ない。これはあれだ”世界の半分をくれてやる”と一緒だ。選んだだけでゲームオーバーになるやつに違いない。ということはあれがラスボスだったのか・・・変な宗教勧誘みたいだったけど。


 私は今日も今日とてトマトと魚を煮込んでいる。なんせトマトは大量にとれる。夏の間に保存食として大量のトマトソースを瓶詰めしたので、きっと冬の間もトマト味の魚を食べるだろう。もう飽きるを通り越して、ご飯とはトマトだと思いつつあるぐらいだ。私たちの生活はトマトとオリーブで作られている。


 秋にオリーブを収穫し町に売りに行ったときは、あちこちのお店が買いとってくれた。


「じいさんが農園やめるっていうから、オリーブはもう他所から買わなきゃって思ってたんだ。あんたらが継いでくれて嬉しいよ。」


 そうニコニコと言われた時は泣きそうになった。この町に少しでも寄与できるなら本当に嬉しい。ここはとても素敵な町だと思う。


 昼食ができたので鍋を火から遠ざけて、私は台所の小さな椅子に座った。最近長時間立っているとしんどい。寝込む程ではないがあまり体調は良くない。なんとなく下腹を撫でながら考える。


 ルビーもパルもあの魔女もあれきり姿を見せないので、もう向こうの国のことはさっぱりわからなくなった。あの魔女はパルが亡くなったと言っていたが、それすら本当かどうかもわからない。


 一度ひとりで向こうの国までテレポーテーションしようと試みたことがあった。だが私が移動できるのは5m程度だということが発覚した。5mじゃ歩いた方が早い。残念ながら・・・本当に認めたくはないのだけれど、私があの国の土を踏むことはもうないのだろう。


 家族を失ったという衝撃はまだ鈍い痛みとして私の胸にあるが、もはや夜中に悪夢で飛び起きるほどではなくなった。薄情と言われても私には私の今の生活がある。


 前世の記憶を持って生まれたことを、私はずっと特別なことだと思っていた。王女という特別な立場に生まれたことも、特別な人たちに周りを囲まれていたことも、全てに理由があるはずだと思い込んでいた。でもたぶん、理由はなかった。


 いや、忘れたい黒歴史ばっかり思い出す理由は今でも知りたいけどね。魔法が使えるようになった理由もよくわからないし・・・そう思って過ごしていたのに、最近新たな可能性を発見してしまった。


 これは序章で、私の子どもが勇者になると言う可能性だ。


 私の恋愛うんぬんはあまり関係がなくて、国を追われた哀れな母の元に生まれた子供が国を奪い返す為に旅に出るというストーリーだ。すごく王道っぽい。本格RPGとしていけると思う。


 さて、そろそろパンを焼こう。そうすればタイチが帰ってきた時に一緒に食べられる。


 フライパンに油をひいてタネを流す。この平べったい塩とオリーブのパンも好きだけど、このあいだ町で買ったふわふわなパンも美味しかったな・・・イースト菌だか酵母だかを分けてもらえたら家でも作れそうだ。でもそうなるとオーブンがいるかな、ピザ窯みたいなやつ欲しいな。


 考えているとチーズが食べたくなって、出来上がったパンの上にチーズを載せてみた。手のひらをかざすとチーズがとろりと溶ける。いやいや、焦げ目が欲しいな。カリっとしたチーズって最高だよね。


 唸りながらパンに手をかざしているとタイチが帰ってきた。冬が近いので農園の仕事は少なく、最近は漁の手伝いにも行っている。今日もお土産だと言って魚を持って帰ってきてくれた。町まで行かなくていいので助かる。


「おかえりタイチ。今日はチーズのっけてみたんだ。」


 そう言うとタイチは美味しそうだと笑ってご飯を食べ始めた。チーズに焦げ目はつかなかったが、私のささやかな魔法と前世の記憶がこんな風に役に立っている。あ、手から水が出るのは目にゴミが入った時にも役に立つ。でも、それだけ。


 テーブルの下でタイチから見えないように下腹をさする。タイチにはまだ言っていない。見た目はちょっと太った?ぐらいの変化しかないが、私は中に人がいると確信している。心当たりもある。でもなんとなく恥ずかしくてまだ言えてない。だってきっと、タイチは大喜びしてくれる。


 笑顔でタイチと食卓を囲む日々はとても幸せだ。それなのに時折、過去の悲鳴が聞こえる。物言わぬ父が、母が、弟が、私を取り囲む。


 でもさあ、私だってしんどめの人生から生まれ変わって大逆転したんだからさあ、みんなも生まれ変わればいいと思うの。生きてる間は幸せになる努力をしなきゃいけないけど、死んじゃったんならまた生まれたらいいと思うよ。少なくとも私は異世界まで来ちゃったし、それでなんかよくわかんなけど幸せになったし。死んでから泣いたって意味ないよ。死んだことを嘆いても意味ないよ。


 物言わぬ死者はただ暗がりから私を見ている。彼らは私の幸せの犠牲になったのか、私を恨んでいるのかもしれない。だけど。


 これから生まれる全ての魂よ、笑え。そしてどうか、よい人生を。


 私はこれからも自分をヒロインだと思って生きる。


 ”ヒロインは幸せに暮らしました。”

 

 そんなエンディングを迎える素敵な物語を、生きる。








 

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