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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
最終章

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1.打ち上げ(パル)

 王城からルビーを家に連れて帰るとなぜか師匠が待っていた。


「おかえり、ルビー。」


「・・・何やってるんですか師匠。」


「久しぶりに血しぶきを見たら眠れなくなってね。」


 師匠はそう言いながら酒の入ったコップを掲げてにやりと笑った。人のやつ勝手に飲んでるな・・・別にいいけど。


「私も飲みたい! なんかお腹空いてきちゃった。」


 座ろうとするルビーを引き留めて適当な服を渡す。着替えて出てきたルビーは明らかに不満そうだった。


「何コレ。服なの? 下着なの?」


 ルビーが着ているのはこの家に置きっぱなしだったベージュのTシャツとゆるいベージュのパンツだ。この家は最後尾老人が一人で住んでいたそうだから寝巻だったのかもしれない。


「血生臭いよりいいでしょ。」


「これも別にいい匂いしないけど。」


 顔を顰めながらルビーは席につき遠慮なく飲み食いをし始めた。期せずして三人の悪魔の奇妙な飲み会が始まってしまった。


「パル、他に食べるものないの?」


「僕は料理しないから長期保存できるつまみしかないよ。文句あるなら自分で買ってきて。」


「めんどくさい。」


「じゃあ文句言うな。」


 僕とルビーが言いあう横で師匠はにやにやしながらお酒を飲んでいる。


「・・・楽しそうですね、師匠。」


「まあね。お祭りって感じだったからね。」


 処刑がお祭りに見えるのか、頭どうかしてんなこの人。まあ悪魔だからしかたないか。


「それで? 最愛の男を手にかけた気分はどうだい、ルビー。」


 師匠のにやにやした言葉にルビーは唇を尖らせた。


「最悪に決まってるでしょ。」


「じゃあ殺さなきゃよかったじゃないか。」


「うるさい。それ以上喋ったら殺す。」


 おお怖いと言って師匠は黙った。だがにやにやは止めないので別に反省はしてないらしい。


「・・・なんの集まりなの、これ。」


 僕がぼやくと師匠は笑った。


「処刑の打ち上げだろ?」


「聞いたことないですね。あとなんで僕の家でやってるんです?」


「ここにいたら取り合えずパルは帰ってくるだろうと思ってね。誰かと喋りたかったんだよ。」


 師匠は珍しくくすくす笑っていて本当に楽しそうだ。数時間前、僕と師匠は王都で群衆の中から一緒にユウマの首が落ちるのを見た。僕は群衆の怒声にちょっとしんどくなったが、師匠は逆に気分が高揚したようだ。さすが悪魔。


「そうそうルビー、あんた処刑にあのドレスはないよ。平民が王族を打ち取るって場面なのに、貴族みたいな格好してちゃダメじゃないか。」


「どんな服着ようが私の勝手でしょ。」


「あんた私のフリしてたってわかってんのかい?」


「どーでもいいってば。」


 楽しそうな師匠と対照的にルビーは機嫌が悪い。うーん、二人とも帰ってくれないかな。言っても帰らないだろうな、どうせ。


「ところでパル、この家って何なの? 買い取ったの?」


「いや、空き家だったから勝手に住んでる。明るくなったらよく見えると思うけど、この家の下って崖なんだ。しかも海から見ると大きなヒビがはいってるんだって。いつ崩れてもおかしくないから誰も住もうとしないらしいよ。」


「へー、いい家っぽいのにね。」


「いい家だよ。部屋もいくつかあるからルビーも住むといいよ。」


 ルビーは一瞬固まった後、無言で頷いた。


「なんだいあんたたち、ヨリ戻すのかい?」


「まさか。」


 僕は短く答えると肩をすくめた。本当は師匠だってわかっている筈だ。悪魔は死にかけの悪魔には少し優しい。師匠が僕に会いに来たのはそれが理由だろう、ルビーは今それどころじゃなさそうだけど。


「ふーん・・・私もこの家に住もうかな。」


「やめてください。」


 師匠の思い付きをすぐさま却下する。この三人で暮らすなんて冗談じゃない。


「冷たいねぇ・・・。そういえば、パルはこの場所をどうやって知ったんだい?」


 師匠の言葉にすっかり忘れていた男の存在を思い出した。


「ああ、師匠ヤスールって男覚えてます?」


「誰だい?」


「平等主義のメンバーでなんかやって右手を切り落とされた男です。」


「ああ・・・なんかいたね。割と最近の話だろ?」


「たぶん。そいつがここの出身だったみたいです。居酒屋で偶然会って、砂漠の南に国があるって言うから来てみたんですよ。」


「へえ・・・名前は覚えてないけど顔は覚えてるよ。よく喋る男だった。あまりにも喋るから舌を切り落としてやろうかと思ったよ。この町にいるのかい?」


「最後に会ったのが三か月前なんでどうでしょうね・・・ここは国の端っこで、隣町の方が栄えてるからどんどん人がそっちに流れてるみたいですよ。普通、町と町は陸で移動できるのにこの町だけは船じゃないと来られないとかで。」


「寂れつつある町か。いいね、住みはしないけど遊びに来るよ。」


「・・・ご自由に。」


 僕と師匠の会話中、ルビーはずっとテーブルを見ていた。目を開けたまま寝ているんだろうか。


「・・・ルビー、眠いならベッドで寝れば?」


「考えてたの、私ミカに殴られた方がいいんじゃないかな。」


 唐突に面倒なことを言い始めたな。


「・・・殴られたってちょっと痛いだけじゃない。」


「うん、でも、ミカは私を殴る権利があると思う。」


「殴るどころか殺す権利があると僕は思うよ。」


「・・・・・・まあ、それも仕方ないね。」


 ルビーは神妙な顔で言ったが、それって次のユマが生まれてくるまでの時間潰しじゃないの? 言わないけど。


「・・・ミカとタイチならこの町で地に足つけて暮らし始めたよ。まああっちがどうなったかは気になってるだろうし、顛末を教えて殴られてもいいんじゃない? 明日案内するよ。」


 ルビーは「わかった」とだけ呟くとふらふらと部屋を出て行った。ルビーとはそれなりに長い付き合いだが、さすがにここまでおかしい様子は見たことがない。


「師匠は最初のユマが死んだときのルビーって覚えてます? っていうか師匠生きてました?」


 ルビーが最初に惚れこんだ女は、結局ルビーを愛さず監禁され衰弱して死んでしまったと聞いている。僕が生まれるずっと前の話だ。


「生きてたけど・・・あまり付き合いがなかったからよく知らないよ。」


 師匠は真顔で酒をどんどん流し込んでいる。さっきルビーが殴る権利とか言ってた時はあんなにニヤニヤしてたのに。


「・・・まあいっか。」


 僕も呟いて取り合えず酒を飲むことにした。人間だろうが悪魔だろうがいつかは死ぬ。僕がルビーの二回目の死を看取ることになっても・・・それは嫌だな。


「師匠、僕もうすぐ死ぬんですよ。」


「うん」


「師匠が看取ってくれません?」


 師匠は嫌そうに顔を顰めたが、渋々と言った調子で一応返事してくれた。


「・・・縁があったらね。」


 僕はこの言葉を悪魔の割には優しいと評価するべきだろうか。うーん、もっと優しい悪魔とかいないのかな。っていうかこの際人間でもいい、優しくて僕が死ぬ間際に泣いてくれるような子が欲しい。探そうかな。


「散々恨んで殺して逆恨みして嘲笑ってきたんだ、最期だからって優しくされようなんて思うなよ。」


 僕の心を見透かしたように師匠は言った。とても正しい言葉だと思う、でも死ぬ間際に正しい言葉なんて聞きたくない。


「・・・この家で、一番いいベッドはどうせルビーが寝てると思うので、師匠はもう寝るとこないですよ。」


「朝まで飲むかい?」


 にやっと笑う師匠の提案を丁重にお断りして僕はダイニングを出た。ルビーは案の定ふだん僕が眠っている一番いいベッドで眠っていた。仕方なく小さな部屋を開けて小さなベッドに寝転がる。子ども部屋か使用人部屋かはわからないが、とりあえず昔は金持ちが住んでいた家の様だ。


 暗闇の中で小さな声で悪魔の歌を口ずさんだ。悪魔が死んだときに歌う弔い歌だ。次は誰が、誰の為に歌うんだろう。


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