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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第十一章 ヒロインは幸せに暮らしました(ミカ)

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3.奈落へ

「さて、彼氏さん寝てるけど始めていいのかな。」


 パルの言葉に私は肩をすくめた。


「うん、起こすのもかわいそうだしいいよ。農園の朝は早いから。」


 今日も明日も、早起きして仕事する。たまにサボって今日みたいに昼寝したりもする。きっとこれからもそんな毎日は続いて行くのだから。


「じゃあ順番に話すね。まず謎の来訪者が城に攻めてきて王様が大怪我を負った。」


 なぜか話し出したのはルビーだった。少し違和感を感じたが私は黙って酒を飲み続けることにした。素面でなんかいられない、すでに鼓動が早い。


「王様を守ろうとした家来も何人か怪我したり死んだりしてー、ミカとタイチが逃げたのはちょうどその最中ぐらいだったと思う。」


 パルは無表情にワインを自分のコップに注ぎ足している。


「その後いったん襲撃者は逃げて、城はパニック状態のまま夜になった。普段からお城にいる人たちはなんとかして王様を守ろうとしたけど、平等主義者が王族なんて守らなくていいとか言いだした。次の日、王様はもう治らないって聞いてユウマがドーナー家から王城へ戻った。王妃はずっと騒ぎの間も閉じこもってた。ミカは逃げたとか連れ去られたとか言われてたな。」


 ルビーは話しながら自分のコップにお酒を追加した。


「それでー・・・次の襲撃がきたら怖いって人達が少しずつ城から逃げ始めた。止めを刺したのが王妃が死んだときかな。王様は結局怪我が治らず死んで、なぜか犯人はユウマだって思いこんだ王妃がユウマを殺そうと直接乗り込んできて返り討ちにあった。でも王妃は死ぬ前に大声で『ここにいる奴らは全員死ぬんだ!』ってずっと叫んでて、それを聞いた人達がまた城からいなくなった。」


 自分の鼓動がやたら大きく聞こえる。まるで耳に心臓があるみたいだ。


「それからユウマは一人ぼっちになった。最後は平等主義のリーダーに広場で首を落とされて死んだ。それだけ。」


「・・・それだけ?」


 自分の声がやけに遠くから聞こえた。


「ねえルビー、()()()()()()()()()()()()?」


 私の手も声も震えているが、ルビーは平然としている。


「ユウマのそばにずっといたよ?」


 私は眩暈と共に立ち上がった。椅子も倒れてコップも転がったが気にしてられなかった。


「あなたが・・・全部やったの?」


 ルビーはなぜか苦笑した。


「えぇ~? バレんの早すぎない?」


 その言葉に血が沸騰したような気がした。ルビーはまだ何かを喋っているがまったく耳に入らない。ルビーの胸倉を掴んで地面に引き摺り下ろす。夢中でこぶしを叩きつけていると、私の叫び声で起きたらしいタイチが私を羽交い絞めにしてとめた。


「やめろミカ! 何やってんだよ!」


「だって、この女が! 私の! 家族を・・・」


 口にするとどっと涙が溢れてきた。この女が殺した。私の家族は殺された。もういない。


 悲鳴を上げてタイチを振りほどこうとしたが、タイチの腕は離れなかった。そういえば近衛だもんなと、頭の片隅で思った。


「なんで殺したの! ユウマが好きだったんじゃないの!? どうして助けてくれなかったの!」


「好きだよ。ミカなんかが思うより、ずっと深く、私はユウマを愛してる。」


 切れた唇を歪ませてルビーは笑った。その顔に目が眩むほどの怒りがわいた。


「離せぇぇええええ!」


 これまで出したことのないような大声と共に私は再びルビーに飛びかかった。なぜかルビーは抵抗せず簡単に地面に倒れた。それを体重をかけて何度も蹴った。死ねばいいと本気で思った。なのに私の体はあっという間に体力を使い果たし、座り込んでしまった。


 ルビーが小さく咳をして目を開く。全然死ぬ気配はない。


「・・・ねえミカ、どうやったら人から愛されるの? 私ミカが羨ましい。」


 力を振り絞ってルビーの顔面を殴ると、ルビーが鼻を押さえた。鼻血が出たらしく起き上がって顔を顰めている。私の攻撃なんて全然きいてなかったらしい。


「愛されなかったから殺したの?」


「うーん・・・端的に言えば、そうかな。」


 今度は平手でルビーの顔を叩く。なかなかいい音がした。


「あなたが愛されない理由はね、愛と執着の区別がついてないからよ。人間と玩具の区別がつかないんでしょ。」


 話しながらまた涙が溢れてきた。けれどもうなぜ泣いているのか自分でもわからない。


「愛されたいなら愛されるような自分になりなさいよ。相手を変えようとしてんじゃないわよ!」


「・・・やったもん。猫にまでなったけど、ダメだったし。」


 拗ねたような言うルビーを見て力が抜けた。脳裏に銀色の猫が浮かぶ。あの猫は、可愛かった。そうか、愛されようとはしてたのか。


 なんだか笑いたい気分になったけど全く笑えなかった。代わりに急激な眠気が襲ってきた。頭がぐらりと揺れて倒れそうになったが、すぐに大きな腕が支えてくれた。顔を見なくてもタイチだとわかる。心配そうなタイチが何か言った気がしたが、私にはもう聞き取れなかった。


 夜中に目が覚めると、誰かの話し声がした。いつの間にか私は家のベッドに寝かされていた。起き上がろうとしたけれど話している内の一人はタイチだという事に気がついて起きるのをやめた。タイチがいるならいい。それ以外ならもうどうなったっていい。そう思ってまた目を閉じた。


 次に目が覚めた時、タイチは横で眠っていた。外はすっかり明るくていつもの起きる時間はとっくに過ぎていた。


 トントン


 ノックの音に慌ててベッドを出る。このノックの音で目が覚めたんだった。状況から考えると、この時間にこの家の扉を叩くのはあの人しかいない。


 扉をあけるとおじいさんが心配そうな顔で立っていた。


「どうしたんだ。具合でも悪いのか?」


 慌てて首を振ったが、おじいさんの視線を感じて手で目元を隠した。たぶん盛大に腫れてるんだろうな、目が開けずらいから。


「・・・喧嘩でもしたのか?」


「いえ、あの・・・家族の訃報を聞きまして、少し取り乱してしまいまして・・・私が。」


 目を伏せたままぎこちなく笑顔を作る。顔を上げられないのでおじいさんがどんな表情をしているかはわからない。


「そうか。今日の仕事は俺がやっとくから、ゆっくりしろ。」


 おじいさんはぶらっきぼうに言うと去っていった。慌ててお礼を言おうとしたがなぜか声が出ず、黙ったまま背中を見送ってしまった。ああ、駄目だ。やっぱり駄目だ。


 玄関口でしゃがみこんで泣いていると起きてきたタイチが私の肩に手を置いた。振り返って暖かな腕の中に逃げ込む。


 最悪の現実に追いつかれてしまった。奈落が、きてしまった。




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