3.殴りに行こうか
さて、やると決めたら手筈を整えなくてはいけない。王都で一番人が集まれる場所はどこだろう。広場か、王城前のロータリーか。広場の方が気軽に見にこれていいかな。やぐらを組んで遠くからでも首が落ちるのが見えるようにしよう。
王都の下町あたりに瞬間移動する。まだ昼間なので店はまったく開いてないし人もまばらだ。別にもう私が魔女であることを隠す必要もないから気配は消していない。いつか私が王妃になった時魔女だとばれないようにしてきたけど、もう気にする必要はなくなった。
辺りを見渡すといきなり現れた私に目を丸くしている男がいたので聞いてみることにした。
「ねえ、ここら辺に平等主義の連中がいるんでしょ? リーダーはどこ?」
「・・・何言ってるんですか、ボス。どうしたんですか?」
「え、私がボス?」
「違うんですか? 確かにさっきとちょっと感じが違いますけど・・・」
男がじろじろと私を見た。酔ってはいないようだ。ということは。
「・・・平等主義のボスって、銀髪で赤目の女なんだ?」
男はどう答えていいのかわからないようで視線をさ迷わせている。
「なるほどねー。ありがと。」
唇の端を捻り上げて私はすぐ師匠の元へ飛んだ。あの魔女め!
「師匠! 私、師匠が平等主義のボスだなんて聞いてないですけど!」
「はぁ? ・・・取り合えず畑からどけ。」
師匠は家の横で畑仕事をしていたらしく、私が移動したのはちょうど畑の上だった。足の下に何かの葉っぱがあったので、私はさらに強くその葉っぱを踏みにじった。その仕草を見た師匠の目が吊り上がる。
「どけって言ってんだろ。」
「何で教えてくれなかったんですか。」
「私はもうほとんどあの組織に関わってないよ。そんな事をあんたに親切に教えてやる義理もない。」
久しぶりに頭にきた。最近ずっとくよくよしていたのでこの感覚は久しぶりだ。なんで弟子にちょっとぐらい優しくしない?
「なるほど・・・師匠と殺し合いをするのは初めてですね。」
「そうだな。今回は前みたいに歳の差がないから、思う存分やれるな。」
「私の方が50歳若いですけどね。」
「どうでもいいわ。」
そう言うと師匠は手から風を出して私のいた場所を薙ぎ払った。後ろに飛びのいて避けると、師匠は畑の葉っぱを踏みながらこちらに向かってくる。自分が踏むなって言った癖に。
私は拳に火を纏わせると師匠に殴りかかった。避けられて飛んで行った火の玉が地面を黒くする。すぐ近くには山があるから、全部燃えたらさぞかし面白いだろう。
「もう火が怖いのはなおったのかい?」
師匠はせせら笑った。
「年寄は昔話が好きですねっ!」
もう一度殴りかかったがまた避けられて、風で足を切られた。痛い。怪我はすぐ治せるが、普通に痛い。
「・・・師匠は悪魔と戦ったことあります?」
「本気でやったことはない。」
「奇遇ですね、私もです。」
痛みで少し冷静になって手を下す。だが隙があればいつでも殴りかかるつもりだ。
「なんで平等主義のリーダーなんかやってるんですか? いつから?」
「あんたが生まれる前からだよ。成り行きでね。」
師匠は肩をすくめたが、視線は私から離さない。あっちはあっちでまだ私を殴ることを諦めていない。どこからか何かが焦げた匂いがした。
「ちょっと力を借りたいんですけど。」
「これが人にものを頼む態度かい?」
「まあその前にまず一発殴らせてください。」
「嫌だね。」
「ルビー、ドレスが焦げてるよ。」
パルから急に声をかけられて私は悲鳴をあげて自分の服を見た。
「えぇーー!穴開いてるぅ! これ気に入ってたのに!」
「火なんか使うからだろ。」
師匠が馬鹿にした顔で言う。その顔、気に入らない。
「師匠が悪いんでしょう!」
そういいながら私は水を手から出して師匠に斬りかかった。けれど師匠は簡単に風の力で水を曲げてしまった。気に食わない。まったくもって気に食わない。
「諦めたら? ルビーの方が弱いと思うよ?」
「パルは黙ってて!」
人が喧嘩してるのを察して飛んできたのかこの野次馬め。黙って見てればいいものを。
「そうだよ、やめときなルビー。あんたが私に敵うはずないだろ?」
「うるさいっ!」
師匠の挑発に易々とのって私はまた師匠に斬りかかった。だが簡単に避けられてしまった。
「ちょろちょろ動かないでもらえますか、師匠!」
「あんたが私を殴るなんて何度生まれ変わっても無理だよ、馬鹿弟子。」
「そういや師匠はなんでルビーなんか弟子にしたんです? うるさいだけじゃないですか?」
「成り行きだねぇ・・・」
「二人とも黙れっ!」
風を使って地面を蹴り師匠に掴み掛かろうとしたが、避けられてつんのめりそうになった。その背後から後頭部を鈍器のようなもので殴られ一瞬意識が飛んで地面に倒れてしまった。
「・・・ところで何で喧嘩してるんです?」
「私が平等主義のリーダーだってのが気に食わないらしいよ。」
「ああ、やっぱり師匠がリーダーだったんですね。」
「成り行きでね。」
「師匠って成り行き多いですね。」
「なんでかねぇ・・・」
師匠とパルののんびりした会話を朦朧とした意識で聞いた。っていうかパルは知ってたのか。なんで私に教えない?
のろのろと起き上がると、ドレスには泥水がついていた。見下ろして泣きたくなる。
「ルビー、直してあげるから針と糸と布買っておいで。言っとくけど全部最高級のやつね。安いのは針の滑りが悪くて嫌いなんだ。」
「・・・うん。」
迷ったけれど頷いて立ち上がる。パルが駆け寄って手を貸してくれた。こういうとこ、パルは紳士だ。
「代わりの服貸してやるよ、おいで。」
師匠はそう言って家の中に入っていった。パルに手をひかれて続いて家の中に入る。貧乏くさい服に着替えてしょんぼりしていると、師匠は温かいお茶を出してくれた。気が利くじゃないか、ついでに一発殴らせろ。
「それで? 力貸して欲しいってなんだい?」
いつの間にか師匠もパルもお茶を飲んでいる。悪魔が三人もいる割にはずいぶんと健康的だ。
私は重々しく言った。
「王都の広場にやぐらを組んで人を集めて欲しい。そこでユウマを最後の王族として処刑する。」
「ついに殺しちゃうんだ?」
パルが軽い調子で言った。
「あー、それなら人が集まりそうだね。貴族はどうする?」
「私は平等主義に興味ないから好きにして。」
「別に私もそんなに興味ある訳じゃないんだけど・・・」
「貴族制度をなくしたって貧乏人が金持ちになる訳じゃないのに。」
「パルは黙ってて。」
パルはなんだかんだ言ったって貴族の生まれだ。貴族贔屓になるのは仕方ないだろうけど。
「とにかく私はユウマを殺せたらそれでいいから。」
「決断した理由を聞いても?」
「・・・今回は失敗だから。ユウマは失敗、だから早めに殺してやり直す。」
「今で何回やり直してるんだっけ?」
パルの揶揄うような言葉を思い切り睨みつける。
「ぶっ殺すよ、パル。」
「ルビーって魔力は多いけど運動神経ないんだから無理だよ。」
「そんなの関係ない。」
「運動神経ある奴は戦ってる最中にコケないんだよ? ルビー。」
そんなの知らない。無言で睨みつ続けるとパルは肩をすくめて黙った。
「・・・まあ、時間はちょっとかかるけどやぐらも人を集めるのもできると思うよ。いつやるんだい?」
「いつでもいい。ただ一個条件があって、やぐらの上でユウマの首を撥ねるのは私にやらせて欲しい。でも平等主義の連中にとって銀髪と赤目は全員師匠に見えるみたいだから問題はないと思う。」
「いいんじゃない。」
師匠は至極興味がなさそうに言った。
「私の方が可愛いのになんでかな。」
「・・・ついでにリーダーも代わっておくれよ。どうせその程度の連中なんだから。」
「つまり師匠は私と勘違いされてもいいってことね? よし、それだけ確認出来たらオッケー。」
「やる時は僕も呼んでね。面白そうだから見に行くよ。」
「パルはそれまでにあのドレスを直して。あれ着て処刑するんだから。」
「ああ似合いそうだね。でも黒だと返り血が見えないよ?」
「・・・かと言って真っ白なドレスを着て人を処刑するっていうのもねぇ。どうなんだろ。師匠はどう思います?」
「知らん」
なんとなく王城には戻りたくなかったのでその日は師匠の家に泊まった。酔っぱらって師匠と同じ狭いベッドで眠り、朝目が覚めると師匠の顔が目前にあった。私の寝顔もこんなんなんだろうかと思いながら眺めていると、急に目を開けた師匠に叩かれた。理不尽だ。




