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5.元夫婦の会話(ルビー)

 ユウマの膝でひと眠りすると私はパルを起こしたことなどすっかり忘れていた。思い出したのは夜中、ユウマの寝顔を見ている時だった。


 さすがにそろそろパルも状況を把握しただろうから、今から訪ねてもう一度私を人間に戻す方法について聞いてもいいだろう。パルは何だかんだ言いながら一緒に考えてくれるはずだ、暇だから。でも私はユウマにくっついていられる時間が惜しくてなかなか移動できなかった。


 ユウマはまだ15歳だが王子として色々やるべきことがあり、もう猫と昼寝をしている時間はない。忙しそうなユウマを見ているとそんなに真面目にやらなくていいのにと思う。将来何になるのかは知らないが、私がいればどんな無理でも通してみせるのに。


 だけど私はこれまでユウマと会話しようとは思わなかった。猫の姿で会話してしまえば、猫の姿で認識されてしまう。猫はあくまで借りの姿であって、ユウマは美しい人間の姿の私と恋をしてもらわねばならないのだから。


 それなのになぜかユウマの幼馴染であるシャルルは頼んでもないのに私の言葉を理解した。シャルルはちょっと馬鹿なところがあるがユウマの親友だ。きっと生涯ユウマを支えてくれるだろうから、私は妻としてシャルルとは仲良くしなくてはいけない。


 ユウマが寝返りで反対を向いてしまったので、仕方なく移動してまたユウマの寝顔を見つめた。いつの間にか身長が伸びて声も少し低くなった。きっとここから数年で素敵な青年に成長するだろう。私はそれを近くで見たい。ユウマが学園に通いだせば、きっとユウマを狙う女どもが大挙して押し寄せてくるはずだ。なんとしてもユウマの隣は私が死守しなくてはいけない。なのに。


 私の手は小さくてぷにぷにの肉球がついている。ユウマは可愛いと言ってくれるがこんなんじゃユウマの彼女になれない。私はなんとしてもユウマと一緒に学園に通って恋人になるのだ。やっぱりこんな所で寝ている場合じゃない。私は部屋全体に防御魔法をかけた。これで強い魔力を持つ者以外はこの部屋に入ってこられない。


 私は眠っているユウマの頬にキスをすると、昼間行ったドーナー家の屋敷の廊下へと魔法で瞬間移動した。適当な当たりをつけて部屋の中に入ると、嫌そうな顔をしたパルが私を出迎えてくれた。


「何しに来たのルビー。僕は変身の魔法なんて知らないって言ってるでしょ。」


 パルはソファにふんぞり返って言った。久しぶりに会った元妻に対する態度とは思えない。昔はもうちょっと優しかった気がする。


「だって他に相談できる人いにゃいんだもん。聞いた? 今って魔法使える人が全然いにゃいんだよ?」


 私はパルの隣に座って聞いた。明かりがついていない部屋は薄暗いが、悪魔には関係ない。


「100年前でもすでに魔石使われてなかったもんねぇ・・・シャルルとかは魔力持ってるけど持ってることすらわかってないみたいだし。」


「でしょ? でもまあその代わりに何か色々作ってるみたいだけど。」


 久しぶりのちゃんとした会話はなんだか楽しかった。シャルルとはたまに話すが会話が正しく成立している気がしない。


「ところでさ・・・パルは今、この世界に魔女とか悪魔とか天使がどれぐらいいると思う?」


 私の質問にパルは腕を組んで考え出した。その顔を見ながら変わってないなと思った。まあ魔法で外見年齢を固定してるから当たり前なんだけど。


「・・・東の祠の近くに魔女が一人いるね。あと北の国にも悪魔と天使がいる気がする。たぶん全員僕の知らない奴らだ。」


 私もパルの意見と全く同じだった。


「祠の近くにいるのは私の師匠だと思う。北の国の方は私もよくわからない・・・それでね、問題にゃのは大体の場所はわかってるのにその場所に瞬間移動できなってことにゃのよ。師匠なら私を人間に戻せるかもしれにゃいのに。」


 パルが片眉を上げた。


「出来ないってどういうこと? 前みたいに誰かに妨害されてるの?」


「わからない・・・私が今猫だからかもしれない。あんまり大がかりな魔法は今使えにゃいから。」


「できれば聞きたくなかったんだけどさ。・・・何で猫なの?」


「猫かわいいから。」


 パルは聞くんじゃなかったという風にため息をついた。猫は可愛いじゃないか、好きな人には撫でられたいじゃないか。


「・・・まあいいや、祠ね。」


 パルはそう言って私を抱き上げて膝に乗せた。だが何も起こらなかった。


「やっぱりパルも飛べない?」


「飛べないねえ・・・よく考えたら僕、いつも祠の中に直接飛んでたから周りがどんな所なのか知らないや。ひょっとしてさ、祠なくなってない?」


「魔法がかかってるのに?」


「その師匠とやらが壊した可能性は?」


 予想外の質問に私は頭を抱えた。祠には強めの防御魔法がかかっているので既に存在してないという可能性は考えてなかった。でも・・・


「今祠の近くに飛ぼうとしたけどやっぱり飛べなかった。ユウマのそばを離れるのが嫌でこれまであんまり試してなかったけど、やっぱり私長距離の瞬間移動できにゃくなってるっぽい。」


「ふーん」


 パルがそう言った瞬間、私はパルに抱えられて夜の庭へと移動していた。どこかの貴族の庭らしく奇麗に整えられている。


「ここどこ?」


「ドーナー領のドーナー家の屋敷。僕は普通に長距離も移動できるね。この感じだと北の国も行けそうだけど・・・止めとこう。」


 そう言うと私たちは一瞬で元の部屋へと戻った。


「瞬間移動ができるならその魔女の所に連れて行ってあげてもよかったけど、できないから勝手に行ってなんとかして? もう帰って。」


 パルはそう言うと私をポイッと床に放り投げた。


「にゃんか冷たくない!? 久しぶりに会った元妻にもうちょっと優しくしてもいいと思う。」


「他の男のケツ追いかけまわしてる元妻なんかどーでもいいよ。じゃあね。」


 立ち上がってどこかへ行こうとするパルに飛びついて肩にしがみついた。


「痛いってば! なんなのもー。」


 パルはそう言いながら私を肩から降ろして抱きかかえてくれた。ユウマの方が可愛いけど、パルもなかなか奇麗な顔をしていると思う。


「連れて行ってよパル、私を東の祠まで。」


「は? なんで? ドーナー家にでも頼んで地道に馬車で行けば? 行けない距離じゃないでしょ。」


「私はユウマと離れたくにゃいからやっぱり三人で行こう! 私とユウマとパルで。」


「・・・僕いらないでしょ?」


「あ、ついでにシャルルも連れて行って四人がいい。一緒に行こうよ。どうせ暇でしょ?」


「・・・王子誘拐とか言われるの嫌だから行かない。」


「誘拐って言われにゃければ一緒に行ってくれる?」


「王子がいるってなったら護衛もわんさかついてくるでしょ。やっぱり嫌だ。」


「護衛がシャルルだけで王家から旅行の許可が出れば一緒に行ってくれる?」

 

 パルは大きくため息をついた。


「・・・なんでそこまで僕にこだわるの? 二人で楽しく行けばいいじゃない。」


 パルは完全に呆れた顔をしている。正直途中から私だってそう思ってた。長距離瞬間移動はできなくてもそれなりの魔法は使えるし、どんな暴漢に襲われても私一人で対処できる。だけど。


「だって・・・私が信頼してるのパルだけだもん。」


 パルの腕の中からパルを見上げる。数百年の付き合いだ。愛し合ってたわけじゃないがパルといると落ち着く。あと割と律儀なところがあるので、私を殺すことはあってもユウマが殺されそうになってたら助けてくれると思う。貴様に恨みはない、とか言って。


 じっと見つめているとパルがまたため息をついた。


「・・・わかったよ。同行者が少なくて誰からも文句言われないんだったら付き合ってあげてもいいよ。」


 そう言ってパルは私を床へと放り投げた。


「にゃんでいちいち投げるの!?」


「着地姿が面白いから。・・・もういいでしょ? 帰って。」


 パルはそう言うと部屋を出て行ってしまった。ここが自分の部屋なのにどこへ行くんだろ。まあいいけど。


 私も瞬間移動でユウマの元に戻った。ユウマは何も知らずにスヤスヤと眠っていた。私はユウマの頭に自分の頭を擦りつけて横になった。ユウマが寝ぼけながら私を一瞬だけ撫でた。


 待っててねユウマ。一人で大人にならないでね。



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