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生まれ変わった**は笑う ~三人の悪魔と一人の異世界転生者~  作者: 紫藤しと
第九章 魔女と指輪(マリア)

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魔女と指輪②

 親子が住む村は数年前にならず者の集団に襲われたらしい。奴らは家を焼き、目ぼしいものは全て奪い去って行ったそうだ、彼の母親も含めて。


 たまたま仕事で隣町にいて助かった父親は、奪われた妻を取り戻そうとその集団を何年も追いかけた。そして最近瀕死の状態で村に帰って来たそうだ。


「父さんはそいつらが母さんの指輪を持ってるのを見たんだって。だから、指輪だけでも取り戻そうとして・・・」


 少年は燃やされた家の前で泣き崩れた。成り行きで少年を抱きしめながら、あの母親はとっくに死んでいるのだろうなと思った。父親もそれをわかっているから指輪だけでもとなったのだろう。


「マリアちゃん、砂漠の向こうの人はなんでも願いを叶えてくれるんだろう? 元に戻してよ! 全部、あいつらが来る前に戻してよ!」


 子どもの様に駄々をこねる少年の背をポンポンと一定の調子で叩く。いつから私はなんでも願いを叶えてくれる人になったんだ。私はそんなおとぎ話のような人間じゃない。


 泣き止まない少年をどうしようかと思っていると、初老の男が少年を迎えに来た。父親が危篤だという。少年は泣きながらもなぜか私の手を離さなかったので、私は周りの人間に不審者の様に見られながら少年の父を看取ることになった。

 

 初めて見る少年の父はやはり青い目をしていて息も絶え絶えだった。傷口から悪いものが入ってしまったのだろう。治せないこともないが寿命なので治しても意味がない。


 男は震える手で自分の指から指輪をはずすと少年に渡した。


「この指輪を、お前に。母さんの指輪を取り戻してくれ・・・」


 そして少年の父は同じハンダル領にある大きな町の酒場の名前を告げた。それが少年の父の遺言となった。泣き崩れる少年のそばで私はどんな顔をしていいのかわからず、ただひたすら顔を伏せて過ごした。


 結局私は弔いが終わるまで少年のそばにいた。誰かが支えていないと少年が崩れそうだったからだ。少年は母が連れ去られ父がそれを追いかけて姿を消したため、親戚の家で暮らしていた。弔いが終わった日の夜、私はその親戚夫婦に呼び出された。


「悪いんだけど・・・あの子もいい歳だし、そろそろ家を出て行って欲しいんだ。あんたは砂漠の向こうから来たって言うし、あの子も一緒に連れて帰ってやってくれないか。」


 年老いた夫婦は気まずそうに切り出した。聞けば少年はもう18歳で、村の同年代の人間は全員所帯を持っているらしい。


「あの子は年の割には幼いというか・・・女の子に興味を持ってるのを見たのはあんたが初めてだ。あの子の母親はそれでも隣町の男に見初められて結婚したが、男じゃ無理だろ? だから連れて行って欲しい。一生ここに居られても困るんだ。」


 何が”だから”だと思ったが私は取り合えず頷いた。少年は年の割に小柄で薄い体をしていた。食べさせてもらってないのかそういう体質なのかはわからないが、このままここにいることは少年にとって良い事ではなさそうだ。


 翌日追い立てられるように私は少年をつれて村を出た。少年の荷物は小さな鞄一つに収まった。


「マリアちゃんも一緒にあいつらを追いかけてくれるんだね。」


 嬉しいと少年は笑った。緑の石がついた指輪は少年の手にはまだ大きかったので、紐を通して首にかけてやった。少年と私の背丈は変わらなかったので、取り合えず姉弟ということにして私たちは町を目指した。


 少年は村がもう見えないと言っては泣き、足が痛いと言っては泣き、お腹が空いたと言っては泣いた。正直置き去りにしてもう関わらないでおこうとは何度も思ったが、私の手を握る少年の暖かな手だけがそれを引き留めた。


 一緒に旅をするうちに、少年の情緒不安定さはなりを潜めた。落ち着いた状態になってみるとただ優しいだけの少年だった。優しくて、復讐なんて到底なしえない愚かな少年だった。


 彼の父親が告げた店は、治安が悪そうな地域にある酒場だった。当然のように店に入っていこうとする少年を私は慌てて引き留めてその店を後にした。


 まず、ああいう店は明るい内は誰もいない。そして酒も飲めないような子どもは追い返される。その二点を伝え、宿屋で酒を与えてみると案の定少年は酒を数口飲んだだけで顔を真っ赤にした。それでも飲めると言い張ったが、コップ半分の時点でひっくり返って眠ってしまった。


 私は目立つ銀髪をフードで隠し、再びその店に行った。まだ早い時間だったので店内には下っ端しかいなかった。


「奪った指輪ぁ? いちいち覚えてるかよ。」


 ごもっともなチンピラの言い分に私は深く頷き、ならばわかる奴を出せと言った。


 何人かの骨を折り血だまりで店の床が滑るようになった頃、やっと話が分かる奴が出てきた。男は指輪は既にないと言った。


「どこにやった? 誰が持ってる?」


「ユダって男だ。普段は王都を縄張りにしてる。たまたまこっちに出張ってきた時、俺の女の指輪を見て二束三文で持っていったんだ。」


「元々の指輪の持ち主はどうした?」


「元の?・・・あぁ」


 男が下卑た言葉を口にしようとしたのを察して、私は男の頭をかち割った。聞くんじゃなかった。私は血で汚れたフードを脱いでその男に投げた。男はまだ死んでいないがもうじき死ぬ。


「青い指輪を見つけた奴は私を呼べ。私が買い取ってやるよ。それから緑の指輪を持ってる奴を襲ったら・・・」


 私は店内を見渡して笑った。わざと銀髪を揺らして自分の顔を目に焼き付けさせた。十人ほどの男たちが怯えた顔でこちらを見ている。


「全員殺す。」


 それだけ言って私は店の外に出た。外はもう真っ暗で、少年がお腹を空かして泣いてないといいなと思った。


 あの日怒りや憎しみや苦しみに塗れて悪魔になりかけていた少年は、今やすっかり落ち着きを取り戻していた。最近はまるで本当の姉と旅行しているように楽しそうだ。


 それでも私はナイフを後ろ手に隠したあの少年の姿を忘れていない。胸の緑の炎を灯しつつあった少年の姿を。




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